読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

有馬賴底『『臨済録』を読む』(聞き手:エディシオン・アルシーヴ 西川照子 講談社現代新書 2015)

臨済宗相国寺派管長に聞く禅語録『臨済録』の世界への参入の仕方。岩波文庫の『臨済録』を素人が読むと、問答に分別知が紛れ込む余地がでたら瞬時に否定されるという枠組みぐらいしか感じ取ることができないので、実際のところ何をめぐって対話がなされているのかまで理解することはできない。先行する仏教の師たちの言行を前提とした言語ゲームでもあるため、それを十分に咀嚼していないことには話題にしていることが何か、たとえ注釈があったとしても十全にはわからない。また、禅の入門書や解説書である場合、実参実究が大事ということもあって、問答の意味していところを全部晒してくれない場合も多い。入門者や初学者にとっては、なかなかに狭い門となっているのが普通と思っていたが、本書は話題に上った公案について、丁寧にかみ砕いてその意味するところを伝えてくれているところがすばらしい。
各章末に注記も用意されているが、インタビュー形式での展開のなかで、公案の読み下し文と現代語訳、有馬賴底による解釈と、インタビュアー西川照子による質問と確認と感想がうまく融合していて、読みすすめていくだけで『臨済録』のコアの部分にすこし通じることができたような気持ちにさせてくれる。
実際は、ほかの書籍も含めて何度か読み返し、自分の身に引きつけて考えられるようにならなければ、とても分かったなどとはいえないのだろうが、『臨済録』にどのような問答が収められているかを、かなり効率的に記憶に残してくれるつくりは新書としては立派だと思う。もったいを付けずに語る有馬賴底と、十分に事前準備してインタビューにあたった西川照子の組み合わせも、本書を生き生きとしたものにしている。『臨済録』の難しいところを難しく考えさせずに一通り見渡して見せてくれる、効果的なガイドだと思う。

相国寺伊藤若冲動植綵絵を奉納した寺でもあって、そこで行われる「観音懺法」の法要などの話題にも言及されているところは、美術的な観点からも興味深い。

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目次:
序 章 生い立ちの記
第一章 仏に逢うては仏を殺し
第二章 「無事」と「生死」
第三章 見よ! 見よ! 双の眼で見よ
第四章 「肉体」は夢の如し、幻の如し
第五章 対話の妙、臨済と普化
第六章 人惑・退屈・仏法多子無し・旧業・衣
第七章 造地獄、臨済の地獄
第八章 〝自由〟とは───『臨済録』を捨てよ!

有馬賴底
1933 -