読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

俳句

北大路翼『加藤楸邨の百句 人間の業と向き合ふ』(ふらんす堂 2020)

俳人で廃人の北大路翼が、師匠の師匠であるところの加藤楸邨の俳句から百句を選んで鑑賞している本。無頼の感受性から一気に句に肉薄していく姿勢が気持ち良い。癖の強い二人の俳人のカップリングで、人間臭い俳句表現の世界を見せてくれている。 枯れゆけば…

『篠原鳳作全句文集』(沖積舎 2001)

篠原鳳作は無季俳句の実作と理論で俳句表現の新たな領域を切り拓こうとした俳人。鹿児島市の出身。大学卒業後に宮古島の旧制中学校に勤めていた時、有季の俳句作成に困難を感じたところから無季俳句へと舵を切り、その後自覚的に社会的な主題なども扱うよう…

『和田悟朗句集』(ふらんす堂 現代俳句文庫3 1992)

科学者で俳人という人の作品はかなりの確率で面白い。俳人和田悟朗、生業での専門は物理化学で奈良女子大学名誉教授。関西人のしなやかで奥行きのあるユーモアとアイロニーの感覚も作品からにじみ出てていて滋味深い。 私撰10句 逝く春やわが骨片の二三百…

『武馬久仁裕句集』(ふらんす堂 現代俳句文庫78 2015)

20代から坪内稔典、澤好摩、摂津幸彦などと活動を共にし、前衛的な作品展開をしていた作家だが、このアンソロジーで光っているのは2010年に刊行された『玉門関』から採られた海外紀行詠。詠みぶりに強引さがなく、それでいて素材の配合にあたらしさが…

『碧梧桐俳句集』(編:栗田靖 岩波文庫 2011)

正岡子規からはじまる近代俳句の初期段階において、客観写生・花鳥諷詠の流れを確立した高浜虚子とは別の、自由律へと伸びていく俳句革新運動を実践した河東碧梧桐。その代表作2000句と俳論3本で彼の創作の概要を本書でつかむことができる。 多様な作風…

『季題別森澄雄全句集』(角川学芸出版 2011)

1995年、76歳、脳溢血に罹り左半身に麻痺が残る。そののち15年、「常臥し」を多用した作句を読みつづけるのは、正直辛いところがあるが、作者の辛さに近くあることを思いながら読むと、それ以前の句とのコントラストが貴重なものに思えてくる。とく…

『飯島晴子読本』で刊行七句集を読む(富士見書房 2001)

知的で乾いた精神世界に幻想味がさらりと加わる俳句表現を貫いた俳人。晩年は体調不良と老人性鬱に苦しんだようだが、最後まで芯の折れない気の張りが伝わってくる。最後は自裁ということになってしまったが、それすらここでおしまいで良いという心の曇りな…

四ッ谷龍『慈愛』(蜘蛛出版社 1987)

高校生から俳句を志向している人の作品を集めた第一句集。1972年~1986年まで、15歳くらいの高校生の時期から青年を終える28歳くらいまでの、長い青春期の一記録。分かるようで分からない「私」というひとつの個を、定型表現におさめながら大切…

『能村登四郎全句集』(ふらんす堂 2010)

若い時から風貌が痩せた僧侶のようで、地味な印象を持ってしまいがちだが、実は精神的に相当アグレッシブな俳人ではないだろうか? 出発点である第一句集・第二句集はs相当力の入っていた詠いぶりで、人に強い印象を与えるのに十分な作品集であることは疑い…

『野澤節子全句集』(ふらんす堂 2015)

20年以上にわたる脊椎カリエス療養生活を経て37歳で快癒、その後華道師範として自立しながら俳句を書きつづけた野澤節子の全句集4110句。いたずらに病身を嘆くことなく、精神的には澄み晴れたような境地で身のまわりを詠みつづけた作品には、存在す…

金子兜太+黒田杏子+夏石番矢『現代歳時記』(たちばな出版 2001)

