人文書
アナキズムを研究者栗原康によるナイチンゲールの評伝。ある日突然神の声を聴き、社交生活のなかでのめぐりあわせもあって看護の道に突き進んでいったナイチンゲール。召命された人は止まらない。裕福な家庭に生まれ高度な教育も受けたナイチンゲールには、…
幾時代を経ることで複雑になり分裂した状態にある諸科学に対して、いま哲学が思索するのは諸科学の究極ではなく、諸科学のあいだであるという姿勢を説く論説。科学者の客観性を保証するのが哲学者の放浪性であり幻想性であり、それでいて究極に辿り着かない…
本質をめぐって、偽なるものとの区別と、解決不能の宣言とについて、歴史的に考察している講義。 繰り返し問われる根源的不安定さと、不安定性に向き合う知を愛するものの誠実さ。 www.h-up.com 【目次】1 プロティノス講義2 ギリシャ哲学 1984‐一1985 ア…
井筒俊彦のはじめての英文著作の全訳。絶筆の『意識の形而上学―「大乗起信論」の哲学』にいたるまで関心が持続した言語という人間の根源的な領域に、原始からの光を探りながら分け入っていった意欲的な著作。 名づけることで操作統制下に置くこと、言葉を発…
「参禅は必ず正師を選んで入室しなければならぬ」、とはいうものの、それはハードルが高いし、そもそも正師かどうか判断できるまでの正しい道というものも確立されてはいない。それでも過去の蓄積のなかから、これはという禅の精髄に触れていくことは可能で…
『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(講談社、2011年)から12年、中小企業経営者として過ごした年月とも重なる期間を経て、持続しながら更新改定していくことの価値を実践的に示した書籍二冊。主張に派手さはないが、過去のテキストを読み直して…
技術が高度に発達していく中にあっても未来に希望を見いだせない時代の空気感のなかで起こってきた20世紀末から21世紀初頭にかけてのいくつかのアナーキーな思想の系譜を辿って見せた著作。現実世界がもはやホラーでしかないような状況で、オルタナティ…
プルードンの『所有とは何か』が面白かったので、同じ訳者による最新のプルードン入門紹介の翻訳書である本書を手に取ってみた。訳者あとがきでの「プルードン概説書の決定版」との評価にたがわず、プルードンの全体像がよく伝わる優れた仕事だと感じた。 資…
哲学書というよりもアート志向の哲学者によるエッセイもしくは私小説って感じで読んだほうがしっくりくる作品。 人間絶滅の危機的状況が突き付けられている歴史的段階に生きる者たちが、従来の人間中心的な思考に対して批判的態度で思考しはじめたところに共…
ソーシャルメディアではエコーチェンバー現象によって見解の偏向が強化されているという説に対して、複数の実験調査から違った現象が浮かび上がってきたことを示すレポート。 対立する視点に立つ者たちのテキストにも触れるようになった実験者たちは、むしろ…
ブランショの主著の翻訳三分冊。基本は文芸批評であるが、時に対話作品が混在していることもあって、ブランショの思索を辿ることのできる大きなまとまりのひとつの文芸作品として存在しているような感覚が読後に残る。立ち止まっては茫然として、戸惑いを感…
AIが人間が用いている自然言語をどのように理解していて、それがどのように人間の知の領域に影響を与える可能性があるか、現時点での見通しを一般読者層に教えてくれるひとつのレポート。 脳の神経回路を模したコンピューターのニューラルネットモデルの研究…
年初から読み返しているT・S・エリオットの『四つの四重奏』のエビグラフに掲げられているヘラクレイトスの断片2と60に促されて、ヘラクレイトスの残された断片から見える思想の全体像に近づくために本書を手に取り、その先にひとつのヘラクレイスト像の極…
クレオールの詩学。 クレオールがどういったものかをよく知らない読者にとってはかなり疎外感が持続するので、調べながら読むか、別の著作を経由するかして、徐々に近づいていったっほうが無難な書物。 同業の文学部教授レベルの聴衆に対しての講演とその質…
現今の情報社会に対する代表的な学問的論考についてそれぞれの主張傾向を紹介しマッピングしている、どちらかというと読書案内書に近い内容の一冊。労力少なく俯瞰的視点を持たせてくれるところが良い。 以下に上げるのは、書籍単位で焦点を当てられている主…
