読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

海外の詩

イヴ・ボヌフォワ『マラルメの詩学』(原著 1976,1992,1995,1996 訳:阿部良雄+菅野昭正 筑摩書房 2003)

法悦(エクスターズ)が〔人間を〕有限から解放していた。ところがその有限が法悦への道なのであった。(「最後の小筺の鍵」より) 中世の楽天的な象徴的構造の世界から科学の光によって分離されてしまった近代の有限で相対的な世界のなかで、有限を超えた無…

『西脇順三郎コレクションⅢ 翻訳詩集』(慶應義塾大学出版会 2007)

西脇順三郎の詩の翻訳は基本的に原作に忠実ではあっても西脇的語調と世界観に移しかえられているために独自色が強く、読み取りやすく印象にも残りやすいものになっている。 ベラボウメおめえの面なんざみっともなくって見られやしねえと言ったじゃないかよ。…

『セガレン著作集〈6〉碑、頌、チベット』(訳:有田忠郎 水声社 2002)

20世紀初頭のフランス詩人ヴィクトル・セガレンの韻文詩篇集。中国とチベットの古代からの高貴さに包まれた文化風土をフィクションで飾りつつ讃え謳うセガレンの憧憬の歌。有田忠郎の気品ある訳文のおかげもあってか、セガレンの豊かで彫琢された言葉の数…

ラビンドラナート・タゴール『庭師 散文詩集』(原著 1913, 訳:内山眞理子 未知谷 2024)

『ギターンジャリ』に次ぐタゴール自身による英語訳選詩集。30代に母語ベンガル語で表現した詩篇を50代初頭に選択し英訳して汎世界に向けて解き放った詩篇85篇。複数の詩集から選択再構成されているようではあるが、再構成して一冊の恋愛詩篇として構…

オウィディウス『変身物語』(講談社学術文庫 2023)

最新の韻文訳。訳注も充実。 とりあえず通読の記録。 本文以外に場面転換部分が示されていないので、本書のみで読む場合には注意が必要になってくる。 現代人が西欧古典の核心部に親しみはじめるきっかけとなる貴重な刊行物。 きっかけがあれば現代東洋人で…

ポール・ヴァレリー『ドガ・ダンス・デッサン』(原著 1936, 訳:塚本昌則 岩波文庫 2021)

悪意にも境を接しているような辛辣なまでの知性のはたらきと、そこから生み出されている芸術の際立った生動と過剰さに促されるようにして書かれたヴァレリーのエッセイ。ドガのデッサンの木版画と銅版画による複製51枚とともに、刊行された最初の形態に沿…

イヴ・ボヌフォワ『ありそうもないこと 存在の詩学』(原著 1980, 1992, 訳:阿部良雄、田中淳一、島崎ひとみ ほか 現代思潮社 2002)

ボードレールとランボーとマラルメの詩作を鑑として書かれたボヌフォワの重厚な詩論と芸術論。 エッセイ「ユーモア、投射影」の訳注には「ボヌフォワはランボーの言う「抱き締めるべきざらざらした現実」(『地獄の季節』所収「別れ」)を存在の真理として提…

『対訳 バイロン詩集 イギリス詩人選8』(編訳:笠原順路 岩波文庫 2009)

日本語に翻訳されてもなお失われないバイロンの詩句の疾走感。 詩人シェリーとその文化圏との交友関係のなかから生まれたゴシックロマンスの初期傑作『フランケンシュタイン』『ヴァンパイア』とも精神的に繋がる世界観のなかで生きた詩人の姿を、本人の特徴…

バイロン『ドン・ジュアン』(訳:東中稜代 音羽書房鶴見書店 2021)

『ドン・ジュアン』(1819年 - 1824年)は作者の死によって中断された未完の大作。物語詩と諷刺詩の混淆様式で、巻を追うごとにリアリティよりも語り手の脱線を含んだよろず語りに比重が置かれるようになる。ワーズワースの詩を崇高一辺倒と馬鹿にしながら自…

ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ『ラ・フォンテーヌの寓話』(訳:窪田般彌, 沖積舎 2006)

ラ・フォンテーヌの寓話239篇からドレの挿絵のある86篇を選んで訳出した一冊。同じくドレ挿絵のラ・フォンテーヌの寓話の現代版訳書、谷口江里也翻案・解説の現代版『ラ・フォンテーヌの寓話 ドレの寓話集』もあるが、窪田般彌の訳書は17世紀の原文を…

