読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

俳句

松岡正剛『うたかたの国 日本は歌でできている』(工作舎 2021)

松岡正剛の日本の詩歌に関する文章を、イシス編集学校で学んだ歌人でもある編集者米山拓矢(米山徇矢)がまとめ上げた、濃密な一冊。多くの本から切り取られた断片の集積であるにもかかわらず、古代から現代までの日本の詩歌芸能の推移を追うようににして積…

『田中裕明全句集』(ふらんす堂 2007)

俳句には季語がある。その季語が分かっていないと読んでも何のことだかわからないということが起こる。調べながら読んだりもするのだが勢いをそがれるのでわからないからといって全部調べるというわけにもいかない。穴惑、つちふる、生御魂などは調べた。漢…

塚本邦雄『秀吟百趣』(講談社文芸文庫 2014, 毎日新聞社 1978)

塚本邦雄が案内する濃密な近現代の短詩型の世界、短歌と俳句を交互に取り上げ103の作品とその作者を紹介鑑賞している。昭和51年から52年にかけて2年間にわたって週刊の「サンデー毎日」に連載していた原稿がベース。詩歌アンソロジー編纂に長けた博…

多田智満子の遺稿からの作品集二冊『多田智満子歌集 遊星の人』(邑心文庫 2005)、『封を切るひと』(書肆山田 2004)

多田智満子(1930 - 2003)と関係の深い、文芸詩歌上の弟と自ら規定する高橋睦郎(1937-)が、故人に生前託された遺稿からの作品集刊行に応えた二冊。まず葬儀参列時に手渡された遺句集『風のかたみ』と告別式式次第に掲載された新作能「乙女山姥」があり、こち…

『富澤赤黄男全句集』(沖積舎 1995)

昭和前期の俳句革新運動である新興俳句運動の作家のなかでも、新たな俳句スタイルを求めてもっとも果敢に変化していった俳人が富澤赤黄男である。文芸の世界での探究努力は、必ずしも優れた成果に結びつくわけではないが、たとえ先細り、道に迷うようなこと…

永田耕衣『永田耕衣俳句集成 而今・只今』(沖積舎 2013)

1934年(昭和9年)刊行の処女句集『加古』の「日のさして今おろかなる寝釈迦かな」から1996年(平成8年)齢97歳で主宰する琴坐俳句会を閉じるにあたって最終掲載された自筆最終俳句「枯草の大孤独居士ここに居る」までの約5000句を収めた永…

岡井隆『詩の点滅 詩と短歌のあひだ』(角川書店 2016)

角川刊行の月刊誌『短歌』に2013年から掲載された連載評論25回分をまとめた著作。80代後半の著述。年季が入っているのに硬直化していない探求心がみずみずしい。 長きにわたり実作者として詩歌や評論を読みつづけてきた技巧と鑑賞眼から新旧の作品を…

石原八束『三好達治』(筑摩書房 1979)

俳人石原八束はすでに飯田蛇笏主宰の「雲母」の編集に携わっていた1949年30歳の時に詩人三好達治に師事することになり、1960年から詩人の死の年まで三好達治を囲む「一、二句文章会」を自宅にて毎月開催していた。 本書は昭和50年代に各所に発表…

桑原武夫+大槻鉄男選『三好達治詩集』(岩波文庫 1971)

いくつかある三好達治のアンソロジーのなかで歌集『日まわり』と句集『路上百句』を収録しているめずらしい一冊。詩人三好達治を語るには短歌と俳句を除外してはいけないというのが選者の意見。三好達治の詩論集『諷詠十二月』でも日本文芸の核となるジャン…

三好達治『諷詠十二月』(新潮社 1942, 改訂版新潮文庫 1952, 講談社学術文庫 2016)

戦時下の昭和17年9月に刊行された「国民的詩人」三好達治の詩論集。本書では、戦時色が色濃く出ている試論であり、詩人自らの手によって削除入れ替えされる前の七月・八月を補遺として収録して、時代と三好達治自身の移り変わりも見わたせるように配慮さ…

