海外の詩
イェイツ自身の詩としては、若かりし日のものも取り上げられてはいるが、基本的にみんな老年になって、それでも大好きなイェイツの、野太くて、それでいて極めて繊細な、極上の詩について語っているという体裁の一冊。 金子光晴と尾島庄太郎の共著となるべく…
イェイツ存命中に戦前日本で出版された研究書。旧字旧かなで横書きという、慣れるまではかなり読みづらい作りの一冊。ただ、内容がしっかりしているのと、詩の訳文が古風で独特な味があるのとで、興味は持続する。イェイツが力を入れた演劇運動についても、…
詩人で英文学者でもあった西脇順三郎によるT・S・エリオットの詩の研究。西脇自身は詩人としてよりも批評家としてのエリオットに才能を感じているようであるが、本書は主として詩人としてのエリオットを取り上げている。ラフォルグ、シモンズ、パウンドとの…
最初期の詩作品から『四つの四重奏』に至るエリオットの詩作の変遷を年代順にたどり解説していく著作。代表的作品をほぼもれなく取り上げているので、実作品を読み直しながらエリオット詩を再吟味するのに合っている。前期の人格が皮肉に分裂してしまってい…
韓国の現代詩人、アン・ドヒョン(安度昡)の第四詩集の邦訳。国内の政治闘争を背景に書かれた詩篇群で、韓国には日本とは別の力学や歴史の時間の流れがあるということを強烈に印象づけてくれる。近年のポピュリズムの動向とは違った、左派リベラルの闘争詩…
19世紀はじめのイタリアの古典的詩人。日本では夏目漱石『虞美人草』、芥川龍之介『侏儒の言葉』、三島由紀夫『春の雪』などに言及されている(本書以外の『断層集』がメイン)。身体の不調もあって悲観主義的な作風ではあるが、同時に不幸を回避しようと…
クレオールの詩学。 クレオールがどういったものかをよく知らない読者にとってはかなり疎外感が持続するので、調べながら読むか、別の著作を経由するかして、徐々に近づいていったっほうが無難な書物。 同業の文学部教授レベルの聴衆に対しての講演とその質…
20世紀における二つの世界大戦と冷戦期の混迷の只中で詩作を続けた多産のポーランド語詩人チェスワフ・ミウォシュの作品から14人の翻訳者がそれぞれ選び日本語化したことで成立した日本独自の詩選集。辛辣ながらも人に刺激を与え反省と再考を促し今現在…
リトアニア系ポーランド人の詩人、1980年ノーベル文学賞受賞者、チェスワフ・ミウォシュが戦時下の1943年に地下に潜行していた時期に書かれた詩篇。ナチスドイツ占領下のどん底の状況にあって、平易な言葉を用いて子供に読み聞かせるために書かれた…
シンボルスカ、ミウォシュと並び立つ20世紀後半のポーランド詩を代表する詩人、ズビグニェフ・ヘルベルトの翻訳詩集。 冷戦期ポーランドの反体制派(反ソ連)の骨太の詩人。 茫然とするようなことどもを平然と受け入れられるよう時間をかけて醸成し、しっか…
濃密で匂い立つようなアイルランドの風土を豊饒な言語で描き出しているシェイマス・ヒーニーの詩作品、その第一詩集から第八詩集まで集成した大部の詩集。日本での編集翻訳刊行年に丁度ノーベル文学賞が決まったというのだから、出版に携わった人たちの眼力…
七世紀アイルランドの狂える王スウィーニーの伝説を描いた『スウィーニーの狂気』のアイルランド語テキストをノーベル文学賞詩人シェイマス・ヒーニーが英語に翻訳再編集した物語詩。 キリスト教の高位聖職者のローナンが教会の敷地を新たな教会のために割り…
1995年にノーベル文学賞を受賞したアイルランド出身の英語詩人の晩年の三詩集。 濃密で匂い立つような田園と都市の時空間を、豊かな語彙でしっかりと、だが軽快さをもって描き上げている、落ち着きとユーモアとノスタルジーにあふれた作品群。素朴である…
正字・正かなのドイツ語訳詩集。19世紀後半から20世紀初頭に活動した詩人を中心に31名140余篇を収める。正字・正かなであるが故のエレガントさと清々しさがあってちっとも古い感じはしない。 以下は収録詩人で題名をあげた作品には読みながら付箋を…
法悦(エクスターズ)が〔人間を〕有限から解放していた。ところがその有限が法悦への道なのであった。(「最後の小筺の鍵」より) 中世の楽天的な象徴的構造の世界から科学の光によって分離されてしまった近代の有限で相対的な世界のなかで、有限を超えた無…
