2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧
日本最初の洋画家と言われる高橋由一画業をカラー図版48点と、絵画に強い比較文学者であり作家の芳賀徹のエッセイ「洋画道の志士――高橋由一の精神史」と、美術評論家青木茂による評伝・作品解説からたどる大型本の作品集。 残存作品が限られているというこ…
岡鹿之助の作品は、ある時いっぺんに粒子化して霧散してしまいそうな儚げな佇まいを持っている。 煙突から煙が出ていたり、花瓶に花が生けられていたり、道には轍や人が歩いた跡があったりして、日常的なところも描かれているのに、この人の作品からは、人の…
小笠原鳥類、変な名前の詩人。 21世紀の日本現代詩の世界では無視することのできない詩人であるという認識はあったものの、実際に書店で彼の詩集を手に取ってみると、これはキワモノかという思いに駆られ、自腹を切ることに躊躇したことの記憶がわりと鮮明…
主著『崇高の修辞学』(月曜社 2017)から4年、2010年から2019年までのあいだに発表してきた単独の論文やエッセイを「崇高」「関係」「生命」という3つのテーマのもとに集めてリライト・再編集して出来上がった美学論集。芸術作品そのものを語るより…
谷川俊太郎、88歳から89歳にかけて書かれた新作の十四行詩、88篇。 短い行脚で、繰り返し読んでいると、息継ぎのリズムが心の芯に染み透ってくるような、静かで清められた言葉の力を感じる。 最長で11字、「沈黙を抱きとめる夕暮れ」「決してなくな…
「俊頼髄脳」は源俊頼(1055-1129)が時の関白藤原忠実の依頼で、のちに鳥羽上皇に入内し皇后康子となる娘勲子のために著した歌論書。成立は1113年ころ。歌論集としてはかなり初期のもの。 社交のツールとして頻繁に使われていた和歌についての素養を身につけ…
中世哲学自体が錯綜していることもあってか著者の熱意にもかかわらず入門書としてあまり整理されているとはいえないという印象を持った。著者と中世哲学とのかかわりについての昔語りや、中世哲学者の思想読解にかかわる困難さに対する嘆きが頻繁にちりばめ…
これはおそらくあとからじわじわ効いてくるタイプの著作である。 初読で雷に打たれるようなタイプの作品ではない。 カントの三大批判を個人全訳した著者による、カントの晩年様式としての著作『判断力批判』の手堅い読解の書。 本書の感触といては、教育者と…
『純粋理性批判』と『実践理性批判』のあいだをつなぐ第三批判書。強力なペシミズムと強力なオプティミズムが同居しているところ、人間の生まれながらの三つの心の能力(理性、悟性、判断力)の機能を隙なく理論的に組み上げているところ、非人情に徹してい…
毛利武彦の名前を知ったのは、たしか有田忠郞の詩集のなかでのこと。本書の巻頭には詩人阿部弘一の詩が寄せられており、詩人との相性が良かったことがうかがわれる。 ちなみに阿部弘一はフランシス・ポンジュのや訳者で、有田忠郎はサン=ジョン・ペルスの訳…
頽廃美。20世紀の戦争への怒りを込めた攻撃的な作品群は多くのシュルレアリストたちに受け入れられ、日本では1965年以降の澁澤龍彦の紹介によって広く知られるところとなったハンス・ベルメールは、20世紀ドイツの人形作家かつ写真家であり、画家と…
既成の音楽の概念におさまらないような曲を書き続けたエリック・サティが楽譜に書いていた文章を、日本の詩人藤富保男が拾い集めて翻訳し、行分け詩の形に整えた作品集。音楽同様、いい感じに力を抜けさせてくれる。実生活では貧困とアル中とでたいへんなよ…
しっかり学ぶと人生がちょっと変わってしまうであろうことを予感させる美学の教科書。 カントの『判断力批判』の第一部を詳細に解説しながら、関係する先行作品と現代にいたるまでの後続の美学一般の論考に言及し、カントの論考の深さと広さを伝えてくれる優…