高橋睦郎句集『十年』(角川書店 2016)

高橋睦郎の第九句集。70代の十年間の集大成となる609句を収める。この十年の間には句作とエッセイからなる『百枕』333句があり、ほかに歌集『高橋睦郎歌集 待たな終末』(短歌研究社 2014)と詩集『何処へ』(書肆山田 2011)ほか多数の詩歌に関する…

高橋睦郎『百枕』(書肆山田 2010)

百枕はももまくらと読む。2007年7月から30ヶ月にわたって俳句雑誌に連載された三百三十三の句作と、枕の字を含んだ語句をめぐって博覧強記から自在に紡がれる縦横無尽なエッセイで構成された書物。すべての句に枕の文字が入り、エッセイもそれらの句…

吉岡実句集『奴草』(書肆山田 2003)

戦後詩を代表する詩人吉岡実が残したほぼすべての句作を集めたもの。詩の作風はシュルレアリスム的なモダニズム詩であり、言語自体の喚起力と虚構をベースにした幻想的世界が展開されるため、時代感覚は薄いほうといっていいと思うが、主に戦時下の若き日に…

幸田露伴『芭蕉入門』(講談社文芸文庫 2015)

「俳諧に於ける小説味戲曲味」と「芭蕉翁七部概觀」は写実に偏った発句ばかりが詠み読まれるようになった明治以降の状況に抗して俳諧之連歌の多様性を論じたもの。時代の趨勢によって連句が廃れ俳句が好まれるように変化していったことには理解を示しながら…

丸谷才一『七十句/八十八句』(講談社文芸文庫 1988)

王朝和歌に関する評論が多くある作家丸谷才一が自ら作ったのは短歌ではなく俳句。それも安東次男から連句の手ほどきを受け、大岡信を加えた三人で歌仙の会を開いていたという本格正統派。本書は古希での記念出版『七十句』と米寿の記念として準備されていた…

谷川敏朗『校注 良寛全句集』(春秋社 2014)

良寛は曹洞宗の僧というよりもやはり歌人であり詩人としての存在が大きい。詩や歌の内容に仏の道が入ることが多くても僧としての偉大さよりも詩人としての輝きが先にきらめく。「法華讃」「法華転」という法華経讃歌の漢詩群はあっても、仏教の教えを説いた…

恩田侑布子編『久保田万太郎俳句集』(岩波文庫 2021)

艶なる日本文学の系譜にある久保田万太郎の俳句集。樋口一葉-泉鏡花-永井荷風-久保田万太郎という流れや、「やつしの美」という視点、あるいは俳人として対極ともいえる四歳年上の飯田蛇笏との対比など、興味深いところを語った編者恩田侑布子による解説…

秋山稔編『泉鏡花俳句集』(紅書房 2020)

和暦でいうと明治後期から昭和初期、西暦でいうと19世紀末から20世紀前半に活躍した幻想耽美文学の作家泉鏡花(1873-1939)の俳句544句を集めた一冊。私生活での行動と、感情や感覚の動きが、当時の日本の風物とともに、じんわり伝わってくる。 姥巫女…

松岡正剛『外は、良寛。』(芸術新聞社 1993, 講談社文芸文庫 2021 )芸術新聞社版についていた副題は「書くほどに淡雪の人 寸前の時、手前の書」

良寛の書を軸に語られた愛あふれる一冊。自身のサイト千夜千冊の第1000夜を『良寛全集』で締めくくっていたこともあり、どれほど力を込めた作品なのだろうかとすこし構えて読みはじめてみたところ、ベースが口述の語り下ろしということもあり、ですます調で…

廣末保『芭蕉 俳諧の精神と方法』(平凡社ライブラリー 1980)

一冊の本を読むにあたっては中身を読む順番で印象がだいぶ変わってくることがある。本書についてはロシア文学者の桑野隆のあとがき、著者のあとがきにかえて部分収録された『隠遁の韜晦』の文章を先に読んでから、本文としての各芭蕉論にすすんでいくという…