メーテルランク詩集『温室』(原著 1889, 訳:杉本秀太郎 雪華社 1985)

『青い鳥』(1907)の作者モーリス・メーテルリンク(1862-1949)の20代の処女詩集。 己の魂が温室のなまあたたかい環境のなかで倦怠感をもって過ごしていることを歌い、清冽な外部の侵入をロマンティックに請い願うという構えがベースとなっている抒情詩集。 …

イヴ・ボヌフォワ『ジャコメッティ作品集 ―彫刻・絵画・オブジェ・デッサン・石版画―』(原著 1991, 訳:清水茂 リブロポート 1993 本体37500円)

20世紀のフランスを代表する詩人のひとりイヴ・ボヌフォアの重厚なテクストとともにアルベルト・ジャコメッティの生涯と創作の軌跡をたどることができる充実した作品集。 本書は20年ほど前に池袋西武の三省堂美術洋書コーナーにて9000円くらいで購入…

ジョルジョ・アガンベン『イタリア的カテゴリー ―詩学序説―』(原著 1996, 増補版 2010, みすず書房 2010)

実現はしなかったがイタロ・カルヴィーノとクラウディオ・ルガフィオーリとともにイタリア文化のカテゴリー的な諸構造を探求するための雑誌刊行を企画していたことがベースとなって考えられ書きつづけられたエッセイの集成。 そっか、カルヴィーノとアガンベ…

ベルトルト・ブレヒトの詩の本2冊 ブレヒトコレクション3『家庭用説教集』(原著 1927, 晶文社 1981 訳:野村修, 長谷川四郎)、大久保寛二『ベルトルト ブレヒト 樹木を歌う』(新読書社 1998)

現代文学において詩というと抒情詩を思い浮かべるのが常ではあるが、しばらく前までは物語詩や叙事詩、劇詩のほうが一般的であったといってよいだろう。ホメロス、ウェルギリウス、ダンテ、シェークスピア、ミルトン。日本でいえば平家物語や世阿弥・金春禅…

堀口大學訳『月下の一群』(初版 1925, 岩波文庫 2013)

大正14年9月、10年ほどの間に訳しためていたフランスの最新の詩人たちの詩を集めた大部なアンソロジー。66人339篇にわたる訳業は、まとめるにあたっては、フランスの最新の詩の動向を伝えることはもちろん、日本語における詩の表現の見本となるこ…

『ペーター・フーヘル詩集』(小寺昭次郎訳 積文堂 2011)

旧東ドイツの詩人ペーター・フーヘル(1903-1981)の生前刊行詩集全五冊のうちから代表的な第一詩集『詩集』(1948)と第二詩集『街道 街道』(1963)を全訳刊行したもの。 ペーター・フーヘルは1946~62年までの間国際的な文芸雑誌『意味と形式』の編集者で…

ヴラジーミル・マヤコフスキー『一五〇〇〇〇〇〇〇』(原著 1921, 小笠原豊樹訳 土曜社 マヤコフスキー叢書7 2016)

表題はロシアの総人口数1億5千万からとられたもので、ロシア革命後に書かれた二番目の長篇詩。 アメリカ側をウィルソンとロシア側をイワンとして、20世紀のトロイ戦争として両大国の間の闘争を詠った長篇叙事詩。ロシア側の革命を賛美し、ロシア側の優位…

ルイス・キャロル『シルヴィーとブルーノ』(原著 1889, 柳瀬尚記訳 ちくま文庫 1987)

ルイス・キャロル晩年の長編小説。妖精世界と現実世界の往還記で、語り手が眠気に似た妖氛に包まれると妖精の世界に入り、妖氛が消えると現実世界に戻るという仕組み。現実世界のほうでは語り手の友人アーサーの恋愛譚が軸となって展開しているのでストーリ…

セルゲイ・エセーニン『エセーニン詩集』(内村剛介訳 彌生書房 世界の詩53 1968)

1914年19歳の時から詩作をはじめ、1925年30歳で自ら命を絶つまでの約10年間が詩人の活動期間。本書は初期詩篇として3篇が採られた以外は、1922年以降のアルコール中毒と奇行ともめ事のなかで創られた破滅に向かう自己憐憫と呪いと自己嘲…

編訳:小笠原豊樹+関根弘『マヤコフスキー選集Ⅲ』(飯塚書店 1958)

