読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2020-01-26から1日間の記事一覧

野口米次郎「蝸牛」(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)

蝸牛 『ああ、友よ、なぜ君は今宵帰つて来ては呉れないの?』 私はこの小屋、いな、この寂しい世界で只管(ひたすら)に寂しい。 見ると戸口に、這つてゐる蝸牛は角をかくした……… 蝸牛よ、お前の角を出して呉れ! 東へ出せ、西へ出せ! 嗚呼真理はどこにある…

野口米次郎「独り谷間に於いて」(Seen and Unseen 1896『明界と幽界』より)

独り谷間に於いて 雪片のやうな冷気がかつとおとして降りそそぐ、沈黙を割く夜の青白い風に脅(おびやか)かされて、冷気は眠つた木の間を彷徨(さまよ)つて私が谷間に敷いた寝床に迫つて来る。「お寝(やす)みなさい、遠く遠く離れた身内の人々よ!」…………

今井恵子編集『樋口一葉和歌集』(2005)

和歌を読む限りでは樋口一葉は情念の人。着火が早く、燃えはじめたら火力が強い。和歌に関してはどちらかというと燃えあがる前のどこかに静けさをたたえる歌の方が好み。 071 おもふことすこし洩らさん友もがなうかれてみたき朧月夜に112 涼しさもとなりの水…