読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日本の古典

草野心平 詩集『玄天』(装丁も著者 筑摩書房 1984)

ケルルン クック。 るるるるるるるるるるるる・・・ 蛙の詩人、草野心平の七九歳から八十歳にかけての詩を収めた詩集。 朝の血達磨は太平洋の水平線から。スルリせりあがり。不盡山巓の雪は。淡いバラ色。(「不盡の衣裳」部分) モダンかつ幻妖な詩句。旧字…

西脇順三郎 詩集『宝石の眠り』(吉岡實装丁 花曜社 1979) 茄子、ナス、なす

1958年から1968年までノーベル賞候補にもなった西脇順三郎の1963年刊行の筑摩版全集編纂時の未刊行詩篇を集めた詩集。拾遺詩篇という範疇にあるにもかかわらず、一篇一篇の質の高さと、詩人の内なる詩魂の一貫性が読み手に伝わる一冊となってる…

【雑記】月食の夜、金春禅竹の「定家」を読み返す

本日旧暦 10/15(神無月十五日)、月齢 14.2、満月(18時)。 今回の部分月食は98%強の部分が月食となるという。月の出以前の16時19分頃からはじまり、食の最大が18:02頃、19時47分に食が終わる。 16:30区の児童への帰宅アナウンス(夕焼けチャイム)を聴いて…

詩人としての堀田善衛 その1『別離と邂逅の歌』(作品執筆時期 1937-1945, 編纂草稿 1947, 集英社刊 2001)

遺稿整理から発見された、第一次戦後派作家というようにも分類される作家、堀田善衛の、主に戦中の20代に書かれた詩作品。死と隣り合わせに生きていた世界戦争の時代における、生々しい精神の記録としても、読み手の心に響いてくる詩作品。 大学時代から、…

上田三四二『西行・実朝・良寛』(角川選書 1979)

『この世 この生 ― 西行・良寛・明恵・道元』に先行すること5年、上田三四二、56歳の時の刊行作品。醇化しまろやかになる前の荒々しく切り込んでいく姿勢が感じられるのは、壮年の心のあり様がでたのであろうか。語りの対象と同じく歌に生きる者の厳しい…

上田三四二『この世 この生 ― 西行・良寛・明恵・道元』(新潮社 1984, 新潮文庫 1996)

世俗を離れて透体にいたるまで純化した人たちの思想と詩想を追う一冊。第36回の読売文学賞(評論・伝記部門)の受賞作であるが、いまは新刊書では手に入らない。 明恵は一個の透体である。彼はあたうかぎり肉体にとおい。もちろん、肉体なくして人間は存在…

折口信夫『口訳万葉集』下 (文会堂書店 1917, 岩波現代文庫 2017)

折口信夫の口述筆記による現代語訳万葉集。最終巻は第十三巻から第二十巻までを収める。 口述筆記という体裁も手伝ってか、若い折口の爽快感ある万葉解釈が印象に残る。さっぱりとした、すがすがしい読後感だ。 折口が教えた中学生にもわかるような現代口語…

折口信夫『口訳万葉集』中 (文会堂書店 1917, 岩波現代文庫 2017)

折口信夫による日本初の万葉集現代語訳の第八巻から第十二巻までを収める文庫本。 万葉仮名を現代表記に改め、句読点を付した本文に、口語現代語訳を添えた体裁は、万葉集を読み進める速度を格段に上げ、鑑賞の態度を著しく変えた画期的な業績であるのではな…

折口信夫『口訳万葉集』上 (文会堂書店 1916, 岩波現代文庫 2017)

まだ無名の30歳を迎える前の貧乏研究家だったころの折口信夫の破天荒な業績。 中学教諭を辞職し、あてもなく上京、教え子とともに共同生活を送るうちに、生活の破綻が本格的に迫ってきたところ、大学時代から折口の抜群の才能を目にしてきた人たちが、救い…

馬場あき子『式子内親王』(紀伊国屋書店 1969, ちくま学芸文庫 1992 )「式子内親王集」を読む ③

深く激しい表現の発露のもとにあるものを、ノイローゼという言葉で表現しているところに、本書が書かれた時代の空気感と馬場あき子40代の激しさのようなものがすこし感じられ、ほんのすこしだけたじろいだりもするのだが、多くは式子内親王の歌を読み込み…

竹西寛子「式子内親王」(筑摩書房 日本詩人選14『式子内親王・永福門院』1972, 講談社文芸文庫 2018)「式子内親王集」を読む ②

式子内親王の形而上性、具体性をともなわない観念に傾いた歌にまず魅かれるという竹西寛子の評論。 病がちであったこともあり、人との交流には向かわず、家に引きこもり歌を歌った後白河院第三皇女式子内親王。私歌集と勅撰集に残された400首足らずの歌を…

