読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ペル・ジムフェレール『<現代美術の巨匠> MAX ERNST マックス・エルンスト』(原書 1983, 美術出版社 椋田直子訳 1990) 多くの技法と作風を持つシュルレアリスムの代表的画家

先日、マックス・エルンストのコラージュ・ロマン三部作の第二作『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』を読んだものの、コラージュ・ロマンというものに対する理解があまりなかったものだから、本業の絵画作品に触れてみることにした。コラージュ・ロマンに関係する図版は、本書で83から90の8点が見開きで収められている。19世紀の通俗小説につけられた挿絵をベースにして、その原典の甘美なイメージとは齟齬をきたし不穏さをもたらす異質な図像を張り付けてコラージュ作品を作り、別の世界を生み出している。コラージュ・ロマンはそのコラージュ作品に、幻想的なテキストを添えて仕上げた物語作品ということであった。『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』は河出文庫から出ているもので、サイズの制限もあって挿絵部分が少し見づらいという難点があった。本書では比較的大きなサイズで再確認出来たので、コラージュ・ロマンの作成意図がよりストレートに伝わってきてくれた。あらためて文庫版に接してよりよく味わい直したいという思いをもった。

本書収録の図版数は全176点。マックス・エルンストの幅広い画風に触れることができる。技法としてはコラージュ、フロッタージュ、ドリッピング、デカルコマニーなどをとりいれて新しい画面を作り出している。また、その作風は多岐にわたりさまざまな周辺人物を想起させる。デ・キリコデュシャンマグリット、ダリ、シャガール、クレーなど。古いところではグリューネヴァルトとも親近性を感じさせる作品も多い。市民的で穏やかな鑑賞眼にゆさぶりをかけ不安を醸す作品が多くを占める為、127ページ、176点の作品を一点ずつ見ていくと、美術本としてはそれほどの大冊ではないにもかかわらず、精神的にも体力的にもかなり疲れる。少年時に見たという幻覚に強いられるように描かれたイメージの数々は、画家としての技術と方法論によって磨き上げられ、ときに驚異的な作品として鑑賞者にせまってくる。不穏で見るのが厄介な部分も持ち合わせている作家なのだが、シュルレアリスムの作家たちのなかでもとりわけ貴重な人物であると今回あらためて感じた。


マックス・エルンスト
1891 - 1976