読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

バイロン『ドン・ジュアン』(訳:東中稜代 音羽書房鶴見書店 2021)

ドン・ジュアン』(1819年 - 1824年)は作者の死によって中断された未完の大作。物語詩と諷刺詩の混淆様式で、巻を追うごとにリアリティよりも語り手の脱線を含んだよろず語りに比重が置かれるようになる。ワーズワースの詩を崇高一辺倒と馬鹿にしながら自分の機知に富んだ詩の優位を誇ったりしているような作品なので、あまり堅苦しい構えで読んだりしないほうがふさわしいと思われる。

彼の冗談は説教だったし、説教は冗談だった
しかし両方とも沼地に投げ棄てられた、
機知は瘧にかかりやすい者の親友ではなかった。
もはや聞く用意の出来た耳も速記するペンも、
楽しい気の利いた文句や的を射た悪ふざけを受け入れなかった。
(第十六巻 第83連より)

ドン・ジュアンドン・ファン)の遍歴よりも物語の展開に応じた語り手の諷刺的装飾句のほうが作品のメインとなっているため、未完であることの不充足感はほぼ起こってこない。ドン・ジュアンの人物としての存在感は比較的薄く、どことなく浮遊している駒のようで、読者は巻ごとの、さらにはその場その場の詩句の流れや言葉のつぶてに語り手とともに生気を与えつつ感応することが求められているようになっている。

www.otowatsurumi.com

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【付箋箇所(連番号)】
第一巻 167, 188, 220
第二巻 4, 64, 201, 
第三巻 52
第四巻 4
第五巻 25, 48
第六巻
第七巻
第八巻 119
第九巻 56
第十巻 2, 20, 
第十一巻 2, 82, 
第十二巻 1, 22, 49, 57, 
第十三巻 19, 
第十四巻 12
第十五巻 23, 51, 89, 
第十六巻 83
第十七巻
 解説
 梗概
 バイロン年譜
 参考文献
 あとがき

ジョージ・ゴードン・バイロン
1788 - 1824

ja.wikipedia.org

東中稜代
1940 - 

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