式子内親王の吐息 「式子内親王集」を読む ① もの思いしつつ、ものをながめているときの、深く長い息づかいに寄り添える歌

日本文芸の表記は漢字かな交じり文であり、使用される文字の種類、漢字の開き具合によって読み手側の印象は異なってくる。 岩波書店古典文学大系80『平安鎌倉私歌集』に収録された「式子内親王集」は、宮内庁書陵部本を底本としたもので、全歌数373首に…

藤原定家撰『新勅撰和歌集』(1235年完成 久曾神昇+樋口芳麻呂校訂 岩波文庫 1961) 病める華々の消えることのない妖しい形姿と芳香

第9番目の勅撰和歌集。武家社会への移行を決定づけた承久の乱の後の世に、後堀河天皇の命を受け、70歳の重鎮たる定家が時代の推移を踏まえながら単撰した撰集。老年を迎えてからの定家の平淡優艶を好む嗜好性を反映した撰集といわれ、そういわれるのも宜…

萩原朔太郎と蟾蜍

萩原朔太郎の詩を読み返したら、ヒキガエルの存在感がすごかったのでメモ。詩人本人はあまり好いていない様子がうかがえるのだけれど、ヒキガエル、朔太郎にとっては一詩神、ミューズみたいな位置づけにいる生物であるような気がした。例: 1.『蝶を夢む』…

堀田善衛『定家明月記私抄』(新潮社 1986 ちくま学芸文庫 1996)『定家明月記私抄 続篇』(新潮社 1988 ちくま学芸文庫 1996) 聖なる非現実の世界を写す和歌と俗なる現実の世界を写す日記

作者堀田善衛が読み解くのは、藤原定家(1162-1241)が歌の家を確立し永続させるための秘伝を伝える意図も持って書かれた漢文日記、明月記。公務と荘園経営の記録を軸に、王朝の動向と京の街の情景もしっかりと描き込まれている。時代は平安末期から鎌倉初期…

廣末保『四谷怪談 ―悪意と笑い―』(岩波新書 1984)

日本近世文学研究者、廣末保の語りの芸が冴える新書の研究書。幕藩制が崩れ落ちていく中の文政八年(1825年)に初演された鶴屋南北の歌舞伎狂言『東海道四谷怪談』を、当時の配役とその役者の特徴も踏まえながら、研究の文章において説明しつつ再上演させて…

廣末保『芭蕉 俳諧の精神と方法』(平凡社ライブラリー 1980)

一冊の本を読むにあたっては中身を読む順番で印象がだいぶ変わってくることがある。本書についてはロシア文学者の桑野隆のあとがき、著者のあとがきにかえて部分収録された『隠遁の韜晦』の文章を先に読んでから、本文としての各芭蕉論にすすんでいくという…

西村清和『幽玄とさびの美学 日本的美意識論』(勁草書房 2021)

美学者による幽玄とさびの概念分析。明治以降の西洋近代化の過程で再発見された日本的美についての言説の行きすぎをいさめつつ、個々の作家、作品、評釈を読み直すことで、実際に使用される言葉の用法からおのおのに込められた美意識を拾い、その適用範囲を…

中島真也『大伴旅人』(2012年 コレクション日本歌人選 041)

大伴旅人(665 -731)は万葉集を読んだときにいちばん好きかもしれないとおもった歌人。本書の付録エッセイを書いた『折々の歌』の大岡信も大伴旅人がいちばん好きらしい。この大伴旅人を父に大伴郎女を叔母に持つのが万葉集編者たる大伴家持であるが、より本…

吉野朋美『後鳥羽院』(2012年 コレクション日本歌人選 028)

世を治める立場にあった天皇・上皇の和歌の歌いぶりは臣下や女官たち地下の者の歌とは構えが異なり「帝王振り」などとも呼ばれる。国を思い民を思う視野の大きさと、なにものにも疎外されない立場からくる鷹揚さと威厳が、歌にもあらわれる。「帝王振り」と…

【笠間書院コレクション日本歌人選より4冊】田中登『紀貫之』、村尾誠一『藤原定家』、小山順子『藤原良経』、平井啓子『式子内親王』

『定家八代抄』を読んでいて特に気になった四名の歌人を比較的新しい研究者による注釈と解説とともに読みすすめてみた。歌人ひとり50首弱の小さなアンソロジーだが、導入書としてはちょうどいい分量と選歌になっているような気がする。笠間書院のサイトで…

