読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

河鍋楠美『河鍋暁斎・暁翠伝 先駆の絵師魂!父娘で挑んだ画の真髄』(角川書店 2018)

幕末から明治時代にかけて活躍した絵師河鍋暁斎の代表作とその娘暁翠の作品を、暁斎の曾孫である河鍋楠美が家伝来の資料をベースにまとめ上げた一冊。 伝統的美人図と鳥獣戯画の系列を引く日本的幻想世界を近世から近代に揺るぎなく提供した絵師の生涯の作品…

オウィディウス『変身物語』(講談社学術文庫 2023)

最新の韻文訳。訳注も充実。 とりあえず通読の記録。 本文以外に場面転換部分が示されていないので、本書のみで読む場合には注意が必要になってくる。 現代人が西欧古典の核心部に親しみはじめるきっかけとなる貴重な刊行物。 きっかけがあれば現代東洋人で…

『高橋順子詩集』(思潮社現代詩文庫163 2001)

長く出版社に勤め慎ましやかな生活を送りながら独り詩を作り集まって連句を巻いていたところに、40代もおしつまった1993年、小説家の車谷長吉と結婚し共同生活をはじめたことで作風が変わっていくのがよく見える詩選集。小説家の夫が強迫神経症に陥っ…

ポール・ヴァレリー『ドガ・ダンス・デッサン』(原著 1936, 訳:塚本昌則 岩波文庫 2021)

悪意にも境を接しているような辛辣なまでの知性のはたらきと、そこから生み出されている芸術の際立った生動と過剰さに促されるようにして書かれたヴァレリーのエッセイ。ドガのデッサンの木版画と銅版画による複製51枚とともに、刊行された最初の形態に沿…

『増補版 ゲルハルト・リヒター写真論/絵画論』(原著 1996, 2005, 企画:ワコウ・ワークス・オブ・アート 訳:清水穣)

世界最高峰といわれる現代ドイツの画家ゲルハルト・リヒターの中年期から刊行直近までのインタビューと初期からのノートを集成した一冊。基本的にずっと厳しく絵画に向き合ってきた作家の生き方に近づける一冊。インタビューを見ると発言自体は年を追いより…

監修:桝田倫広、鈴木俊晴『ゲルハルト・リヒター』(青幻舎 2022)

生誕90年、画業60周年記念、現存する世界最高峰の画家ゲルハルト・リヒターの展覧会の公式図録。 写真を素材として使用した具象画と色彩と筆触との組み合わせから構成された抽象画、そしてガラスや鏡を用いた作品、約140点を収録し、研究者によるエッ…

スティーヴン・ナドラー『いかに生き、いかに死ぬべきか 哲学者スピノザの叡智』(原著 監修:上野正道, 訳:藍浜かおり Newton新書 2023)

出版社も翻訳者も監修者も哲学専門ではないということもあってか、何だかフワフワ感のあるスピノザ紹介書。翻訳者が違っていればまた違った印象の本になったのではないかという気もするが、原著者スティーヴン・ナドラーはスピノザを専門とする学術者でもあ…

森田裕之『ドゥルーズ『差異と反復』を読む』(作品社 2019)

ドゥルーズ『差異と反復』をできるかぎり図式的かつ体系的に描き出すこと目指して書かれた著作。 ドゥルーズを読んだことのない人にもわかるように、ドゥルーズの「先験的経験論」を取り上げて、一般的に考えられている認識の経験とドゥルーズの考える経験が…

イヴ・ボヌフォワ『ありそうもないこと 存在の詩学』(原著 1980, 1992, 訳:阿部良雄、田中淳一、島崎ひとみ ほか 現代思潮社 2002)

ボードレールとランボーとマラルメの詩作を鑑として書かれたボヌフォワの重厚な詩論と芸術論。 エッセイ「ユーモア、投射影」の訳注には「ボヌフォワはランボーの言う「抱き締めるべきざらざらした現実」(『地獄の季節』所収「別れ」)を存在の真理として提…

『対訳 バイロン詩集 イギリス詩人選8』(編訳:笠原順路 岩波文庫 2009)

日本語に翻訳されてもなお失われないバイロンの詩句の疾走感。 詩人シェリーとその文化圏との交友関係のなかから生まれたゴシックロマンスの初期傑作『フランケンシュタイン』『ヴァンパイア』とも精神的に繋がる世界観のなかで生きた詩人の姿を、本人の特徴…

バイロン『ドン・ジュアン』(訳:東中稜代 音羽書房鶴見書店 2021)

『ドン・ジュアン』(1819年 - 1824年)は作者の死によって中断された未完の大作。物語詩と諷刺詩の混淆様式で、巻を追うごとにリアリティよりも語り手の脱線を含んだよろず語りに比重が置かれるようになる。ワーズワースの詩を崇高一辺倒と馬鹿にしながら自…

『熊谷守一 わたしはわたし』(求龍堂 2020)

生誕140周年の熊谷守一展「わたしはわたし」の公式図録。油彩画・日本画・書から201点を掲載。97歳まで描きつづけた熊谷がクマガイ様式やモリカズ様式と呼ばれる独自の作風構築に向かったのは50代も終盤にかかってからのこと。生活にも困窮してい…

ゲオルク・ビューヒナー『ヴォイツェク ダントンの死 レンツ』(訳:岩淵達治 岩波文庫 2006)

破滅の相を描いた三作。 描かれた暗さと愚かしさの魅惑、誘惑 態度や行動と心理言語の面においてのこだわりとなげやりの共存がよく描き込まれている。 男性主人公の語りが主だが、破滅していく男の傍らにいる女性の姿が短い文章で鮮烈に描かれているところも…