春夏秋冬新年のほかに雑(無季)の部が設けられている貴重な歳時記。もう新刊では手に入らないのが惜しまれる。選者3人の選句も斬新で、20世紀末俳句アンソロジーのひとつの頂点のような感じもする。取り上げられている作者は昭和・平成の新しい俳人が多…

花神コレクション<俳句>『中村苑子』(花神社 1994)

俳句17音で異界に出入りする能力を手に入れたかに見える俳人、中村苑子。俳句史のなかでも貴重な存在のひとりだ。 私撰15句 跫音や水底は鐘鳴りひびき貌が棲む芒の中の捨て鏡凧(いかのぼり)なにもて死なむあがるべし黄泉(よみ)に来てまだ髪梳くは寂…

『日野草城全句集』(沖積舎 1988)

モダンな詠風はいまも瑞々しさを感じさせる。昭和初期にフィクションを持ち込みながらのリアリズム表現を達成したことは、俳句表現に新しい風を吹き込み表現の可能性を大きく広げたのではないだろうか(ちょっとブラウニングを連想したりした)。客観写生と…

池畑秀一監修『住宅顕信全俳句集全実像 夜が淋しくて誰かが笑いはじめた』(小学館 2003)

急性骨髄性白血病を患い、病床で自由律俳句を作った俳人。創作の期間はおよそ3年で、全281句が残された。詠まれる対象は病院での療養生活に現われるものだけで、きわめて限られたものであるが、病と死に向き合った表現は強くそして澄んでいて人の心によ…

『斎藤玄全句集』(永田書房 1986)

新興俳句に惹かれ「京大俳句」に参加し西東三鬼に師事、その後石田波郷を知り傾倒してゆく。作風は自身が齟齬を感じた事物をそのままに表現しようとする傾向が強い。情動も意志も強く激しく、厳しさを感じさせるタイプ。年齢による表現の振幅は大きいが、知…

花神コレクション<俳句>『平井照敏』(花神社 1995)

フランス詩の研究が本職で、自作では詩から俳句に転向した平井照敏の選句集。俳句は勤め先に加藤楸邨がいたことからはじめたらしいが作風は似ていない。情念に距離を置いた機知から作られた作品が多い感じで、私はけっこう好きなのだが、激しさがないので物…

『寺井谷子句集』(ふらんす堂 現代俳句文庫54 2005)

横山白虹の四女。俳句界では二世、三世が活躍していることがい多い。小さい時から日本固有の短詩型に触れ、その機微を感覚的に身に着け、気負いなく表現できるようになっているところに優位性があるのだろう。ただ、個人によって表現傾向は違ってくるので、…

『石寒太句集』(ふらんす堂 現代俳句文庫52 2002)

かつての毎日新聞社『俳句αあるふぁ』編集長。人によって採る句に偏りが出て来る俳人のようで、茫洋としているところもあるが奥深いのかも。加藤楸邨門下。 400句から私撰5句 春昼の梢をつかむ仁王の手幸福といふ不幸ありヂギタリス闇汁の闇の底なる火の…

神野紗希句集『光まみれの蜂』(角川書店 2013)

俳句の現在形を担っている人の実質的第一句集。 結婚前、出産前、離婚前。 世界のみずみずしさに撃たれ耐えている生の時。 寂しいと言い私を蔦にせよ引越しの最後兎を抱いて乗るここもまた誰かの故郷氷水ステンレスパッドに餌や蛇飼うてなぐさめのつもりか金…

『相生垣瓜人全句集』(角川書店 2006)

仙というか狂というか惚というのか、俳人しか到達しえないような表現の領域にいる人。飄逸なんだが本人的には大真面目で、まったく衒いが感じられないところがよい。幼心のままにある無為の遊境であり、また戦境であろう。ジャンルを超えて近い人を挙げると…

