読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日本の古典

黒木祥子+小林賢章+芹澤剛+福井淳子 編『現代語訳付 説経かるかや』(和泉書院 2015)

中世末から江戸時代初期、下層の庶民階級を相手の芸能としてはやった説経節の代表曲「かるかや(苅萱)」のテキストに校注と現代語訳を付けた一冊。能や浄瑠璃などに比べてより簡素な語り芸であることが想像できる作品。話は信濃善光寺付近に祀られている親…

秋月龍珉『禅門の異流 盤珪・正三・良寛・一休』(筑摩書房 1967, 筑摩叢書 1992) 抵抗者の真っ当かつ奇っ怪な姿

曹洞宗の黙照禅、臨済宗の看話禅、臨済系の寺から出た盤珪の不生禅、武士から曹洞宗の僧侶となった鈴木正三の二王禅、日本の禅の主だったところの流派の孤峰をたどることができる一冊。禅の「大死一番、絶後蘇生」の悟りとその後の生き様の四者四様を、多く…

紀野一義『名僧列伝(二) 良寛・盤珪・鈴木正三・白隠』(文芸春秋 1975, 講談社学術文庫 1999)

著者の好みが鮮明に打ち出されている名僧案内。江戸期の四名の禅僧が著者ならではの視点から描かれているために、各僧のあまり触れられない新鮮な情報も含まれていて、ほかの書物と比べながら多角的に各人物を捉えるきっかけを与えてくれるような、記憶にも…

加藤精一 編『空海「般若心経秘鍵」』(原著 834, ビギナーズ 日本の思想 角川ソフィア文庫 2011)

空海の最晩年、入定前年61歳の時の著作。主著『秘密曼荼羅十住心論』や『秘蔵宝鑰』で展開された顕教から密教へと至る仏の教えの階梯を、「般若心経」270字のなかに読み解く、空海の天才的思考が凝集された見事な果実。加藤精一による現代語訳と解説に…

谷川敏朗『校注 良寛全詩集』(春秋社 2005, 新装版 2014)

谷川敏朗の良寛校注三部作のうちではいちばんの力作。良寛自身も俳句や歌に比べれば、漢詩に傾けた時間やもろもろの思いはもっとも大きいのではないかと考えさせられる一冊。寺子屋や学塾に通った時代から、世俗的世渡りの要求に応えられずに出家したあとの…

谷川敏朗『校注 良寛全歌集』(春秋社 2003, 新装版 2014)

1350首もの歌を残した良寛には歌人という意識はなかったものと見える。漢詩においては禅僧の活動としての偈頌が含まれていたり、50歳を過ぎてから10年ごとに遺偈(禅僧としての最後の感懐)を残したりと、かなり形式的なものを踏まえて詩作していた…

谷川敏朗『校注 良寛全句集』(春秋社 2014)

良寛は曹洞宗の僧というよりもやはり歌人であり詩人としての存在が大きい。詩や歌の内容に仏の道が入ることが多くても僧としての偉大さよりも詩人としての輝きが先にきらめく。「法華讃」「法華転」という法華経讃歌の漢詩群はあっても、仏教の教えを説いた…

全国良寛会 監修 竹村牧男 著『良寛「法華讃」』(春秋社 2019)

良寛には法華経を称えた「法華讃」「法華転」と言われる漢詩作品集が四種あり、本書のもとになっているのは原詩102篇と著語(じゃくご)と言われる短い感想を述べたものと溢れる思いから書き添えられた和歌数篇からなる最大のもの。新潟市所蔵の良寛直筆…

田村圓澄『日本を創った人びと 3 空海 真言密教の求道と実践』(平凡社 1978 編集:日本文化の会)

軽めの内容かと思ったら、本文も掲載図版も文句のつけようがない優れた一般向け専門書的図鑑だった。平凡社刊行だから、別冊太陽もしくはコロナ・ブックスのシリーズを想像していただくと、文章と図版の質と量の水準の高さの程度が知れるかと思う。全82ペ…

会津八一(1881-1956)『會津八一全歌集』(中央公論社 1986) ひらがな表記と語の分かち書きで伝える近代短歌の特異な詩的表現世界

昭和26年(1951年)の生前全歌集の886首に、拾遺作品264首を新たに付加した一冊(全1150首)。文庫本で手に入りやすい『自註鹿鳴集』よりも歌人の活動期間をより広くカバーしている。活動期間のわりに詠まれた歌の数はそう多くなく、一首一首に推…