【日本近代の代表的詩人 三人三冊】堀口大學『消えがての虹』(1978, 86歳)、西脇順三郎『人類』(1979, 85歳)、『村山槐多詩集』(彌生書房 1974, 1919 享年24) 同年代生まれの八〇台の詩人と二〇台詩人を同時に読む。

他言語に訳されて日本の20世紀詩人にこういった人がいましたよと読んでもらいたいところまではいかないけれども、日本人であるならばちょっとは気にしておいてもいい詩人三名の三冊。 堀口大學は1925年出版の訳詩集『月下の一群』が何より重要。この訳詩集…

樋口芳麻呂・後藤重郎校注『定家八代抄』(岩波文庫 全二冊)と村山修一『人物叢書 藤原定家』(吉川弘文館 1962)

『定家八代抄』は、定家54歳の時、1215年から翌1216年にかけて選歌編纂された『二四代和歌集』の収録歌に、訳と注をつけて文庫化した手頃な王朝秀歌アンソロジー。全1809首。『百人秀歌』(1235)、『百人一首』を生むにいたる前になされた、定家の批…

藤原定家『拾遺愚草』未収録作を読む モノが整いきらない現実の粗雑さも詠いきる歌の世界

藤原定家の私歌集『拾遺愚草』正篇2791首に収まらなかった、定家の詩歌作品1840首を読み継ぐ。 uho360.hatenablog.com 全歌集下巻としてまとめられた本書、自選私家集『拾遺愚草』に収まらなかったところの歌の全体的傾向としての印象は、物質的な抵…

藤原定家『拾遺愚草』を読む 冷えた光と風のある世界

藤原定家の私歌集『拾遺愚草』正篇2791首をちくま文庫の『藤原定家全歌集 上』(2017)ではじめて通読。本文庫が出る前は図書館でもなかなか出会うことが難しかった歌集であったので、ありがたい。久保田淳による注釈、現代語訳ははりとあっさりしている…

【読了本七冊】東京美術『もっと知りたい  東寺の仏たち』、ノーバート・ウィーナー『サイバネティクス 動物と機械における制御と通信』、佐藤信一『コレクション日本歌人選 43 菅原道真』、草薙正夫『幽玄美の美学』、トーマス・スターンズ・エリオット『エリオット全集2 詩劇』、アンリ・ミショー『閂に向きあって』、中央公論社『日本の詩歌12』より「野口米次郎」

25~30日に読み終わった本は7冊。 まだ新居で落ち着かない感じをゆっくり言葉でふさいでいる。 東京美術『もっと知りたい 東寺の仏たち』 www.tokyo-bijutsu.co.jp 空海の思想は生の肯定の思想で、第一作『三教指帰』からの文字文献においても艶めかし…

野見山朱鳥『忘れ得ぬ俳句』(朝日選書 1987)俳句の魔性を垣間見れるアンソロジー

野見山朱鳥と聞いてパッと代表句が思い浮かんでこないので、本書『忘れ得ぬ俳句』が一番大きな仕事なのだと思う。書林新甲鳥から刊行されていた『忘れ得ぬ俳句』(1952)『続・忘れ得ぬ俳句』(1955)をあわせて一巻としたもの。俳人95名に代表句から迫る…

水原秋櫻子『近代の秀句 新修三代俳句鑑賞』(朝日選書 1986)

明治・大正・昭和の三代、82名の俳人の478句を選び、一句ごとに解釈と批評をつけた名句入門書。朝日新聞社のサイトには書籍紹介のページがあるものの、amazon上には中古品しかない。最安値8889円。希少品ということか。私は本は買っても売らない主義(…

萩原朔太郎編『昭和詩鈔』( 冨山房百科文庫 1940, 新装版 1977 )空虚さを清く保つ詩の力

昭和十五年に刊行された昭和詩のアンソロジー。伊東静雄、立原道造、中原中也、安西冬衛、北園克衛、中野重治、草野心平、三好達治、宮澤賢治、西脇順三郎、金子光晴、高橋新吉など、現在でも十分こころに響く芸術的美意識を込められた詩のことばを収集して…

金春禅竹(1405-1471)『歌舞髄脳記』ノート 05. 「余説」

神楽・申楽・猿楽と和歌との切り離せない関係性を記憶にとめながら読み通す。 神楽の家風に於いては、歌道を以て道とす。歌又舞なり。此歌舞、又一心なり。形なき舞は歌、詞なき歌は舞なり。(「序」から) 「序」にある歌と舞の関係性の定義から、最初から…