決して大衆向けとは思えない長編叙事詩や戯曲を持って数多くソヴィエト各地を回り朗読をしていたという30代のマヤコフスキー。映画やラジオも出てきた時期とはいっても、詩人自身の朗読は魅力的であったのだろうが、聴くだけで本当に分かったのだろうかと…

編訳:小笠原豊樹+関根弘『マヤコフスキー選集Ⅱ』(飯塚書店 1964)

第一巻の詩論「いかに詩をつくるか」で取り上げられたエセ―ニン追悼詩篇「セルゲイ・エセーニンに」が収められている。詩論では冒頭の4行が取り上げられるのみで、それが詩篇全体、四行詩であるかのようであったが、実際は変則形式の273行の詩篇で、資質…

アレクサンドル・ブローク『ブローク詩集』(小平武訳 彌生書房 1979)

アレクサンドル・ブロークはロシア・シンボリズムを代表する詩人。理想的美と現実生活における腐敗堕落のはざまを詩とともに生きた自己劇化傾向の強い人物であると思う。本書『ブローク詩集』は三つの部分に分けられた抒情詩と革命下のボルシェヴィキ軍を詠…

I.A.リチャーズ『実践批評 英語教育と文学的判断力の研究』(原著 1929, 坂本公延編訳 みすず書房 2008)

リチャーズがケンブリッジ大学の学生に対し、作者名とタイトルを伏せた13編の詩を配布し、それぞれにレポートを書くことを求めた実験に基づいていて編纂された、詩の鑑賞から見た批評の諸問題に関する研究分析の書。詩への既得反応、先入観、韻律への鈍感…

編訳:小笠原豊樹+関根弘『マヤコフスキー選集Ⅰ』(飯塚書店 1966)

マヤコフスキー(1893-1930)は20世紀初頭のロシア未来派、ロシア・アヴァンギャルドを代表するソ連の詩人。ロシア・フォルマリズムの理論家ローマン・ヤコブソンなどとも交流があり、文学的な存在としては今日の日本においても依然大きいのではないかと考え…

藤富保男訳編『エリック・サティ詩集 増補版』(思潮社 1997)

既成の音楽の概念におさまらないような曲を書き続けたエリック・サティが楽譜に書いていた文章を、日本の詩人藤富保男が拾い集めて翻訳し、行分け詩の形に整えた作品集。音楽同様、いい感じに力を抜けさせてくれる。実生活では貧困とアル中とでたいへんなよ…

エズラ・パウンド『消えた微光』(原著 1908, 1965 小野正和+岩原康夫訳 書肆山田 1987)

仮面をつけると仮面の人格が憑依する。そのような憑依体質をもった人が詩人たるには相応しいのであろう。 なにものかになりかわって歌う。なにものかをよびよせて歌う。わたしとなにものかが二重写しとなってことばを発する。エズラ・パウンドの処女詩集『消…

『シレジウス瞑想詩集』(原著 1657,1675, 訳:植田重雄+加藤智見 岩波文庫 1992 全二冊)

ドイツ・バロック期の神秘主義的宗教詩人アンゲルス・シレジウス(1624-1677)。もともと医学を学んでいたが、オランダのライデン大学で学んでいた時期にヤコブ・ベーメの思想に出会ったことがきっかけで、エックハルトやタウラーなどのドイツ神秘思想に関心を…

ペトラルカ『カンツォニエーレ』(池田廉訳 名古屋大学出版会 1992)

ペトラルカの『カンツォニエーレ 俗事詩片』の全訳、全366歌。選集とは違った味わいがあるので全訳があることは大変貴重。 軽快、快活、ユーモラスな第一部と、愛の対象たるラウラを亡くして後の悲哀と栄光に彩られることの多い第二部との対象も見どころ…

ピエル・パオロ・パゾリーニ『パゾリーニ詩集』(四方田犬彦訳 みすず書房 2011)

訳者である四方田犬彦が畏友中上健次の死で落ち込んでいたときにはじめた仕事。鬱屈と喪失感から逃れるためには、パゾリーニの詩は、よき道連れとなったであろうと思われる。さまざまな闘争のなかで、多くは敗れ、傷つき、孤立し、なんとか回復を期そうと綴…

近藤恒一『ペトラルカ 生涯と文学』(岩波書店 2002)

ペトラルカの父、セル・ペトラッコはダンテと同じく教皇派の白派に属しており、ダンテ同様フィレンツェから追放、財産も没収された受難の人であった。 息子のペトラルカも幼くして生まれ故郷のイタリアを離れ、21歳の時には父を失い、後ろ盾のない苦難の非…