西脇順三郎の詩の翻訳は基本的に原作に忠実ではあっても西脇的語調と世界観に移しかえられているために独自色が強く、読み取りやすく印象にも残りやすいものになっている。 ベラボウメおめえの面なんざみっともなくって見られやしねえと言ったじゃないかよ。…
20世紀初頭のフランス詩人ヴィクトル・セガレンの韻文詩篇集。中国とチベットの古代からの高貴さに包まれた文化風土をフィクションで飾りつつ讃え謳うセガレンの憧憬の歌。有田忠郎の気品ある訳文のおかげもあってか、セガレンの豊かで彫琢された言葉の数…
『ギターンジャリ』に次ぐタゴール自身による英語訳選詩集。30代に母語ベンガル語で表現した詩篇を50代初頭に選択し英訳して汎世界に向けて解き放った詩篇85篇。複数の詩集から選択再構成されているようではあるが、再構成して一冊の恋愛詩篇として構…
最新の韻文訳。訳注も充実。 とりあえず通読の記録。 本文以外に場面転換部分が示されていないので、本書のみで読む場合には注意が必要になってくる。 現代人が西欧古典の核心部に親しみはじめるきっかけとなる貴重な刊行物。 きっかけがあれば現代東洋人で…
悪意にも境を接しているような辛辣なまでの知性のはたらきと、そこから生み出されている芸術の際立った生動と過剰さに促されるようにして書かれたヴァレリーのエッセイ。ドガのデッサンの木版画と銅版画による複製51枚とともに、刊行された最初の形態に沿…
ボードレールとランボーとマラルメの詩作を鑑として書かれたボヌフォワの重厚な詩論と芸術論。 エッセイ「ユーモア、投射影」の訳注には「ボヌフォワはランボーの言う「抱き締めるべきざらざらした現実」(『地獄の季節』所収「別れ」)を存在の真理として提…
日本語に翻訳されてもなお失われないバイロンの詩句の疾走感。 詩人シェリーとその文化圏との交友関係のなかから生まれたゴシックロマンスの初期傑作『フランケンシュタイン』『ヴァンパイア』とも精神的に繋がる世界観のなかで生きた詩人の姿を、本人の特徴…
『ドン・ジュアン』(1819年 - 1824年)は作者の死によって中断された未完の大作。物語詩と諷刺詩の混淆様式で、巻を追うごとにリアリティよりも語り手の脱線を含んだよろず語りに比重が置かれるようになる。ワーズワースの詩を崇高一辺倒と馬鹿にしながら自…
ラ・フォンテーヌの寓話239篇からドレの挿絵のある86篇を選んで訳出した一冊。同じくドレ挿絵のラ・フォンテーヌの寓話の現代版訳書、谷口江里也翻案・解説の現代版『ラ・フォンテーヌの寓話 ドレの寓話集』もあるが、窪田般彌の訳書は17世紀の原文を…
『青い鳥』(1907)の作者モーリス・メーテルリンク(1862-1949)の20代の処女詩集。 己の魂が温室のなまあたたかい環境のなかで倦怠感をもって過ごしていることを歌い、清冽な外部の侵入をロマンティックに請い願うという構えがベースとなっている抒情詩集。 …
20世紀のフランスを代表する詩人のひとりイヴ・ボヌフォアの重厚なテクストとともにアルベルト・ジャコメッティの生涯と創作の軌跡をたどることができる充実した作品集。 本書は20年ほど前に池袋西武の三省堂美術洋書コーナーにて9000円くらいで購入…
実現はしなかったがイタロ・カルヴィーノとクラウディオ・ルガフィオーリとともにイタリア文化のカテゴリー的な諸構造を探求するための雑誌刊行を企画していたことがベースとなって考えられ書きつづけられたエッセイの集成。 そっか、カルヴィーノとアガンベ…
現代文学において詩というと抒情詩を思い浮かべるのが常ではあるが、しばらく前までは物語詩や叙事詩、劇詩のほうが一般的であったといってよいだろう。ホメロス、ウェルギリウス、ダンテ、シェークスピア、ミルトン。日本でいえば平家物語や世阿弥・金春禅…
大正14年9月、10年ほどの間に訳しためていたフランスの最新の詩人たちの詩を集めた大部なアンソロジー。66人339篇にわたる訳業は、まとめるにあたっては、フランスの最新の詩の動向を伝えることはもちろん、日本語における詩の表現の見本となるこ…
旧東ドイツの詩人ペーター・フーヘル(1903-1981)の生前刊行詩集全五冊のうちから代表的な第一詩集『詩集』(1948)と第二詩集『街道 街道』(1963)を全訳刊行したもの。 ペーター・フーヘルは1946~62年までの間国際的な文芸雑誌『意味と形式』の編集者で…