読みどころはベルクソンとホワイトヘッドの「持続」概念の違いから「象徴」の働きへと論を進めている入門篇の7-8節。 それから、ホワイトヘッドが語る「神」が正直よくわからないと言っているところは、『過程と実在』の当該箇所を読み返して自分で考えるき…
箴言集というものはたまに読み返してみたくなる。自分の現在地を確認したくなるためだろうか。先日はラ・ロシュフコーも読み返していた。本書は今回で三回目くらいの再読か。 バルベー・ドールヴィイは反俗貴族主義の19世紀フランスのデカダン小説家。ボー…
生物や人間と機械を同一視点から扱うことを可能にしたサイバネティクスの歴史をたどる著作。 扱っているのは第二次世界大戦時の軍用制御装置開発から21世紀初頭のテロ発生まで。 ノーバート・ウィナー、グレゴリー・ベイトソン、ティモシー・リアリーなど…
所有している単行本『鏡・空間・イマージュ』『紙片と眼差とのあいだに』を再読した勢いに乗って著作集に手を出した。 現代的な絵画とテキストをめぐるシニフィアンとイマージュの終わりなき戯れについての論考の数々。 表現されたものの表面の輝きを軽妙に…
ホワイトヘッドの哲学は「有機体の哲学」と言われるとともに「プロセス哲学」とも言われ、この宇宙が生成し変化していく様を捉えて描き出そうとしているものであるようだ。 私は今回ホワイトヘッドを主にドゥルーズとどのような関係にあるのかという関心から…
1955-1956に行われたラカンの第3セミネール。シュレーバーの回想録を読み進めながら精神病の特質を神経症との違いから考察していく講義録で、弟子筋の精神分析家に対しての教育的側面が強く表れていて、分析家ではない一般読者には少々近寄りがたい空気も強…
ラカンのセミネール第2巻は『快楽原則の彼岸』をひとつの中軸テキストとして扱っていて、反復と機械という視点から人間を検討しているところが特に面白い。 以下、気になった点のメモ。 ・利己愛が騙すものであり、自我という想像的機能が欺く性質のもので…
岩波文庫から代表作『精神の生態学へ』と『精神と自然』とが刊行されて、手元においておくことが容易になったベイトソン。本書『天使のおそれ』は『精神と自然』で次回作として予告されていたものだが、ベイトソンがなくなってしまったために娘のメアリー・…
情報処理の観点から人間と機械を同一視して考察を行うサイバネティクスという思考体系の創成期から現代にいたるまでの流れを追った見通しの良い解説書。現在のAIブームをつくり上げる基礎となった世界を論理的に秩序立った構築物として見るフォン・ノイマ…
アウシュビッツの記憶の風化と多くの人々の単純化された受容姿勢の変化に抗うようにして改めて書かれた考察と問いかけの書。本書執筆ののちにうつ病が悪化し死にまで至ってしまったが、体調悪化を予期しながらも書かずにはいられなかった作者の苦しみと責務…
初読。 大きな物語の失墜したポスト・モダンの時代を告げる宣言の書かと思っていたが、ちょっと違った。60年代後半からポスト・インダストリーという概念とともに主にアメリカで言われはじめたポスト・モダンの時代状況を、検討分析し報告するという形式の…
感情と文化的・創造的な心は、生命メカニズムを維持調節するホメオスタシス(恒常性)に由来するという仮説を、最先端の科学研究の成果とともに哲学的に論じた刺激的な一冊。生命が発生したこととともに、自他の区分、敵と味方の判別が生まれ、進化上複雑に…
出生の偶然性に始まる人生(本書では一派的にハズレとみなされる側の)をどう引き受けるかという論点をめぐって書かれたジャーナリスティックで哲学風味の著作。 個人の責任を追及するのではなく、社会制度を整え、人生に絶望することのないよう対話(主に傾…
インターネット時代において、より進行した負の側面、個人の分断孤立化と格差の拡大、偽情報や対立の蔓延などに危機感を抱く編者吉成真由美が、インタビュアーとなって、現代を代表する知の世界の巨人たち5人の考えを聞くという趣向の一冊。 研究する分野も…
フランスの歴史家ミシュレの死後出版された未完の作品。『フランス革命史』を書き上げた後、ルイ・ナポレオンのクーデターによって成立した第二帝政期に共和制支持の立場を崩さなかったがために、コレージュ・ド・フランス教授職ほかすべての公職を失うこと…