西村清和『幽玄とさびの美学 日本的美意識論』(勁草書房 2021)

美学者による幽玄とさびの概念分析。明治以降の西洋近代化の過程で再発見された日本的美についての言説の行きすぎをいさめつつ、個々の作家、作品、評釈を読み直すことで、実際に使用される言葉の用法からおのおのに込められた美意識を拾い、その適用範囲を…

黒百合や朝の牛乳かさね飲む 角川源義

青土社のパウル・ツェラン全詩集全三巻を読み通した後、引越準備もすすめなきゃと思い、読書ノートや学習ノートを整理しているうちに、ふたたび目にとまった一句。牛乳に黒を合わせると世界に緊張がはしる。日本でも、フランスやドイツでも。

野見山朱鳥『忘れ得ぬ俳句』(朝日選書 1987)俳句の魔性を垣間見れるアンソロジー

野見山朱鳥と聞いてパッと代表句が思い浮かんでこないので、本書『忘れ得ぬ俳句』が一番大きな仕事なのだと思う。書林新甲鳥から刊行されていた『忘れ得ぬ俳句』(1952)『続・忘れ得ぬ俳句』(1955)をあわせて一巻としたもの。俳人95名に代表句から迫る…

水原秋櫻子『近代の秀句 新修三代俳句鑑賞』(朝日選書 1986)

明治・大正・昭和の三代、82名の俳人の478句を選び、一句ごとに解釈と批評をつけた名句入門書。朝日新聞社のサイトには書籍紹介のページがあるものの、amazon上には中古品しかない。最安値8889円。希少品ということか。私は本は買っても売らない主義(…

高橋睦郎『私自身のための俳句入門』(新潮選書 1992)俳句界に参入するための心得書

日本の文芸の歴史の中で俳句形式がもつ意味合いを探る一冊。書き方講座というよりも読み方講座として重要性を持っている。 私たちがいま俳句とは何かを考えることは、俳句を生んだわが国文芸、とりわけ和歌の長い歴史、和歌の自覚を生んだ海外先進異国文芸と…

【雑記】花の季節の土台の不具合

2021年3月23日、一部Android端末不具合(メール使えない、ブラウザ使えない)と即時対応(半日かかったけど対応版Chrome更新で私のケースでは復旧)の対象となった人間で、短詩形に少しでも関心を持っている変わり者は、まあ何かしら気の利いた詩句がこの機…

相馬御風『大愚良寛』(1918, 考古堂 渡辺秀英校注 1974)良寛愛あふれる評伝

良寛のはじめての全集が出たのが1918年(大正7年)であるから、まだまとまった資料がない時期に、良寛の史跡を訪ね、ゆかりの地に伝わる逸話を地元の人々から直接聞き取り、良寛の遺墨に出会いながら、人々に愛された良寛の生涯をつづる。明治期から昭和期に…

唐木順三『無常』(筑摩叢書 1965 ちくま学芸文庫 1998)日本的詩の世界の探究

赤子の世界、無垢なる世界は、美しいが恐ろしい。穢れ曇ったものが触れると、穢れや曇りが際立ってしまう。そして、在家の世界で赤子のままでずっといられる万人向けの方法など探してみても、どうにもなさそうなので、せめて先人の行為の跡に触れようと、と…

詩人としての安東次男 思潮社現代詩文庫『安東次男詩集』(1970)を読む

現代の日本には少なくとも三種類のpoetがいる。俳人、歌人、現代自由詩人。明治時代までであればこれに漢詩人も加わることになる。複数の専門領域に分けられる日本の詩。すみ分けて、多くの詩人が生息できることには良い面と悪い面があるだろう。その辺の事…

小林恭二『これが名句だ!』(角川学芸出版 2014)

名句を紹介する書籍の中では、独特のラインナップ。目次を見た段階で、小林恭二にとっては攻めの書なんだなと感じた。 【配分一覧】 杉田久女 (1890 - 1946, M23 - S21), p 9- 27:19頁。16句。川端芽舎 (1897 - 1941, M30 - S16), p 29- 42:14頁。 8句。…