読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

日本の古典

見田宗介『宮沢賢治 ― 存在の祭りの中へ』(岩波書店 20世紀思想家文庫12 1984, 岩波現代文庫 2001)

本当の修羅は修羅でない者にむかってことばを投げつけずにはいられないものなのだろう。 だから、多作が可能であり、際限のない推敲が可能となるのだろう。 50歳を過ぎてようやく納得できたのは、私自身は修羅ではないということ。 その差を確認するための…

中央公論社『日本の詩歌22 三好達治』(中央公論社 1967, 新訂版 1979, 中央文庫 1975)

高見順の異母兄にあたる福井県出身の詩人阪本越郎が、福井に縁の深い三好達治の作品ひとつひとつに的確な鑑賞文をつけて案内してくれる良書。第一詩集『測量船』から最後の詩集『百たびののち』まで、代表作とみられるものがこの一冊で優れた読み手の読解付…

石原八束『三好達治』(筑摩書房 1979)

俳人石原八束はすでに飯田蛇笏主宰の「雲母」の編集に携わっていた1949年30歳の時に詩人三好達治に師事することになり、1960年から詩人の死の年まで三好達治を囲む「一、二句文章会」を自宅にて毎月開催していた。 本書は昭和50年代に各所に発表…

三好達治『詩を読む人のために』(岩波文庫 1991, 至文堂 1952)

「初めて現代詩を読もうとする年少の読者のために」書かれた批評家的資質の確かな詩人による現代詩入門書というのが本書の位置づけではあるが、刊行年度が1952年ということもあって、内容的には文語調の近代詩から口語自由詩へ発展し定着していく過程を…

萩原朔太郎『青猫』(1923)

2023年は『青猫』刊行百周年。ほかには高橋新吉「ダダイスト新吉の詩」百周年であったり、伊藤野枝、大杉栄没後100年だったりするが、中学生での初読以来『青猫』のイメージは強烈で、なじみ深いものともなっている。今でも機会があれば読み返したり…

三好達治『萩原朔太郎』(筑摩書房 1963, 講談社文芸文庫 2006)

萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治の詩人論。『月に吠える』『青猫』で日本の口語自由詩の領域を切り拓いたのち、「郷土望景詩」11篇において詩作の頂点を迎えたと見るのが三好達治の評価で、晩年の『氷島』(1934)における絶唱ならぬ絶叫は、詩の構成からい…

桑原武夫+大槻鉄男選『三好達治詩集』(岩波文庫 1971)

いくつかある三好達治のアンソロジーのなかで歌集『日まわり』と句集『路上百句』を収録しているめずらしい一冊。詩人三好達治を語るには短歌と俳句を除外してはいけないというのが選者の意見。三好達治の詩論集『諷詠十二月』でも日本文芸の核となるジャン…

石原八束『駱駝の瘤にまたがって ――三好達治伝――』(新潮社 1987)

生前の三好達治の門下生として親しく交流した俳人石原八束による三好達治の伝記評伝。 散文の表現能力に秀でている石原八束によって再現される三好達治は、生身の三好達治に限りなく近い像を与えてくれていることは疑いようもないことではあるのだが、昭和初…

畠中哲夫『三好達治』(花神社 1979)

越前三国の地で三好達治の門下生であった詩人畠中哲夫による評論。三好達治自身の作品や生前実際にかわされたことばはもちろんのこと、同時代周辺の文学者たちの表現を多くとりこんで、詩人三好達治の存在がいかなるものであったかを、重層的に表現している…

三好達治『諷詠十二月』(新潮社 1942, 改訂版新潮文庫 1952, 講談社学術文庫 2016)

戦時下の昭和17年9月に刊行された「国民的詩人」三好達治の詩論集。本書では、戦時色が色濃く出ている試論であり、詩人自らの手によって削除入れ替えされる前の七月・八月を補遺として収録して、時代と三好達治自身の移り変わりも見わたせるように配慮さ…

現代詩文庫1038 清水昶編『三好達治詩集』(思潮社 1989)

