読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

野見山朱鳥『忘れ得ぬ俳句』(朝日選書 1987)俳句の魔性を垣間見れるアンソロジー

野見山朱鳥と聞いてパッと代表句が思い浮かんでこないので、本書『忘れ得ぬ俳句』が一番大きな仕事なのだと思う。書林新甲鳥から刊行されていた『忘れ得ぬ俳句』(1952)『続・忘れ得ぬ俳句』(1955)をあわせて一巻としたもの。俳人95名に代表句から迫る密度の濃い評論。全496ページ。良書だが頻繁に参照しないのであれば処分してもいいかと思うくらいには嵩張っている。図書館にもよくあるし、手許に置いておかなくても特別問題になることはない。


水原秋櫻子『近代の秀句 新修三代俳句鑑賞』(朝日選書 1986)と比べると、季感ではなく作家個人に焦点が当てられているのでアンソロジーとしてより親しみやすいというのが優位性となる一点。俳句の魔的な表現を愛でる選句の傾向性がより鮮烈先鋭な印象を残してくれるのがもう一つの優位性。読後の満足感も畏れも嫉妬も『忘れ得ぬ俳句』のほうが少し上回っている。

川端茅舎(1897 - 1941)
咳我をはなれて森をかけめぐる
咳き込めば我火の玉のごとくなり
洞然と雷聞きて未だ生きて

上野泰(1918 -1973)
黒揚羽地を歩くとき魑魅となり

水原秋櫻子(1892 - 1981)
時鳥野に甘藍の渦みだれ
冬菊のまとふはおのが光のみ

飯田蛇笏(1885 - 1962)
なにもゐぬ雪水ふかくうごきけり

石塚友二(1906 - 1986)
百方に借あるごとし秋の暮

甘藍はカンランでキャベツのこと。「時鳥野に甘藍の渦みだれ」。渦巻でも満ちている自然が感じられる。そのなかで時鳥は鳴き、人間は言語記号を操る。

 

朝日新聞出版 最新刊行物:選書:忘れ得ぬ俳句

【収録俳人
川端茅舎
小野房子
松本たかし
京極杞陽
池内友次郎
上野泰
福田蓼汀
下村槐太
吉田忠
桂信子
牧野美津穂
三宅清三郎
日野草城
後藤夜半
水原秋桜子
山口誓子
西東三鬼
北垣一柿
村上鬼城
桜井土音
山口燕青
長谷川素逝
長谷川ふみ子
橋本鶏二
阿波野青畝
山口青邨
富安風生
秋元不死男
臼田亜浪
大野林火
岩田潔
緒方句狂
安積素顔
中村草田男
福西正幸
小山良一
高浜年尾
星野立子
中村汀女
橋本多佳子
室生犀星
久保田万太郎
加藤楸邨
石田波郷
飯田蛇笏
渡辺水巴
池内たけし
河野静雲
高野素十
高浜虚子
皆吉爽翠
上村占魚
木村蕪城
波多野爽波
西本一都
細谷源二
飯田竜太
西島麦南
福島小蕾
中田みづほ
古田中久仁雄
中川欣一
杉田久女
竹下しづの女
清原柺童
横井迦南
吉岡禅寺洞
芝不器男
横山白虹
平畑静塔
久米正雄
芥川竜之介
横光利一
石塚友二
石橋秀野
石川桂郎
コンラッド・メイリ
小川芋銭
西山泊雲
野村泊月
中島斌雄
篠原梵
安住敦
富沢赤黄男
高屋窓秋
阿部みどり女
高橋淡路女
五十嵐播水
佐藤念腹
田村木国
中村吉右衛門
前田普羅
原石鼎
山口誓子
高野素十
高浜虚子
正岡子規

 

 

 

野見山朱鳥
1917 - 1970