読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

人文書

栗原康『超人ナイチンゲール』(医学書院 シリーズケアをひらく 2023)

アナキズムを研究者栗原康によるナイチンゲールの評伝。ある日突然神の声を聴き、社交生活のなかでのめぐりあわせもあって看護の道に突き進んでいったナイチンゲール。召命された人は止まらない。裕福な家庭に生まれ高度な教育も受けたナイチンゲールには、…

ジョルジョ・アガンベン『最初の哲学、最後の哲学 形而上学と科学のあいだの西洋の知』(訳:岡田温司 平凡社ライブラリー 2025)

幾時代を経ることで複雑になり分裂した状態にある諸科学に対して、いま哲学が思索するのは諸科学の究極ではなく、諸科学のあいだであるという姿勢を説く論説。科学者の客観性を保証するのが哲学者の放浪性であり幻想性であり、それでいて究極に辿り着かない…

『ベルクソン講義録 4 ギリシャ哲学講義』(訳:合田正人,高橋聡一郎 法政大学出版局 2001)

本質をめぐって、偽なるものとの区別と、解決不能の宣言とについて、歴史的に考察している講義。 繰り返し問われる根源的不安定さと、不安定性に向き合う知を愛するものの誠実さ。 www.h-up.com 【目次】1 プロティノス講義2 ギリシャ哲学 1984‐一1985 ア…

井筒俊彦英文著作翻訳コレクション『言語と呪術』(原著 1956, 鑑訳:安藤礼二 訳:小野純一 慶應義塾大学出版会 2018)

井筒俊彦のはじめての英文著作の全訳。絶筆の『意識の形而上学―「大乗起信論」の哲学』にいたるまで関心が持続した言語という人間の根源的な領域に、原始からの光を探りながら分け入っていった意欲的な著作。 名づけることで操作統制下に置くこと、言葉を発…

秋月龍珉『一日一禅』(講談社学術文庫 2003, 原著 講談社 1977)

「参禅は必ず正師を選んで入室しなければならぬ」、とはいうものの、それはハードルが高いし、そもそも正師かどうか判断できるまでの正しい道というものも確立されてはいない。それでも過去の蓄積のなかから、これはという禅の精髄に触れていくことは可能で…

東浩紀二冊『訂正可能性の哲学』(ゲンロン叢書 2023)『訂正する力』(朝日新書 2023)

『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(講談社、2011年)から12年、中小企業経営者として過ごした年月とも重なる期間を経て、持続しながら更新改定していくことの価値を実践的に示した書籍二冊。主張に派手さはないが、過去のテキストを読み直して…

木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』(星海社 2019)

技術が高度に発達していく中にあっても未来に希望を見いだせない時代の空気感のなかで起こってきた20世紀末から21世紀初頭にかけてのいくつかのアナーキーな思想の系譜を辿って見せた著作。現実世界がもはやホラーでしかないような状況で、オルタナティ…

エドゥアール・ジュールダン『プルードン』(原著 2023, 訳:伊多波宗周 白水社文庫クセジュ 2024)

プルードンの『所有とは何か』が面白かったので、同じ訳者による最新のプルードン入門紹介の翻訳書である本書を手に取ってみた。訳者あとがきでの「プルードン概説書の決定版」との評価にたがわず、プルードンの全体像がよく伝わる優れた仕事だと感じた。 資…

篠原雅武『「人間以後」の哲学 人新世を生きる』(講談社選書メチエ 2020)

哲学書というよりもアート志向の哲学者によるエッセイもしくは私小説って感じで読んだほうがしっくりくる作品。 人間絶滅の危機的状況が突き付けられている歴史的段階に生きる者たちが、従来の人間中心的な思考に対して批判的態度で思考しはじめたところに共…

クリス・ベイル『ソーシャルメディア・プリズム SNSはなぜヒトを過激にするのか?』(原著 2021, 訳:松井信彦 みすず書房 2022)

ソーシャルメディアではエコーチェンバー現象によって見解の偏向が強化されているという説に対して、複数の実験調査から違った現象が浮かび上がってきたことを示すレポート。 対立する視点に立つ者たちのテキストにも触れるようになった実験者たちは、むしろ…

