読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

中村俊定校訂『芭蕉七部集』(1966)

独吟ではない連句を読んだことで、俳諧の師匠としての芭蕉の様子が少しうかがえたような気がした。一瞬で情景を変える句の鮮やかさ、発する言葉の切断力が、門人たちとの格の違いを見せている。

七部集で出会うことのできる門人のなかでは、精神性の高い丈草(丈艸)の句がいいと思った。

 

内藤丈草(丈艸)の句

 『猿蓑』
幾人かしぐれかけぬく勢田の橋
まじはりは紙子の切(きれ)を譲りけり
背戸口(せどぐち)の入江にのぼる千鳥かな
水底を見て来た貌(かお)の小鴨哉
しずかさを數珠もおもはず網代
一月(ひとつき)は我に米かせはちたゝき
ほとゝぎす瀧よりかみのわたりかな
隙明(ひまあく)や蚤の出て行(ゆく)耳の穴
京筑紫去年の月とふ僧中間
行秋の四五日弱るすゝき哉
我事と鯲(どぜう)のにげし根芹哉
眞先に見し枝ならんちる櫻

『炭俵』
大はらや蝶の出てまふ朧月
うかうかと來ては花見の留守居
雨乞の雨氣(あまけ)こはがるかり着哉
悔(くやみ)いふ人のとぎれやきりぎりす
芦の穂や貌撫揚(なであぐ)る夢ごゝろ
水風呂の下や案山子の身の終
黒みけり沖の時雨の行(ゆき)ところ
榾の火やあかつき方の五六尺

『続猿蓑』
角(すみ)いれし人をかしらや花の友
ほとゝぎす啼(なく)や湖水のさゝ濁(にごり)
舟引の道かたよけて月見哉
ぬけがらにならびて死(しぬ)る秋のせみ
借りかけし庵の噂やけふの菊
小夜ちどり庚申まちの舟屋形
あら猫のかけ出す軒や冬の月
思はずの雪見や日枝(ひえ)の前後
鼠ども出立(でたち)の芋をこかしけり

丈草は取り上げられた連句の座にはいなかったようで七部集のなかに下の句がない。 

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冬の日(1684)
春の日(1686)
阿羅野(1689)
ひさご(1690)
猿蓑(1691)
炭俵(1694)
続猿蓑(1698)


松尾芭蕉
1644 - 1694
内藤丈草(丈艸)
1662 - 1704
中村俊定
1900 - 1984