艶なる日本文学の系譜にある久保田万太郎の俳句集。樋口一葉-泉鏡花-永井荷風-久保田万太郎という流れや、「やつしの美」という視点、あるいは俳人として対極ともいえる四歳年上の飯田蛇笏との対比など、興味深いところを語った編者恩田侑布子による解説文も面白いアンソロジー。山本健吉をはじめとして、俳句読みの達人たちに評価の高い久保田万太郎の俳句を、文庫で簡単に、かなりしっかりした分量読めるのは、ありがたい。全902句と俳句に関する散文四篇が収められている。
あきかぜのふきぬけゆくや人の中
短日やうすく日あたる一トところ
春雨や枯らすに惜しきいのちの根
一生を悔いてせんなき端居かな
また道の芒のなかとなりしかな
しっとりとした言葉のなかに浮き出る寂しさに染まってしまいそうな句に立ち止まることが多かった。