読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ピエール・ブルデュー『メディア批判』(原題『テレヴィジョンについて』1996, 藤原書店 2000)

ジャーナリストの池上彰さんは、どこかの新書で、テレビは見るものではなく出るものだということをおっしゃっていた。いちばんの理由は情報収集にかかる時間面でのコストパフォーマンスが悪いためということだったと思う。当事者の意見なので、そんなものなのだろうと思って記憶している。

本書、ブルデューの『メディア批判』はワイドショー批判として今も通用する基本的な視座をコンパクトに提供してくれている(主として商業主義批判)。大勢はこの20年間では変われなかったということの印象もおまけでついて来る。

 

ジャーナリズムという世界は、大変はなはだしいシニシズムによって特徴づけられているにもかかわらず、多くの人々がモラルについて語ります。社会学者の視点からすれば、モラルというものは、人々がモラルに利害関心を持たせるようにするメカニズム、つまり、構造に支えられるのでなければ、有効ではありません。そして、モラルに対する顧慮等が出現するためには、この構造の中に、モラルに対する顧慮が、支持、補強、褒賞を見出す必要があるのです。(第Ⅱ部 見えない構造とその効果 「テレビの支配力」p99)

 

「モラルに対する顧慮が、支持、補強、褒賞を見出す必要がある」というところは確かにそうで、何らかのインセンティブが働かないと、何事かに対する個人的な興味関心の持続というところでさえ、すぐ危うさに直面してしまう。

 

目次:

第Ⅰ部 スタジオとその舞台裏
見えない検閲
見せることによって隠す
情報の循環的流通
時間の無さと 「ファースト・スィンキング」
まったく偽りのあるいは真実を偽った対論
矛盾と緊張

第Ⅱ部 見えない構造とその効果
市場でのシェアと競争
凡庸化する力
視聴率計算によって審判される闘争
テレビの支配力
〔占領者への〕 協力
入場権利料と退場の義務

補遺 ジャーナリズムの支配力
ジャーナリズム界のいくつかの特性
侵入の効果
規範的な小追記

付録 オリンピック――分析のためのプログラム
後記 テレビ、ジャーナリズム、政治

 

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ピエール・ブルデュー
1930 - 2002
櫻本陽一
1966 -