2023年4月刊行の本書は、現時点での國分功一郎の最新刊。 主著『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社 2011, 新潮文庫 2021)の思考を継承進化させた現在を、講義・講和のかたちで現代をともに生きる人たちに対して問い直すようにして語られた問題提起の著作…
1971年から2001年の三十年間で22刷りされている本書はカント入門書のなかでも名著の部類に入るのであろう。新書版150ページに三大批判書と遺稿、『単なる理性の限界内における宗教』『プロレゴーメナ』『道徳形而上学言論』など主要著作を幅広…
プラトン、カント、ヘーゲル、ニーチェ、ハイデガー、メルロ=ポンティの芸術哲学の本流ともいえる流れを基本に、アラン、ショーペンハウアー、ボードレール、ヴァレリー、バシュラールなどの彩り豊かな芸術論者を配する、西欧芸術論を概観するのに優れた軽…
バウハウスで教鞭をとっていたパウル・クレーであるが、弟子を探そうとするとハンス・フィッシャーくらいしか出てこない。 画家というよりも絵本作家で、クレーの作品や教えからどのような影響があるのか、グリムの童話一作を一枚の絵の中に描く手法(一枚絵…
私が生まれた1971年の世界の人口は37憶、今年2023年は80憶を超えているという。50年で倍増、40億人増加している。西暦1000年時点では2億人くらいだそうだから、世界の様相が変わっていかないほうがおかしい。人口過剰と言われつつ世界…
マチネ・ポエティクとは、太平洋戦争中の1942年に、日本語による定型押韻詩を試みるためにはじまった文学運動。詩の実作者としては福永武彦、加藤周一、原條あき子、中西哲吉、白井健三郎、枝野和夫、中村真一郎が名を連ねている。後に散文の各分野にお…
仮面をつけると仮面の人格が憑依する。そのような憑依体質をもった人が詩人たるには相応しいのであろう。 なにものかになりかわって歌う。なにものかをよびよせて歌う。わたしとなにものかが二重写しとなってことばを発する。エズラ・パウンドの処女詩集『消…
カラー図版48点、モノクローム挿図33点。1作品ごとに解説を見開きで配してあるために、参照していると考えられる先行作品との関連や、採用されているエルンストが開発した多様な表現技法の数々についての焦点化が非常にわかりやすい。 河出書房新社刊行…
シリーズものにはかなり当たりはずれがあって、本シリーズ、河出書房新社の「骰子の7の目 シュルレアリスムと画家叢書 全6巻」はかなりの当たり。画家の全画業をまんべんなくピックアップしながら、図版として選択されている作品は代表作と注目作両方に目…
貧困と自閉的な精神的障害のなかで生前誰にも見せることなく孤独に創造の世界に過ごしたヘンリー・ダーガー。死後にダーガーの部屋に残されていた原稿と画集を大家であるネイサン・ラーナーが見つけ、芸術的価値を感じて長年保存、美術関係者や研究者への普…
『百頭女』『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』に次ぐコラージュ・ロマン三部作の最終巻。小説と銘打ちながら、章ごとの冒頭にエピグラフとして引かれる他者の文章以外には、エルンストがつけた章題のほかに文章が全くない徹底的で斬新な一冊。2…
ヴァイマール・バウハウスでの1921-22年に行った形態論の授業のエッセンスを編集し刊行した実践的理論書。『造形思考』や『無限の造形』にくらべるとコンパクトで、メモ程度の文章に最低限のスケッチをつけポイントのみを浮かび上がらせた簡潔な手引書の印象…
壮年のロラン・バルトがフランス国立民衆劇場の機関紙的位置を占めていた『民衆劇場』誌でブレヒト派の劇評家として活躍していた時代の作品。理論的背景やバルトならではのエレガンスさはしっかり融合されてはいるが、ジャーナリスティックな論争姿勢が顕著…