谷川俊太郎、高橋睦郎、田村隆一など、詩人として高く評価している人物がいるいっぽう、評価と批判相半ばする者、全面的に否定する者など、生前も死後もよく論じられたというところが、三好達治の存在と詩作品の重要さを感じとらせてくれる。 本書は全面的に…

谷川俊太郎編『三好達治詩集』(彌生書房 1965)

編者谷川俊太郎のこころの柔らかさが感じとれる三好達治の詩選集。散文もふくよかな情感がさらっとまとめられた小文が選ばれていて、三好達治に好感を持ちやすく編集されている。代表作『測量船』にあまりこだわりのない生涯を通しての作品から、谷川俊太郎…

高橋睦郎『百枕』(書肆山田 2010)

百枕はももまくらと読む。2007年7月から30ヶ月にわたって俳句雑誌に連載された三百三十三の句作と、枕の字を含んだ語句をめぐって博覧強記から自在に紡がれる縦横無尽なエッセイで構成された書物。すべての句に枕の文字が入り、エッセイもそれらの句…

北園克衛『現代詩文庫1023 北園克衛詩集』(思潮社 1981)

エズラ・パウンドなどとも交流のあったモダニスト詩人の詩選集。行替えの激しい『黒い火』あたりの作風がもっとも個性が出ているような印象だった。E.E.カミングスや高柳重信などの詩型が類想される。言語自体のイメージを梃子にして創られた作品は、元…

大木実『現代詩文庫1041 大木実詩集』(思潮社 1989)

大木実(1923 - 2009)は大正生まれで太平洋戦争期に招集を受け帰還した後も詩を書き続けた詩人。思潮社の選集の巻末エッセイには、尾崎一雄、三好達治、高村光太郎、丸山薫、川崎洋といった錚々たる面々の讚が集められていることからも、ただごとではない詩…

竹村牧男『禅のこころ その詩と哲学』(ちくま学芸文庫 2010)

仏教学者竹村牧男の思想の根幹は臨済禅で、系譜としては釈宗演‐鈴木大拙‐秋月龍珉‐竹村牧男となる。著作における特色としては禅が大乗仏教であることを強く押し出しているところが挙げられる。本書の第七章「大悲に遊戯して<大乗>」のなかの小題のひとつに…

五味文彦「『一遍聖絵』の世界」(吉川弘文館 2021)

『絵巻で歩む宮廷世界の歴史』や『絵巻で読む中世』を書いた国文学者五味文彦が、鎌倉時代の名品、国宝『一遍聖絵』(1299)を単独で取り上げ解説した作品。主立った場面を図版で提示しながら、そこに描き込まれた社会や人々の様子やものの名を言語化して、視…

小島憲之編『王朝漢詩選』(岩波文庫 1987) かな文字発生前後の漢詩

『万葉集』(783年頃)から『古今和歌集』(905年)のあいだは和歌よりも漢詩が栄えていた。嵯峨天皇と淳和天皇のもとで『凌雲集』(814年)、『文華秀麗集』(818年)『経国集』(827年)という勅撰漢詩集が編まれ、その後も宮廷文化は上級官吏たちによる漢…

菱川善夫『塚本邦雄の宇宙』Ⅰ・Ⅱ(短歌研究社 2018)

戦後の前衛短歌運動を二十一世紀にいたるまで駆け抜けた塚本邦雄を、短歌批評家としての立場から擁護し共に戦った菱川善夫による批評作品。 塚本邦雄が亡くなった2005年6月9日から二ヵ月余り、同年8月25日に刊行された追悼特集『現代詩手帖特集版 …

塚本邦雄『新古今集新論 二十一世紀に生きる詩歌』(岩波書店 1995)

岩波書店が主催するセミナーの2時間×4回という枠組みで新古今集を正面から扱うことに無理を感じた塚本邦雄が、新古今集成立の周辺を語ることで、新古今集の特徴的な輪郭を炙り出した一冊。 前半部分で新古今風の母体となった六百番歌合と千五百番歌合にお…

『万代和歌集』(1248. 明治書院和歌文学大系 13、14)

