読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

海外の詩

モーリス・ブランショ『マラルメ論』(粟津則雄・清水徹訳 筑摩叢書 1977)

ブランショのマラルメ論考を集めた日本独自の書籍。翻訳も各論考もなされた時代にかなりの幅があり、出典も異なっているため、一冊の本として筋の通った展開があるわけではないが、各論考でくりかえしとりあげられるマラルメの言語に対する姿勢が、すこし差…

ジョルジュ・プーレ『人間的時間の研究』(原書 第1巻 1949, 第2巻「内的距離」1952, 筑摩叢書 第1巻 1969, 第2巻 1977 )

日本ではなんでも翻訳されているということはよく言われていることではあるのだが、そんなことはない、ということを知らせてくれる貴重な書物。ヌーヴェル・クリティックの代表的な作品であるジョルジュ・プーレ『人間的時間の研究』(全4巻、1949‐1968)も、…

ジャック・デリダ『哲学のナショナリズム 性、人種、ヒューマニティ』(パリ社会科学高等研究院での原セミネール 1984/85, 原書 2018, 藤本一勇訳 岩波書店 2021)

ハイデガーのトラークル論をデリダが脱構築的に読み直し論じた講義録。単純に詩人トラークルが好きだからということで手に取って読んだとすると、ハイデガーもデリダもなに言ってんのということになりかねないし、トラークルの詩の印象からはかなり隔たって…

アンナ・アフマートヴァ詩集『レクイエム』(木下晴世編訳 群像者ライブラリー 2017)

スターリン圧政下で多くの詩人仲間を失い、夫と息子も逮捕拘禁され、執筆活動も禁止されているなか、ひそかに作られ、監視者に見つからないようにと紙には残さず暗記することで、後にまとめあげられた詩集二作。『葦 1924-1940』と『レクイエム 1935-1940』…

ロビンドロナト・タゴール詩集『螢』(原書 Fireflies 1928 ロンドン, 川名澄訳 風媒社 2010)

タゴールの詩は「すべてのものであるひとつのもの」としての神とともにあることうを詠う詩である。インド、ベンガル州生まれのタゴールの神はブラフマンを感じさせる。彼の詩で謳われる神は、裁く神ではなく、共にあり、創造し生成する神で、その汎神論的で…

ミハイル・レールモントフ『デーモン』(前田和泉訳、ミハイル・ヴルーベリ絵 エクリ 2020)

悲しきデーモン、追放の精霊が罪深き大地の上を飛ぶ なぜに天使は堕ちるのか? それは、能力あるがゆえの過信と傲慢、よかれと思いとった行動が矩を踰えていることに無自覚なため。 冒頭追放されたデーモンがなぜ追放されたかの理由は告げられることはないま…

井上正蔵訳『マルクス詩集』(彌生書房 世界の詩 71 1979)詩人としてのカール・マルクス(1818-1883)

マルクスの詩はおもに大学時代に書かれたもので、情熱的な詩句にあふれている。1836年、18歳のマルクスは四歳年上の姉の友人でもある恋人イェーニーと周囲に秘密のうちに結婚の約束をしている。そのイェーニーに宛てて書かれた詩は、激しくもロマンティーク…

ジョン・ミルトン(1608-1674)『闘士サムソン』(原書 Samson Agonistes 1671年, 小泉義男訳註 弓書房 1980)

『闘士サムソン』は、旧約聖書『士師記』第一三章から第一六章までのサムソンとデリラとペリシテ人たちとの詩句に取材したミルトン晩年の劇詩。復讐劇。妻に裏切られ政治的に敗北し投獄されたうえに盲目での生を余儀なくされたサムソンに、清教徒革命と王政…

訳註 沓掛良彦『ホメーロスの諸神讚歌』(平凡社 2009)

古典注入。岩波文庫に逸身喜一郎+片山英男訳で「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」(1985)があるが、こちらは全訳。全33篇の翻訳と訳注、解題から構成される。本日読んだのは本編と解題。本編だけからでは読み取ることができない詩文に込められ…

松本健二訳『サセル・バジェホ全詩集』(現代企画室 2016 )

サセル・バジェホ(1892-1938)は20世紀初頭のペルーのスペイン語前衛詩人。トリスタン・ツァラやルイ・アラゴン、ピエール・ルヴェルディ、パブロ・ネルーダなどと交流があった海外ではかなり評価の高い詩人(中国語訳やハングル語訳もあるようだ)。本書は…

ジェラール・マセ『記憶は闇の中での狩りを好む』(原書 1993, 水声社 2018)

写真と夢と記憶をめぐる散文詩。 輪郭も存在感もあいまいでありながら執拗に再現してはまとわりつく幻影をいくつも長時間にわたって見せられたかのような読後感を残す作品。でも、まあ、それほど悪いものではない。 思考の明暗の中で、世界のイメージはその…