入矢義高『良寛詩集』(現代語訳 禅の古典12 講談社 1982)

良寛自筆詩稿「草堂詩集」235首のうち重複を省いた184首と、岩波文庫版『良寛詩集』から47首を追加した全231首の漢詩に、読み下し文と現代語訳、訳注を施した充実の一冊。良寛も愛読した寒山詩についての仕事(岩波書店刊中國詩人選集5『寒山』 …

揖斐高 編訳『江戸漢詩選』(上下全二巻 岩波文庫 2021)

日本文学古典注入。 日本漢詩がもっとも栄えた時期は江戸時代だということすら知らないほうが普通というくらいに現代では顧みられることの少ない漢詩の世界だが、明治近代へとつながっていく江戸の詩歌を、俳諧と和歌だけで考えるのは大きな間違いのような気…

恩田侑布子編『久保田万太郎俳句集』(岩波文庫 2021)

艶なる日本文学の系譜にある久保田万太郎の俳句集。樋口一葉-泉鏡花-永井荷風-久保田万太郎という流れや、「やつしの美」という視点、あるいは俳人として対極ともいえる四歳年上の飯田蛇笏との対比など、興味深いところを語った編者恩田侑布子による解説…

秋山稔編『泉鏡花俳句集』(紅書房 2020)

和暦でいうと明治後期から昭和初期、西暦でいうと19世紀末から20世紀前半に活躍した幻想耽美文学の作家泉鏡花(1873-1939)の俳句544句を集めた一冊。私生活での行動と、感情や感覚の動きが、当時の日本の風物とともに、じんわり伝わってくる。 姥巫女…

Yone Noguchi 'SEEN & UNSEEN' と野口米次郎『明界と幽界』 比較資料 (野口米次郎再興活動特別編 001)

二重国籍、二重言語であるがゆえに日本と西洋との橋渡し的存在となり得た日本近代詩黎明期の詩人、二重化の上にそれぞれ残った野口米次郎とYone Noguchi。 同時代的には、インドのタゴールが英語とベンガル語の二重言語を使用し、1913年には『ギタンジャリ(…

藤原良経(1169-1206)『秋篠月清集』(1204 全1611首, 明治書院 和歌文学大系60 2013)

日本の和歌の現代的鑑賞は結構難しい。歌の姿が元のままであることは少ないし、元のままが現代的鑑賞にいちばん適しているとも言いづらいからだ。ひらがなで表示されれているか漢字で表示されているかで、同じ音であっても印象が異なるのが日本語の面倒なと…

仲正昌樹『〈日本哲学〉入門講義 西田幾多郎と和辻哲郎』(作品社 2015)

西田幾多郎『善の研究』(1911)と和辻哲郎『人間の学としての倫理学』(1934)の読解講義。とりあえず両作ともに目を通したことがあるところで本書を読んだ印象では、仲正昌樹の入門講義シリーズは、対象となった哲学者やその著作がおおよそどのようなこと…

堀まどか『野口米次郎と「神秘」なる日本』(和泉書院 2021)

20世紀への転換期にあたる時期、野口米次郎(ヨネ・ノグチ)の詩人・文化人としての前半生と、極東日本の神秘性を期待して無名のノグチを受容していった英米の文化芸術層の様子をコンパクトにまとめあげた興味深い一冊。 世紀末思想、アメリカのフロンティ…

竹村牧男『良寛の詩と道元禅』(大蔵出版 1978, 新装版 1991)良寛と道元が観た世界の後の世界を観る世界

生きているあいだに確実に超えられない業績を残している人に出会ってしまうのは結構つらい経験ではあるのだが、本を読むということは、そんなつらい経験をあえてもとめているようなところが大きい。 なぜ強いられてもいないのに読んでしまうかというと、これ…

安藤礼二『列島祝祭論』(作品社 2019)

折口信夫の古代学に導かれ日本の祝祭と芸能の展開を追っていく批評作品。「神憑」を聖なる技術としてきた「異類異形」かつ「異能」の者たちは、里の世俗の秩序とは異なる山の聖なる秩序の下で生き、アナーキーかつ神聖なる怪物あるいは霊力を解放する祝祭を…