モーリス・ブランショ『終わりなき対話』(原著 1969, 訳:湯浅博雄+上田和彦+郷原佳以 筑摩書房 2016-2017)

ブランショの主著の翻訳三分冊。基本は文芸批評であるが、時に対話作品が混在していることもあって、ブランショの思索を辿ることのできる大きなまとまりのひとつの文芸作品として存在しているような感覚が読後に残る。立ち止まっては茫然として、戸惑いを感…

スティーヴン・ウルフラム『ChatGPTの頭の中』(原著 What Is ChatGPT Doing ... and Why Does It Work? 2023, 監訳:稲葉通将 訳:高橋聡 ハヤカワ新書 2023)

AIが人間が用いている自然言語をどのように理解していて、それがどのように人間の知の領域に影響を与える可能性があるか、現時点での見通しを一般読者層に教えてくれるひとつのレポート。 脳の神経回路を模したコンピューターのニューラルネットモデルの研究…

ヘラクレイトス『ソクラテス以前哲学者断片集』(第1分冊)(第22章 訳:三浦要、内山勝利  岩波書店 1996)

年初から読み返しているT・S・エリオットの『四つの四重奏』のエビグラフに掲げられているヘラクレイトスの断片2と60に促されて、ヘラクレイトスの残された断片から見える思想の全体像に近づくために本書を手に取り、その先にひとつのヘラクレイスト像の極…

エドゥアール・グリッサン『多様なるものの詩学序説』(原著 1996, 訳:小野正嗣 以文社 2007)

クレオールの詩学。 クレオールがどういったものかをよく知らない読者にとってはかなり疎外感が持続するので、調べながら読むか、別の著作を経由するかして、徐々に近づいていったっほうが無難な書物。 同業の文学部教授レベルの聴衆に対しての講演とその質…

北野圭介『情報哲学入門』(講談社選書メチエ 2024)

現今の情報社会に対する代表的な学問的論考についてそれぞれの主張傾向を紹介しマッピングしている、どちらかというと読書案内書に近い内容の一冊。労力少なく俯瞰的視点を持たせてくれるところが良い。 以下に上げるのは、書籍単位で焦点を当てられている主…

中村昇『ホワイトヘッドの哲学』(講談社選書メチエ 2007)

読みどころはベルクソンとホワイトヘッドの「持続」概念の違いから「象徴」の働きへと論を進めている入門篇の7-8節。 それから、ホワイトヘッドが語る「神」が正直よくわからないと言っているところは、『過程と実在』の当該箇所を読み返して自分で考えるき…

『バルベー・ドールヴィイ箴言集』(訳編:宮本孝正 審美社 1989)

箴言集というものはたまに読み返してみたくなる。自分の現在地を確認したくなるためだろうか。先日はラ・ロシュフコーも読み返していた。本書は今回で三回目くらいの再読か。 バルベー・ドールヴィイは反俗貴族主義の19世紀フランスのデカダン小説家。ボー…

トマス・リッド『サイバネティクス全史 人類は思考するマシンに何を夢見たのか』(原著 2016, 訳:松浦俊輔 作品社 2017)

生物や人間と機械を同一視点から扱うことを可能にしたサイバネティクスの歴史をたどる著作。 扱っているのは第二次世界大戦時の軍用制御装置開発から21世紀初頭のテロ発生まで。 ノーバート・ウィナー、グレゴリー・ベイトソン、ティモシー・リアリーなど…

『宮川淳著作集 1』(美術出版社 1980)

所有している単行本『鏡・空間・イマージュ』『紙片と眼差とのあいだに』を再読した勢いに乗って著作集に手を出した。 現代的な絵画とテキストをめぐるシニフィアンとイマージュの終わりなき戯れについての論考の数々。 表現されたものの表面の輝きを軽妙に…

ホワイトヘッド著作集第12巻『観念の冒険』(原著 1933, 訳:山本誠作+菱木政晴 松籟社 1982)

ホワイトヘッドの哲学は「有機体の哲学」と言われるとともに「プロセス哲学」とも言われ、この宇宙が生成し変化していく様を捉えて描き出そうとしているものであるようだ。 私は今回ホワイトヘッドを主にドゥルーズとどのような関係にあるのかという関心から…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『精神病』(原著 1981, 訳: 小出浩之+鈴木國文+川津芳照+笠原嘉 岩波書店 1987)