【20世紀のチリの詩人 パブロ・ネルーダ(1904-1973)2冊】『大いなる歌』(原書 1950, 現代企画室 2018)、『ノーベル賞文学全集 25』(主婦の友社 1974)

スケールが大きすぎて読み終わった後に少し萎えたくらい圧倒的な力量の詩人。40代での代表作『大いなる歌』ではアメリカの南北大陸、国でいえばアメリカからチリ、アルゼンチン、さらに南極まで歌ってしまう大きさ。神話の時代から現代の工場や鉱山での搾…

ウェルギリウス『牧歌・農耕詩』(河津千代訳 未来社 1981)

『アエネーイス』のほかでウェルギリウス(B.C.70 - B.C.19)の代表作とされる二作の日本語訳。訳者である河津千代は本来は児童文学作家で、著作『詩人と皇帝』(アリス館 1975 未読)で初代皇帝アウグストゥス=オクタヴィアヌスと詩人ウェルギリウスとの関…

岩崎宗治編訳『ペトラルカ恋愛詩選』とダンテの詩作

ダンテは9歳の時に同い年のベアトリーチェに出会い、以後の美と聖なるものの方向性が決定した。22歳のペトラルカは1327年4月6日、永遠の愛の対象となるラウラに出会い、以後の詩作の核となるものが刻印された。ダンテとペトラルカは愛すべき対象を…

【読了本七冊】東京美術『もっと知りたい  東寺の仏たち』、ノーバート・ウィーナー『サイバネティクス 動物と機械における制御と通信』、佐藤信一『コレクション日本歌人選 43 菅原道真』、草薙正夫『幽玄美の美学』、トーマス・スターンズ・エリオット『エリオット全集2 詩劇』、アンリ・ミショー『閂に向きあって』、中央公論社『日本の詩歌12』より「野口米次郎」

25~30日に読み終わった本は7冊。 まだ新居で落ち着かない感じをゆっくり言葉でふさいでいる。 東京美術『もっと知りたい 東寺の仏たち』 www.tokyo-bijutsu.co.jp 空海の思想は生の肯定の思想で、第一作『三教指帰』からの文字文献においても艶めかし…

【読了本六冊】新宮一成『ラカンの精神分析』、小林秀雄訳アラン『精神と情熱に関する八十一章』、スラヴォイ・ジジェク『パンデミック』、『[完全版]石牟礼道子全詩集』、冨田恭彦『詩としての哲学 ニーチェ・ハイデッガー・ローティ』、柏倉康夫訳ステファヌ・マラルメ『詩集』

引越しで図書館へのアクセス環境も変わり、自転車10分圏内に3館の公立図書館があるということでひとまず全館に足を向け、棚の並びを実際に見てみた。検索システムではわからない図書館ごとの特徴がいっぺんで分かるのがリアルの世界のいいところ。本の並…

黒百合や朝の牛乳かさね飲む 角川源義

青土社のパウル・ツェラン全詩集全三巻を読み通した後、引越準備もすすめなきゃと思い、読書ノートや学習ノートを整理しているうちに、ふたたび目にとまった一句。牛乳に黒を合わせると世界に緊張がはしる。日本でも、フランスやドイツでも。

四月は残酷な月 トマス・スターンズ・エリオット『荒地 THE WASTE LAND』( 1922 )冒頭四行を吉田健一訳で (ラフマニノフのピアノ組曲第一番「幻想的絵画」を流しながら)

四月に入ってからの引越準備で吉田健一の訳詩集『葡萄酒の色』が出てきたので暫し再読。新しい住まいに移動させる必要があるかないかという視点から所有していた本のうちざっくり1000冊くらいは捨てただろうか。覗きなおしながら捨てていたためちょっと…

宇佐美斉訳『ランボー全詩集』(ちくま文庫 1996 ) 陶酔と忍耐

京大名誉教授で仏文学者である宇佐美斉のランボーは、先行する訳者、たとえば小林秀雄や中原中也などと比較すると、だいぶ穏当な表現になっていて、情動に訴えかけるという面ではすこし物足りないところもあるのだが、フランス近代詩の早熟の天才の感性と令…

メイ・サートン『独り居の日記』( 原書 1973 武田尚子訳 みすず書房 1991, 新装版 2016 )勇者をはぐくむ繊細な日常

小説家で詩人のメイ・サートン五十八歳のときの一年間の日記。小説上で自身の同性愛を告白したために大学の職を追われて田舎に引きこもった際の日々が率直に記録されていて、力づよい。生活と精神に芯のある人間の飾らないことばは、ときどき読み返したくな…

