2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧
『ギターンジャリ』に次ぐタゴール自身による英語訳選詩集。30代に母語ベンガル語で表現した詩篇を50代初頭に選択し英訳して汎世界に向けて解き放った詩篇85篇。複数の詩集から選択再構成されているようではあるが、再構成して一冊の恋愛詩篇として構…
『菜根譚』の書名は宋の汪信民のことば「人咬能得菜根、則百事可做(人能く菜根を咬みえば、則ち百事なすべし)」によるもので、堅くて筋の多い野菜の根をよく噛んでいれば真の味わいを理解することができるという意味を込めている。ただ、実際に『菜根譚』…
中国本国よりも日本でのほうが人気が高くよく読まれてきた感じのある『菜根譚』についての概説書。儒教思想を核に据えつつ、仏教(とりわけ禅)と道教の教えも取り込んで、脱俗の世界観を短文で自由度高く語りつくした感のある明時代の古典。本書では江戸期…
『谷川俊太郎詩集』『谷川俊太郎詩集 続』以降に思潮社から刊行された5冊の詩集と青土社刊行の1冊を収めた詩選集。詩人の「言語に対してもっともラジカルな部分」が出ているであろう、どちらかといえば不機嫌さに覆われた44歳から62歳までの詩作品。何…
新しい技術に対しては、基本的に警戒しながら回避する方法はあるのだろうかと考えてしまう超保守的な態度を取るのが常である。それゆえ世間の動向に対しては常に受け身の態勢で、一、二年様子見することが多いのではあるが、ChatGPTのリリースはそん…
ディオゲネスから現代まで、シニシズムの原初的形態から中世、近世、現代までの様相と社会的な意味を概観できる著作。多くの言語に翻訳されている著作で、目次を見ただけでもなかなか本格的で読みごたえのある著述であることは予想もでき、実際に最後まで興…
自然から離れ人工的な技術によって人間となり、そのプロセスを今なおつづけていることを思索の中心課題として、技術と時間について根底的に考えることを選択した現代哲学者スティグレールが、自身の過去と哲学することのはじまりについて初めて語った講演録…
19世紀後半以降に登場したオーディオヴィジュアルの記録再生と配信の技術とそれがもたらした精神の変容を精神分析的アプローチから解き明かし、多様性と自由度の高い未来へ向けて解き放つことが二人の哲学者の共通の狙い。 本書はデリダとスティグレールの…
商品が売れるように絶え間なく整備されつづけている世界のなかで消費活動以外の意味が生まれる土壌が悲惨なまでに貧困化している。象徴の力、意味を生み出す力の現状分析と、現代の惨状に立ち向かうための正義と慎み深さの感情の再構築にスティグレールは傾…
自分を愛することができず他者を愛することもできない現代人。意味と感情の貧困化の果てに選択されてしまう自棄と排他。個体化に向かうべきエネルギーが行き場を失い暴発してしまうような悲劇的状況にいる人々の生きづらさを共有しつつ、それに立ち向かうべ…
ハイパー・インダストリアル社会における意識の荒廃に向きあう哲学者スティグレールへのラジオインタビューの書籍化。消費者として細分化され分類可能な対象として個体としての生の唯一性を剥奪された状態で生きる現代人の生きづらい状況を浮き上がらせるべ…
幕末から明治時代にかけて活躍した絵師河鍋暁斎の代表作とその娘暁翠の作品を、暁斎の曾孫である河鍋楠美が家伝来の資料をベースにまとめ上げた一冊。 伝統的美人図と鳥獣戯画の系列を引く日本的幻想世界を近世から近代に揺るぎなく提供した絵師の生涯の作品…
最新の韻文訳。訳注も充実。 とりあえず通読の記録。 本文以外に場面転換部分が示されていないので、本書のみで読む場合には注意が必要になってくる。 現代人が西欧古典の核心部に親しみはじめるきっかけとなる貴重な刊行物。 きっかけがあれば現代東洋人で…
長く出版社に勤め慎ましやかな生活を送りながら独り詩を作り集まって連句を巻いていたところに、40代もおしつまった1993年、小説家の車谷長吉と結婚し共同生活をはじめたことで作風が変わっていくのがよく見える詩選集。小説家の夫が強迫神経症に陥っ…
悪意にも境を接しているような辛辣なまでの知性のはたらきと、そこから生み出されている芸術の際立った生動と過剰さに促されるようにして書かれたヴァレリーのエッセイ。ドガのデッサンの木版画と銅版画による複製51枚とともに、刊行された最初の形態に沿…
世界最高峰といわれる現代ドイツの画家ゲルハルト・リヒターの中年期から刊行直近までのインタビューと初期からのノートを集成した一冊。基本的にずっと厳しく絵画に向き合ってきた作家の生き方に近づける一冊。インタビューを見ると発言自体は年を追いより…
生誕90年、画業60周年記念、現存する世界最高峰の画家ゲルハルト・リヒターの展覧会の公式図録。 写真を素材として使用した具象画と色彩と筆触との組み合わせから構成された抽象画、そしてガラスや鏡を用いた作品、約140点を収録し、研究者によるエッ…
出版社も翻訳者も監修者も哲学専門ではないということもあってか、何だかフワフワ感のあるスピノザ紹介書。翻訳者が違っていればまた違った印象の本になったのではないかという気もするが、原著者スティーヴン・ナドラーはスピノザを専門とする学術者でもあ…
ドゥルーズ『差異と反復』をできるかぎり図式的かつ体系的に描き出すこと目指して書かれた著作。 ドゥルーズを読んだことのない人にもわかるように、ドゥルーズの「先験的経験論」を取り上げて、一般的に考えられている認識の経験とドゥルーズの考える経験が…
ボードレールとランボーとマラルメの詩作を鑑として書かれたボヌフォワの重厚な詩論と芸術論。 エッセイ「ユーモア、投射影」の訳注には「ボヌフォワはランボーの言う「抱き締めるべきざらざらした現実」(『地獄の季節』所収「別れ」)を存在の真理として提…
日本語に翻訳されてもなお失われないバイロンの詩句の疾走感。 詩人シェリーとその文化圏との交友関係のなかから生まれたゴシックロマンスの初期傑作『フランケンシュタイン』『ヴァンパイア』とも精神的に繋がる世界観のなかで生きた詩人の姿を、本人の特徴…
『ドン・ジュアン』(1819年 - 1824年)は作者の死によって中断された未完の大作。物語詩と諷刺詩の混淆様式で、巻を追うごとにリアリティよりも語り手の脱線を含んだよろず語りに比重が置かれるようになる。ワーズワースの詩を崇高一辺倒と馬鹿にしながら自…
生誕140周年の熊谷守一展「わたしはわたし」の公式図録。油彩画・日本画・書から201点を掲載。97歳まで描きつづけた熊谷がクマガイ様式やモリカズ様式と呼ばれる独自の作風構築に向かったのは50代も終盤にかかってからのこと。生活にも困窮してい…
破滅の相を描いた三作。 描かれた暗さと愚かしさの魅惑、誘惑 態度や行動と心理言語の面においてのこだわりとなげやりの共存がよく描き込まれている。 男性主人公の語りが主だが、破滅していく男の傍らにいる女性の姿が短い文章で鮮烈に描かれているところも…