読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

山本陽子『図像学入門 疑問符で読む日本美術』(勉誠出版 2015)

日本美術を鑑賞するのに役立つ一応学問的な情報を平易かつ仰々しくなく伝えてくれているのだが、ざっくばらんすぎてちょっと有難味にかけるところがある。図像を生み出した社会や文化全体と関連づけて解釈するために発展した研究分野である図像学(イコノロジー)の視点から、平安期から明治までの立体平面両方の日本美術を浚っていて、マンガやアニメなどのサブカルチャーと絡めながら気軽に楽しめるアプローチを提供してくれているのだが、著者の本気度がよくわからない。気軽に楽しめる鳥獣戯画のような作品が好みということがほんのり伝わってくる程度で、なにが一押しなのかもよくわからない。知識がある分、適当にあしらわれている感じが残ってしまうのが残念なつくりだと思うのだけれど、WEBで見たところ、すかした感じがちょうどいいという人もいるようで、日本美術需要層の多層構造があって、それはそれでよろこばしい。
ちなみに作者による最後の攻め手、「奥の手」として、美術品に対して「もしもこの中で、どれか一つだけくれると言ったら、あなたはどれを選びますか?」と問う下りがある。本書の著者の選択は示されていないのは、本心をおもてには出さないつくり上当然と思いながら、やはり明示してこないところは思わせぶりかなともおもいつつ、どうですかという感じで作者に向けて私のチョイスを提示してみるなら、奈良国立博物館所蔵「出山釈迦如来立像」。サイズも調査してどこに置くかも考えた。本物は室町時代の超貴重な作品だが、レプリカでも十分。

bunka.nii.ac.jp

 

画像データベースの画像


像高96.3cm。置きたい場所はトイレ。
高頻度で飲み屋の男子便所には親父の小言というのが貼ってあって、まあまあ納得する内容であるけれども、修行を失敗して限界情態を見せてくれるものの存在には敵わないだろう。酔っている時に冷まされるのはどうかともおもうけれど、失敗した直後の人との出会いは、まあいい感じで落ち込むことなく憐れんでくれる世界を現出してくれるとおもうので、釈迦ありがとうという、オレもう少し頑張ってみる、という気分にしてくれる、はず。

bensei.jp

【付箋箇所】

目次:
第1章 釈迦の生涯―仏像の基本
第2章 仏像の種類―4つのタイプ
第3章 曼茶羅―密教世界の地図
第4章 六道輪廻と浄土―人は死んだらどこへゆく?
第5章 神々のすがた
第6章 人のかたち―肖像と似絵
第7章 絵巻物―物語を絵にする
第8章 山水画花鳥画―神仏でも人でもないもの
第9章 浮世絵
第10章 西洋絵画と日本

山本陽子
1955 -