『文選 詩篇 (六)』(岩波文庫 2018)人が動けば人ごとに現われる文様

第六巻は最終巻、引き続き雑詩、雑擬と、先行作品を参照した模擬詩を中心に、さまざまな詩形と内容の詩が収録されている。雑擬は文選のなかに摸倣詩によるアンソロジーが組み込まれているような感じ。 江淹(444-505) 阮步兵 詠懷 籍 靑鳥海上遊鸒斯蒿下飛…

『文選 詩篇 (五)』(岩波文庫 2018)書類に沈む人生と詩

第五巻は楽府、挽歌、雑歌、雑詩を収録。雑歌、雑詩に於いて詩に詠われるもののバリエーションが増え、具体的な日常の様子が詠いこまれるものも現われる。1800年前の事務職従事者の憂いと詠嘆は、今の時代と何ら変わらない。変わってもよさそうなものだ…

『文選 詩篇 (二)』(岩波文庫 2018)思いきれない吐息の昇華

岩波文庫版「文選」の第二冊は、世の混乱のなかを生きる人間の憂い悲しみと超俗願望が多く歌われている。思うようにいかないなか音楽と詩歌が人の心を慰めている。 詠懐詩十七首 其一 阮籍 夜中不能寐起坐弾鳴琴薄帷鑑明月淸風吹我衿孤鴻號外野朔鳥鳴北林徘…

『文選 詩篇 (一)』(岩波文庫 2018)まつりごとにたずさわるひとたちのうた

文選(もんぜん)。紀元前二世紀から約八百年に及ぶ中国詩文の精華。科挙の詩文制作の規範とされたこの詩文集は、収録作品についても多くは高級官僚の手になるもので、基本的に政治についての言及が内容となっている。かりに今の国政や地方行政に携わる人た…

『世界詩人全集 11 ゲオルゲ/ホーフマンスタール/カロッサ』と『世界詩人全集 17 アポリネール/コクトー/シュペルヴィエル』(新潮社 1968)十九世紀末から二十世紀前半期に活動したドイツとフランスの個性的な詩人たち

二冊ともに図書館の貸し出し期間の二週間で二周半くらいづつ読んだ。個性はそれぞれ異なるが、喚起性の強い詩的言語表現をする詩人たち。この六人から何かしら影響を受けて、言葉が漏れ出てくれればと思いながら読んだのだけれど、人や物に接して行動するこ…

川村二郎、小笠原豊樹 編『世界詩人全集 22 現代詩集Ⅲ ドイツ・ソヴェト』(新潮社 1969)20世紀前半の動乱の中で詠ったギリギリの詩

20世紀のドイツとソヴィエトの詩人のアンソロジー。ドイツは第一次世界大戦とナチスに、ソヴィエトはロシア革命によって人生を翻弄された時代の詩人たちとなる。ドイツの詩が観念的で精神世界が描出されるような傾向があるのに対し、ソヴィエトの詩は大地や…

窪田般彌 編『世界詩人全集 20 現代詩集I フランス』(新潮社 1969)「みんなちがって、みんないい」といっていいかもしれない良質なアンソロジー

20世紀フランス、アンドレ・ブルトンのまわりで活動していた13人の詩人のアンソロジー。読むきっかけはピエール・ルヴェルディの詩を佐々木洋以外のチョイスと訳で読んでみたかったため。選択肢で出てきたのが本書で、窪田般彌編訳のルヴェルディ。佐々…

『ピエール・ルヴェルディ詩集』(佐々木洋 編訳 七月堂 2010, 2020 ) シュルレアリスト達に最も偉大な詩人と評価される「誇りの乾いた黒い傷口」のような詩人の詩

冷えた痛みがゆっくり吹きぬけていくような詩の印象。 なにかしら耐えつつ動かなくてはならないようなときのこころの同伴者としてルヴェルディの詩は適している。べつに助けてくれるということはないのだが、ルヴェルディはルヴェルディで詩のなかでしっかり…

藤田治彦『もっと知りたい ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ』(東京美術 2009) ブルジョア出身で贅沢品作成に才能のある芸術家が取り組んだ社会主義への夢

ウィリアム・モリスは世界を美しくしようとした。美しさへの才能が開花したのは著述の世界と、刺繍や染色、カーペット、カーテン、壁紙、タペストリーなどのテキスタイル芸術。 目指すのは争いも苦痛も失敗も失望も挫折もない、人々の趣味道楽だけでうまく回…

マックス・エルンスト『百頭女』(原書 1929, 巖谷國士訳 1974, 河出文庫 1996)切り貼りから生まれる切断と融合、新世界創造の痛みを伴ったエネルギー

マックス・エルンストのコラージュ・ロマン第一弾『百頭女』。複数の重力場、複数の光源、複数のドレスコード、複数の遠近法、複数の世界が圧縮混在する147葉のコラージュ作品とシュルレアリスム的キャプションから成る出口なしの幻想譚。二作目の『カル…