読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

佐藤優『哲学入門 淡野安太郎『哲学思想史』をテキストとして』(角川書店 2022)

神学者である佐藤優の哲学に向ける視線はいたってドライだ。一般教養を求めて本書を手に取ると、世俗の厳しさを神学的立場から知らないうちに考えさせられることになる。

本書籍が一般購買層に対して優しくない書物となっているのは、本書が神学を専門としようとしている同志社大学神学部・同大学院神学研究科の学生との四泊五日の合宿の講義記録であるためで、神学外部の者への配慮を優先させているためではないところを知っておくべきであると考える。

本書の副題に「淡野安太郎『哲学思想史』をテキストとして」とあるが、淡野安太郎『哲学思想史』の読み解きに現れる不足分について、神学者マクグラス編集の『キリスト教神学資料集』を頻繁に参照し解説を施しているところから、複合的な視点を要請する著者佐藤優の独自の世界観を伝えようとする著作となっている。

基本的にプロテスタンティズムの神学エリートに対する講義なので、そこから外れる一般的な人物にとっては、説かれていることを読んで受容するには厳しい判断を迫られる。プロテスタントの神学からの視線に個々の読者の存在が耐えられるかどうかが問われているところがあると思う。

努力では超えられない個体差と個体差の背景としての家系、そして神による選別。

神に選ばれていない、どう考えてみても一般的能力に及ばない人がどうすべきかというところを、本書から読み取るのは難しいところがある。

容易に希望を抱かせない誠実な書物ではあろうが、かなり読む人を選んでいる著作である。読み通した際に痛みが残ることも覚悟しておいたほうがよい。

 

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【目次】
まえがき――先哲と共に考える学知は役に立つ
一日目
 第一章 哲学とは何かーー「緒言」と序章を読む
 第二章 古代哲学の世界――第一章第一節、第二節を読む
二日目
 第三章 現代につながる古代――第一章第三節、第四節 を読む 
 第四章 思想における中世的世界――第二章第五~第七節を読む
 第五章 近代文化の開花――第三章第八節~第九節を読む
三日目
 第六章 経験論の世界――第三章第十節を読む
 第七章 啓蒙主義の克服――第三章第十一節を読む
 第八章 弁証法的思考と新カント学派――第三章第十二節を読む
四日目
 第九章 唯物論と現代哲学――第三章第十三節、補章、むずびを読む 
あとがき――「正しい戦争」を支持しないために
参考文献一覧


【付箋箇所】
3, 4, 5, 21, 30, 36,46, 51, 53, 54, 69, 89, 94, 101, 120, 124, 135, 148, 159, 184, 196, 200, 201, 225, 232, 236, 245, 251, 274, 276, 284, 288, 291, 292, 297, 304, 306, 308, 320, 324, 328, 334, 339,  340, 344, 348, 364, 375, 378, 379, 381, 385, 391, 396, 403, 420, 429, 434

淡野安太郎
1902 - 1967

ja.wikipedia.org

佐藤優
1960 - 

ja.wikipedia.org

アリスターマクグラス
1953 -

ja.wikipedia.org