読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

マックス・エルンスト『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』(原書 1930, 巖谷國士訳 1977, 河出文庫 1996)どこか高貴さを感じさせるシュルレアリスム的エログロナンセンスのテキストとイラスト

「たいていの本はうしろから読むのがよい」というのは、カフカを語った時のピアニスト高橋悠治のことば。関心はあるのに、あまり身にはいってこない作品に出会ったときに、たまに私が実践してみる本の読み方。マックス・エルンストのコラージュ・ロマン『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』は、虐待に遇った少女が修道院に入ってすぐに見たあやしい夢のお話。これといった筋はなく死と暴力と獣性とかすかな聖性を感じさせる文章が、コラージュ挿絵とともに提示される。いったん頭から普通に読み通し、エルンストの画集を見た後に、もう一度頭から読み、後ろから折り返し読んで、挿絵も見直した。断片的なものだから、後ろからでも読みやすい。特に挿絵のコラージュ作品は、頭から読んでいた時にはテキスト優先となって見えてこなかったものが見えてきて面白い。ページの移り方が右から左の順方向から、左から右への逆方向になることもあって見る角度も若干変わったことで受け取る情報の量が増えたりもする。

私の白い服の下へ、私といっしょにいらっしゃい、新聞を読んでいるとてもおそろしいイナゴたち! 小さな目をいっぱいに見ひらきなさい・・・(p81)

河出文庫版には本篇のほかに、自身を自ら語ったテキストと画家自身のコラージュ論、巖谷國士マックス・エルンスト論が併載されていてエルンストを知るには大変整った作りとなっている。特に他の画家を語っているエルンストの言葉は鋭く、傾聴に値する。

たとえばマグリット、彼のタブローは完全に手書きによるコラージュであるし、ダリもそうだ。
(「ウィスキー海底への潜行」p214)

マグリットについてのことばは、たとえば「これはパイプではない」や「ピレネーの城」を思い浮かべていただくとぴったり当てはまることがわかると思う。

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目次:
カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢
   *
M. E. の青春についての若干のデータ
ウィスキー海底への潜行――コラージュ論
   *
コラージュ・シュルレアリスト (巌谷国士)


マックス・エルンスト
1891 - 1976
巖谷國士
1943 -