読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【風呂場でガタリ『機械状無意識』を読む】01.抽象機械とブラックホール 主体-客体、集合-部分集合の対に属さず作用するもの

ガタリがつくりだす概念の数々は各章の見出しを見渡してみるだけでも変わっていて、不思議な世界像を見せてくれる。私として存在しているもののなかに「ブラックホール」があるなんて思いもよらなかった。しかし、なにものかをを取り込んだまま観測不能の状態にするものがあるといわれてみれば、ないと主張する根拠もなく、「ブラックホール」もあわせもっているのが私という存在なのだろうと今は思いはじめている。

表象作用の世界は常に社会的力関係によって「変造されて」いるので、シニフィアン的主体化作用は絶えず次の二つの限界情態の間を移動する。
――融合的適合情態。これは形に合った諸意味作用物を包み込み、対象に関する個人的、自我的アイデンティティを促進し、「あらゆるはみ出し物」を体系的に減少させ、記号論的諸凹凸物を研磨し、一切の価値、一切の欲望を均等化し、あらゆる局所的諸記憶を中心記憶に入れたり等をする。
――『地図作成法的』超明晰情態。これは反対に、エディプス的・人格的指呼(私、君、彼、ひと、自分、他人、君のもの、等々)に内在するミクロ-ブラックホールの裏をかく横断経路の探知を司り、繁殖性の諸特異性物の摘出、マイナーな諸言語の飛躍、積極忘却的政治の向上、創造的記憶、つまりプルーストが無意識的記憶と呼ぶところのものの解放、等々を容易にする。
(第7章 (補遺)諸記号の分子的横断 A イコン、インデックス、記号システム、言語、および図表的記号論物の機械状系図 「主体化作用諸成分」p233)

主体化作用の成分としてある「記号論ブラックホール」は「記号学的無力化作用点を構成すると同時に、機械状超強力作用点をも構成する」と解説されている。以上、字面だけを見ると、とてつもなく胡散臭い論説のようだが、ドゥルーズをも魅了した知性の輝きが数々の奇妙な概念の中に埋め込まれている。また、この「主体化作用諸成分」から「意識的諸成分」の展開の中で図式化された「図8:記号学的三角形の対合的抽象的機械装置」はこの一年のなかでみた図像の中でもトップクラスの美しさを秘めていると私は思った。ステキな景色を見たと思った。風呂場で読んでいたので、とびきりの富士山の絵がプロジェクションマッピングで投影されているような、あるいは山越阿弥陀図が出現したような印象だった。山から越えてくるのは阿弥陀の慈悲あふれる光ではなく「去勢された二項的ファルス」というものなのだが、ガタリが抽出した図の中では阿弥陀のような高貴ささえ読み取ろうとしてしまっていた。山の中心部を構成する「主体的ブラックホール」はあえて仏教的に言い換えればアーラヤ識にあたるだろう。

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引用ばかりしていては問題があるのでスケルトン状態でご紹介。実物は精神分析学系の書籍で出てくる図像の中でかなりインパクトのあるものと思う。

 

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第Ⅰ部目次:
第Ⅰ部 機械状無意識
 第1章 序論 ロゴス、それとも抽象機械か?
 第2章 言語から外へ出る
  語用論のくずかご
  言語はそれ自体では存在しない
  統治標識と権力標識
  言語的普遍概念は存在しない
  記号学的拘束、記号論的自動制御
  イェルムスレウへの回帰、それとも迂回か?
 第3章 発話行為アジャンスマン、変型、語用論的領野
  記号内容および記号表現アジャンスマンは空から降ってきたものではない
  資本主義的諸アジャンスマンシニフィアン的抽象化作用
  四つの混合タイプの発話行為アジャンスマン
  三つの限界領野
  間-語用論的領野の諸変形
 第4章 シニフィアン的顔面性、図表的顔面性
  顔面化された意識と対象なき反省的意識
  A 資本主義的顔面性
   脱コード化とされた流れに「服を着せる」ための顔面性
   シニフィアン的二項対立機械としての顔面性
   諸顔面-風景の一方通行的平滑化
   顔面性的統辞法物とシニフィアン的量化作用
  B 図表的顔面性特徴
 第5章 リトルネロの時間
  A 資本主義的リトルネロ
  B 動物の世界における音声的、視覚的、行動的リトルネロの比較行動学
   比較行動学的序列、あるいは生物-行動上エンジニアリング
   領土の多次元性
   ヒヒにおける顔面性-身体性、性、縄張、序列、および自由意志
   若枝のリトルネロ
   第一縄張的系列
   第二の系列 オーストラリアのアトリのリトルネロ
   遺伝的コード化、インプリンティング、学習、即興行為……
   記憶とリズムの共時態
 第6章 スキゾ分析のための基準標識
  モル的および分子的な存在的ミクロ-政治
  諸段階と諸規範
  透写と系統樹、地図とリゾーム
  スキゾ分析と分子革命
  二つのスキゾ分析
  三次元のスキゾ分析
  八つの「原則」
 第7章 (補遺) 諸記号の分子的横断
  A イコン、インデックス、記号システム、言語、および図表的記号論物の機械状系図
   イコン的諸成分
   インデックス的(あるいは指標づけ作用)諸成分
   コード化作用諸成分
   記号論化作用諸成分
   主体化作用諸成分
   意識的諸成分
   図表的諸成分
  B 通過諸成分に関する要約
   非-人間的機械状諸アジャンスマンにおける一般的な通過諸成分と可能物の組織
   記号論化諸アジャンスマンにおける通過諸成分と選択組織
   通過諸成分と資本主義的主体化作用


ピエール=フェリックス・ガタリ
1930 - 1992
高岡幸一
1942 -