藤原光俊撰の私撰集。 万葉時代から当代(定家撰『新勅撰和歌集』1235)に至る勅撰集に収められていない歌3826首を集めたという詞華集。 1251年成立の後嵯峨院下命、藤原為家撰の第10勅撰集『続後撰和歌集』全1371首に対抗したと言われる。 『続後…

岩佐美代子『永福門院 飛翔する南北朝女性歌人』(笠間書院 1976, 2000)

永福門院の全作品387首と玉葉・風雅収録全作品の評釈と伝記からなる一冊。永福門院の全貌に触れることができる。歌ばかりでなく、伏見院亡き後の北朝持明院統の精神的支柱でもあった永福門院を伝記で知ることで、南北朝時代にも関心を持たせてくれる。歴…

竹西寛子の「永福門院」(筑摩書房 日本詩人選14『式子内親王・永福門院』1972, 講談社文芸文庫 2018)

はじめから大学勤務の国文学者という肩書しかない人物よりも、原稿料で生きてきた上で大学講師ともなったという肩書の作家の書いた歌人評のほうが、書き手の視点や思い入れが色濃く出ていて、独自研究と愛憎の年輪の深さを背景に、読ませる文章を提供してく…

コレクション日本歌人選012 阿尾あすか『伏見院』(笠間書院 2011)

『新古今和歌集』以後の停滞していた歌の世界に新風を起こした京極派の代表的歌人で、『玉葉和歌集』の下命者でもある伏見院。後鳥羽院とはまた違ったタイプの天才的歌人であったようだ。 撰者の一人で代表的歌人であった定家と反りが合わなかった後鳥羽院に…

藤原公任『和漢朗詠集』(成立 1031, 大曽根章介、堀内秀晃 校注 新潮日本古典集成 1983 )

和歌216首、漢詩588詩からなる藤原公任による秀歌秀句アンソロジー。『三十六人撰』の選出とともに後世に大きな影響を与えた選集。実際に読んでみると、おおらかで伝統的な詠いぶりを選んだ、王道を外れない、当時の保守的な詩歌の頂点を選りすぐった…

コレクション日本歌人選030 小林守『永福門院』(笠間書院 2011)

京極派を代表する歌人永福門院は伏見院の中宮で、政治的には南北朝時代に大覚寺統と対立した持明院統を支えた中心的人物。京極派の平明で心に染み入るような歌風を代表する歌人で『玉葉和歌集集』に49首、『風雅集』に69首採られている。激動の時代のた…

コレクション日本歌人選053 石澤一志『京極為兼』(笠間書院 2012)

定家の曽孫にあたる京極為兼。定家晩年の嗜好を受け継ぎ、歌言葉の伝統を踏まえた優美で温雅な読みぶりを主張していた主流の二条派に対して、心のうごきを重視し、伝統的な修辞の枠にこだわらない言葉によって新しい歌の姿を確立しようとしたのが京極派とい…

五味文彦『後白河院 王の歌』(山川出版社 2011)

平安末期から鎌倉初期の激動の時代に、長らく治世者の立場として特異な存在感を保っていた後白河院。当初、帝の器に非ずと言われ非正統的な芸道である今様に入れあげていた皇子が、権力争いのひとつの駒として担ぎ出されて皇位に着いた後、宮廷内のパワーバ…

笹川博司『三十六歌仙の世界 ―公任『三十六人撰』解読―』(風間書房 2020)

藤原公任(966-1041)の『三十六人撰』に選ばれている36人150首についての口語訳と解説に、大阪大谷大学図書館蔵『三十六歌仙絵巻』の歌仙絵の紹介を付けてまとめた著作。『三十六歌仙絵巻』は江戸中期に写されたもの。36人150首の選択基準が著者…

『長秋詠藻』とコレクション日本歌人選063 渡邉裕美子『藤原俊成』(笠間書院 2018)

後鳥羽院をして理想の歌の姿だと言わしめた藤原俊成の歌であるが、実際に読んでみるとどの辺に俊成の特徴があるのかということはなかなか指摘しづらい。薫り高く華麗な読みぶりで、華やかであるとともに軽やかさがあるところに今なお新鮮味を感じさせるが、…