安藤礼二『霊獣 「死者の書」完結篇』(新潮社 2009) 作者安藤礼二は熱狂と冷徹を兼ね備えた異能の憑依者であると思う

空海を主人公に迎えた折口信夫未完の小説『死者の書 続編』を批評的にたどり直した一冊。 未完の物語を引受けた小説を期待して読むと場違いなことに気づく。※水村美苗の漱石『明暗』に対するアプローチとは異なる続編作家としての引き受け方を提示している。…

新倉俊一編集『西脇順三郎コレクション』Ⅰ・Ⅱ 詩集(慶應義塾大学出版会 2007年) 中高年の鈍重さを背負いつつ底抜けてしまった稀有な日本の近代詩人

西脇順三郎の詩作の大部分を収める選集。晩年の詩作にふれることは編集方針上できないが、『宝石の眠り』まで、著者70歳までの詩作品を完本収録していることに意義がある個人選集。 個人的には詩的表出のタガがどこかはずれたと想定される『宝石の眠り』以…

西郷信綱+永積安明+広末保『日本文学の古典 第二版』(岩波新書 1966)

西郷信綱、永積安明、広末保の三人の日本文学者が各専門時代ごとに凝縮された論考を展開している見事な解説書。読み応えがあり贅沢。 日本古代文学専攻の西郷信綱が古事記から女手の日記文学まで、日本中世文学専攻の永積安明が今昔物語の説話物語の世界から…

『伊勢物語』を終わりから逆に読みすすめる 石田穣二訳注 角川文庫版『 新版 伊勢物語 付現代語訳』(1979年)

2022年1月、『伊勢物語』を終わりから逆に読みすすめでみた。 「大抵の書物は終わりから読んだ方がよくわかる」という方法論を知ったのは、約三十年前、現代音楽におけるビッグネームであり、稀有な演奏を繰り出すピアニスト、そして優れたカフカの読み…

彌生書房 世界の詩36 田村隆一編『草野心平詩集』(彌生書房 1966)

草野心平の七九歳から八十歳にかけての詩を収めた詩集『玄天』(1984)で何かに撃ちぬかれたような感覚を持ってから、草野心平の詩選集を複数入手して、順次浸っている。本書は一世代後の「荒地」を代表する詩人田村隆一が、1966年という時代において選…

草野心平 詩集『玄天』(装丁も著者 筑摩書房 1984)

ケルルン クック。 るるるるるるるるるるるる・・・ 蛙の詩人、草野心平の七九歳から八十歳にかけての詩を収めた詩集。 朝の血達磨は太平洋の水平線から。スルリせりあがり。不盡山巓の雪は。淡いバラ色。(「不盡の衣裳」部分) モダンかつ幻妖な詩句。旧字…

西脇順三郎 詩集『宝石の眠り』(吉岡實装丁 花曜社 1979) 茄子、ナス、なす

1958年から1968年までノーベル賞候補にもなった西脇順三郎の1963年刊行の筑摩版全集編纂時の未刊行詩篇を集めた詩集。拾遺詩篇という範疇にあるにもかかわらず、一篇一篇の質の高さと、詩人の内なる詩魂の一貫性が読み手に伝わる一冊となってる…

【雑記】月食の夜、金春禅竹の「定家」を読み返す

本日旧暦 10/15(神無月十五日)、月齢 14.2、満月(18時)。 今回の部分月食は98%強の部分が月食となるという。月の出以前の16時19分頃からはじまり、食の最大が18:02頃、19時47分に食が終わる。 16:30区の児童への帰宅アナウンス(夕焼けチャイム)を聴いて…

詩人としての堀田善衛 その1『別離と邂逅の歌』(作品執筆時期 1937-1945, 編纂草稿 1947, 集英社刊 2001)

遺稿整理から発見された、第一次戦後派作家というようにも分類される作家、堀田善衛の、主に戦中の20代に書かれた詩作品。死と隣り合わせに生きていた世界戦争の時代における、生々しい精神の記録としても、読み手の心に響いてくる詩作品。 大学時代から、…

上田三四二『西行・実朝・良寛』(角川選書 1979)

『この世 この生 ― 西行・良寛・明恵・道元』に先行すること5年、上田三四二、56歳の時の刊行作品。醇化しまろやかになる前の荒々しく切り込んでいく姿勢が感じられるのは、壮年の心のあり様がでたのであろうか。語りの対象と同じく歌に生きる者の厳しい…