黒田杏子の句集6冊

夏井いつきがなりたいと願い、その才能、その存在には届かないと悔しがった俳人黒田杏子(1938-2023)の全7句集のうち6冊を読んだ(手に入らなかった一冊は第6句集『銀河山河』)。最期まで思うままに活動的に生き、詠い切った姿に、あこがれを持ち、ファン…

西村麒麟の句集二冊 『鴨』(文學の森 2017)『鷗』(港の人 2024)

西村麒麟の第二句集 『鴨』。ほんのりと笑い崩れた異界。 私撰5句 紫陽花や傘盗人に不幸あれ冷房の開閉すべき箇所故障亡き人を庇ひつつ出る汗やよし秋茄子の人数分が水の上茘枝食ふ野球の話だけしたし 西村麒麟の第三句集 『鷗』。 自立(独立俳誌)の前後の…

田川飛旅子『加藤楸邨 新訂』(桜楓社 俳句シリーズ・人と作品16 1979)

年齢の近い弟子の俳人が書いた評伝と作品鑑賞の書。 芭蕉研究と俳句実作のなかから生まれた、俳句の沈黙の力についての楸邨自身の言葉が印象的。 徒らに饒舌な詩歌でなく、しかも言葉が生き、無言とすれすれのところまで生きぬいているような、そういうとこ…

『新編 加藤楸邨全句集』上下巻(青土社 2020)

加藤楸邨全句集を読んだ作者の印象は、俳句偏屈癇癪頑固親父といったところ。純粋で直情型なので、学究肌であるにもかかわらずかなり愛らしい。句も一種やぶれかぶれのようなところがあり、旨さよりも存在感自体が訴えかけてくる。曲線好き。全13,532句。戦…

『鈴木六林男 自選三百句』(春陽堂書店 俳句文庫 1993)

社会性俳句の中心作家。戦争と社会を詠みつづけた作家。俳句形式の性格や要素の虚しさを語りつつ、その形式の追及に賭けるという姿勢に野太さを感じる。 私撰5句 蛇を知らぬ天才といて風の中戦争が通つたあとの牡丹雪わが死後の乗換駅の潦右の眼に左翼左の…

松村竹炉編 『季題別鷹羽狩行句集』(永田書房 1985)

第七句集『七草』までの季題別全句集。その後十七句集まで出ているので、本書は壮年期までの句業ということになる。誉め言葉にはならないかもしれないが、なんとなくすごい。丸みのある技巧的な良句が犇めいているが、味わいがまろやかなために一読しただけ…

『桂信子句集』(立風書房 1983)

『月光抄』『女身』『晩春』『新緑』『初夏』『緑夜』と第七句集『草樹』の一部を収めた生前刊行の全句集的著作。この後『樹影』『花影』『草影』と計10冊の句集を刊行しているが、ピークは『晩春』『新緑』の詠風転換の時期にあるように思う。 私撰15句…

『中村草田男集』(朝日文庫 現代俳句の世界 6 1984)

現代俳句協会の俳句データベースには「中村草田男」で114句登録されていて、本書の中から自選句を選ぶとほとんどが登録済みのもので、この俳人の良句は人によってそれほどブレることはないのだなあと感じた。活動期間は戦前からで、しかも俳句という伝統…

『横山白虹全句集』(沖積社 1986)

全3336句からの15句選※最初の二句がもっとも有名だとおもう ラガー等のそのかちうたのみじかけれ雪霏々と舷梯のぼる眸ぬれたり火事の雲電線ぢぢと燃えさがる電柱に倚れば地底に鳴く蛙葛原の風の中にて猫白し秋あつし売店とざす錠巨大杉山の闇が蛾族を…

小林恭二の俳句鑑賞本二冊『この俳句がスゴい!』『これが名句だ!』(角川学芸出版 2012, 2014)

批評であるから当たり前なのではあるが基本的に俳句の下手な俳人に小林恭二は厳しい。10代から俳句に親しみ自然と句が出て来るような俳句ネイティブと20代以降に俳句を始めた晩学の意識的な俳人に階級的な線を引いていて、小林恭二自身は前者に属してい…