読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

鈴木喜博『対比でみる日本の仏像 Understanding Japanese Buddhist Sculpture through Visual Comparison』(2019)

日英バイリンガルの書籍、特に美術関係の入門書には、質の高いものが多い。世界マーケットも視野に入っているので、各関係者の気合の入り方が企画段階から違っているのではないかと勘繰りたくなる。入門書とはいえ、読者を甘く見ず、急所を伝えようとしている感じがビンビン伝わってくるのだ。はじめから掲載可能な情報量は通常書籍の2分の1程度になるのは分かっているので、執筆者も普段以上に緊張感を持って臨んでいるのだと思う。切れのある日本の文化を紹介するにあたっては、紹介する側にもその切れが求められている。そのハードルを本書の著者は見事に超えている。気持ちのいい本だ。

仏像の美術書は「解説文が非常に難解だ」という声をいつも聞く。その大きな一因は解説した内容を示す写真や図解が、一緒に掲載されていないことにある。本書ではそれをクリアできるように、さまざまな角度からの写真や必要な図解を掲載し、また難しい漢字の熟語や美学的用語は避け、できるだけ日常の言葉を使うようにした。(「あとがき」p126)

 

限られたスペースの中で紹介された作品はこちら。

第1章 レッスン1 2つの時代の仏像を比べよう
 ・如意輪観音座像(平安仏 奈良国立博物館
 ・如意輪観音座像(鎌倉仏 奈良国立博物館
第1章 レッスン2 3躯の十一面観音立像を比べよう
 ・十一面観音立像(左像 奈良国立博物館
 ・十一面観音立像(中央像 奈良国立博物館
 ・十一面観音立像(右像 奈良国立博物館
第2章 仁王像にみる運慶と快慶―国宝金剛力士立像 東大寺南大門所在
 ・金剛力士立像 阿形(東大寺南大門)
 ・金剛力士立像 吽形(東大寺南大門)
第3章 至宝の肖像彫刻―国宝俊乗上人(重源)坐像 東大寺俊乗堂所在
 ・俊乗上人(重源)坐像(東大寺俊乗堂)
第4章 対比で気づく運慶の構想力―国宝無著菩薩立像 世親菩薩立像 興福寺北円堂所在
 ・無著菩薩立像(興福寺北円堂)
 ・世親菩薩立像(興福寺北円堂)
第5章 仁王像に学んだ筋肉表現―国宝天燈鬼立像 龍燈鬼立像 国宝館所在
 ・天燈鬼立像(興福寺国宝館)
 ・龍燈鬼立像(興福寺国宝館)

 

360度、上下の視線位置の違いから多角的に味わいうる仏像の姿を「対比」というコンセプトのもとにきめ細やかに紹介してくれている。一般的観光客が肉眼では味わい得ない魅力にも迫り、愛好家と愛好家予備軍の「見たい」という渇望を、悩ましくもちりちり煽る内容となっている。

pie.co.jp

鈴木喜博
1950 -
マイケル・ジャメンツ(英訳)
1948 -