1955-1956に行われたラカンの第3セミネール。シュレーバーの回想録を読み進めながら精神病の特質を神経症との違いから考察していく講義録で、弟子筋の精神分析家に対しての教育的側面が強く表れていて、分析家ではない一般読者には少々近寄りがたい空気も強…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『フロイト理論と精神分析技法における 自我  -1954-1955-』(原著 1978, 訳: 小出浩之+鈴木國文+小川豊昭+南淳三 岩波書店 1998, 2017)

ラカンのセミネール第2巻は『快楽原則の彼岸』をひとつの中軸テキストとして扱っていて、反復と機械という視点から人間を検討しているところが特に面白い。 以下、気になった点のメモ。 ・利己愛が騙すものであり、自我という想像的機能が欺く性質のもので…

グレゴリー・ベイトソン+メアリー・キャサリン・ベイトソン『天使のおそれ 聖なるもののエピステモロジー』(原著 1987, 訳:星川淳 青土社 1992)

岩波文庫から代表作『精神の生態学へ』と『精神と自然』とが刊行されて、手元においておくことが容易になったベイトソン。本書『天使のおそれ』は『精神と自然』で次回作として予告されていたものだが、ベイトソンがなくなってしまったために娘のメアリー・…

西田洋平『人間非機械論 サイバネティクスが開く未来』(講談社選書メチエ 2023)

情報処理の観点から人間と機械を同一視して考察を行うサイバネティクスという思考体系の創成期から現代にいたるまでの流れを追った見通しの良い解説書。現在のAIブームをつくり上げる基礎となった世界を論理的に秩序立った構築物として見るフォン・ノイマ…

プリーモ・レーヴィ『溺れるものと救われるもの』(原著 1986, 訳:竹山博英 朝日文庫 2019)

アウシュビッツの記憶の風化と多くの人々の単純化された受容姿勢の変化に抗うようにして改めて書かれた考察と問いかけの書。本書執筆ののちにうつ病が悪化し死にまで至ってしまったが、体調悪化を予期しながらも書かずにはいられなかった作者の苦しみと責務…

ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件 知・社会・言語ゲーム』(原著 1979, 訳:小林康夫 水声社 叢書言語の政治 1986)

初読。 大きな物語の失墜したポスト・モダンの時代を告げる宣言の書かと思っていたが、ちょっと違った。60年代後半からポスト・インダストリーという概念とともに主にアメリカで言われはじめたポスト・モダンの時代状況を、検討分析し報告するという形式の…

アントニオ・ダマシオ『進化の意外な順序 感情、意識、創造性と文化の起源』(原著 2018, 訳:高橋洋 白揚社 2019)

感情と文化的・創造的な心は、生命メカニズムを維持調節するホメオスタシス(恒常性)に由来するという仮説を、最先端の科学研究の成果とともに哲学的に論じた刺激的な一冊。生命が発生したこととともに、自他の区分、敵と味方の判別が生まれ、進化上複雑に…

戸谷洋志『親ガチャの哲学』(新潮新書 2023)

出生の偶然性に始まる人生(本書では一派的にハズレとみなされる側の)をどう引き受けるかという論点をめぐって書かれたジャーナリスティックで哲学風味の著作。 個人の責任を追及するのではなく、社会制度を整え、人生に絶望することのないよう対話(主に傾…

インタビュー・編:吉成真由美『嘘と孤独とテクノロジー 知の巨人に聞く』(集英社インターナショナル新書 2020)

インターネット時代において、より進行した負の側面、個人の分断孤立化と格差の拡大、偽情報や対立の蔓延などに危機感を抱く編者吉成真由美が、インタビュアーとなって、現代を代表する知の世界の巨人たち5人の考えを聞くという趣向の一冊。 研究する分野も…

ジュール・ミシュレ『万物の宴 すべての生命体はひとつ』(原著 1879, 編:大野 一道, 訳:大野一道+翠川博之 藤原書店 2023)

フランスの歴史家ミシュレの死後出版された未完の作品。『フランス革命史』を書き上げた後、ルイ・ナポレオンのクーデターによって成立した第二帝政期に共和制支持の立場を崩さなかったがために、コレージュ・ド・フランス教授職ほかすべての公職を失うこと…