読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『熊谷守一 わたしはわたし』(求龍堂 2020)

生誕140周年の熊谷守一展「わたしはわたし」の公式図録。油彩画・日本画・書から201点を掲載。97歳まで描きつづけた熊谷がクマガイ様式やモリカズ様式と呼ばれる独自の作風構築に向かったのは50代も終盤にかかってからのこと。生活にも困窮していたところ日本画制作を勧められたことがひとつのきっかけで購買層が広がるとともに油絵の作風にも影響を与えていったことがかなりよく見てとれる構成になっているように感じた。50代中盤までのクマガイ様式以前の作品だけであっても日本美術史の中には名をとどめたであろう力を持った作家ではあるが、老境に至ってから40年ちかくの活動から生み出された平明自在で尽きることのない味わいを持つ作品の数々がなければ、美術専門家や愛好家以外にも広く深く愛されることはなかったであろう。熊谷守一の作品集や展覧会カタログや研究所や評伝などに接すると、熊谷守一老人力とでもいったものにいつも励まされることになる。老害を生み出すような年齢になろうとも、未知の世界を拓く可能性はないわけではないと、勝手に自分に当てはめて心整えるきっかけにもなってくれる貴重な芸術家だ。
※今回は作品番号172の「たまご」と、横尾忠則の「絵具のストローク」に感じる「肉体的感応的エロティシズム」を取り上げたエッセイと見開きで掲載されていた作品番号38の「裸」などがとくに印象的だった。

 

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【目次】
わたしはわたし
第一章 人生をたどる
第二章 絵をひもとく
第三章 こだわりを楽しむ
気ままに生き 気ままに描く

エッセイ
 熊谷守一のエロティシズム :横尾忠則(美術家)
 物の「素形」 :土屋禮一日本画家)
 音楽家から見た熊谷守一 :舘野泉(ピアニスト)
 日々変化する庭と向き合って :沖田修一(映画監督)
 熊谷守一 宵月 :高畑勲(アニメーション映画監督)
 熊谷守一さんの書が好きです :桂南光噺家

熊谷守一評伝年譜 福井淳子編
作品リスト

 

熊谷守一
1880 - 1977

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