読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

批評

川名大『俳句に新風が吹くとき-芥川龍之介から寺山修司へ』(文學の森 2014)

俳句は詩であるという立場を堅持しようとする批評家によって味読された昭和俳句に新風を起こした14人14冊の句集の案内。扱っている時代が昭和であり最年少作家が寺山修司であるというところで、新風と言われても全面的に素直に受け取れるのは誰にとって…

湯浅博雄『反復論序説』(未来社 1996)

永遠回帰し反復するものとは自己同一性をもたずそれゆえに通常の時間のなかではしかと捉えることのできない生成であり力である。本書はニーチェ、ドゥルーズ、ベルクソン、フロイト、ラカンらの思考を検討しながらネルヴァル、プルースト、ソレルス、ランボ…

ジル・ドゥルーズ『シネマ 1 運動イメージ』『シネマ 2 時間イメージ』(原著 1983, 訳:財津理,宇野邦一ほか 法政大学出版局 叢書・ウニベルシタス 2006, 2008)

人間を拘束する「真」を告発し、新たな実践の生成を映画に見る哲学書。 ある程度歴史上の映画監督の傾向を知っておかないと読み取りにも問題が生じてきそうなことが分かっていたために読むのを躊躇していた著作だったが、福尾匠が『非美学 ジル・ドゥルーズ…

江里昭彦『生きながら俳句に葬られ』(深夜叢書社 1995)

前衛と分類されるであろう夏石番矢と攝津幸彦推し。 良い作品を書いても多くの人に読まれて残っていくということはおそろしく難しいが、ひとたび言及されれば一部の作品は形を崩すことなく読み継がれる可能性があるというのが、俳句と短歌の良いところなのだ…

『鑑賞現代俳句全集 第3巻 自由律俳句の世界』(立風書房 1980)

尾崎放哉、種田山頭火、最近のというほど最近ではないが戦後世代の住宅顕信、この三人の詠風は似ていて、破滅系純真詠。昭和末期の住宅顕信においては、さすがに環境が違って判別がつきやすいが、放哉と山頭火はうっかりしないところでも、作品の境界を画し…

川名大『昭和俳句の検証 俳壇史から俳句表現史へ』(笠間書院 2015)

俳句のピークは昭和にあって今ではないということを確認させられる本のひとつ。新興俳句に関する新資料が多く収録されていて貴重だが、批評文も併せて書くような俳人を対象とした玄人向けの本だろう。俳句表現の移りゆきを年度ごとに示しつつその特徴を論じ…

『鑑賞現代俳句全集 第1巻』(立風書房 1981)

現代俳句は明治期の正岡子規の俳句革新運動からはじまり、詩型が短いこともあって、歴史的推移や時代時代の達成を比較的容易につかみやすいが、個々の作品の良し悪しを言語化して読み手の趣味判断の良し悪しとともに標準化していくことはなかなか難しい。創…

北大路翼『加藤楸邨の百句 人間の業と向き合ふ』(ふらんす堂 2020)

俳人で廃人の北大路翼が、師匠の師匠であるところの加藤楸邨の俳句から百句を選んで鑑賞している本。無頼の感受性から一気に句に肉薄していく姿勢が気持ち良い。癖の強い二人の俳人のカップリングで、人間臭い俳句表現の世界を見せてくれている。 枯れゆけば…

『篠原鳳作全句文集』(沖積舎 2001)

篠原鳳作は無季俳句の実作と理論で俳句表現の新たな領域を切り拓こうとした俳人。鹿児島市の出身。大学卒業後に宮古島の旧制中学校に勤めていた時、有季の俳句作成に困難を感じたところから無季俳句へと舵を切り、その後自覚的に社会的な主題なども扱うよう…

福尾匠『非美学 ジル・ドゥルーズの言葉と物』(河出書房新社 2024)

本書は第15回紀伊國屋じんぶん大賞2025の大賞受賞作。第2位が千葉雅也『センスの哲学』、第3位が三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』というなかでの受賞なので相当すごい。こういう場合、期待感が勝手に高まってしまい、上がったハードルを超…

ロザリンド・E・クラウス『視覚的無意識』(原著 1994, 訳:谷川渥+小西信之 月曜社 2019)

自身の論考自体を芸術的かつ哲学的なものとしようとしているようなところがあり、マッチョで錯綜した文章で、すんなり読ませてはくれない。面白いところもいろいろあるのだが、ちゃんとした読解には体力と知力と時間の積み重ねが必要なようで、フレンドリー…

ロザリンド・E・クラウス『アヴァンギャルドのオリジナリティ モダニズムの神話』(原著 1985, 訳:谷川渥+小西信之 月曜社 2021)

訳者小西信之のあとがきが作者の立ち位置や本書の成立事情について書かれていて初学者にとっては本書のなかではいちばん明解で有効。それをよんだ後で鎧で固めたようなクラウスの美術批評の本文を読んだほうが良かったと、後から後悔。本篇も二部構成の第一…

小林恭二の俳句鑑賞本二冊『この俳句がスゴい!』『これが名句だ!』(角川学芸出版 2012, 2014)

批評であるから当たり前なのではあるが基本的に俳句の下手な俳人に小林恭二は厳しい。10代から俳句に親しみ自然と句が出て来るような俳句ネイティブと20代以降に俳句を始めた晩学の意識的な俳人に階級的な線を引いていて、小林恭二自身は前者に属してい…

吉本隆明『親鸞 決定版』(春秋社 1999)

信と信の崩壊、知と知の崩壊を思考しつづけた親鸞の核心に迫る吉本隆明。傑作だろう。ただ、信という形でしか思考できなかった時代の親鸞の思考を現代と直接結びつけて参考とすることはかなり難しいのではないかと思う。絶対他力のベースに阿弥陀信仰がある…

夏石番矢の評論集二冊『天才のポエジー』(邑書林 1993)『世界俳句入門』(沖積舎 2003)

『天才のポエジー』は俳句を中心に詩歌全般と音楽、舞踏、小説を論じた夏石番矢第二評論集。切り口が鋭く全体的に興味深い論考が並んでいるが、分量の短い論考のほうが凝縮力と切れがあってより刺激的な場合が多かった。北原白秋と荻原井泉水、北原白秋と高…

選:小澤實『近現代俳句』(河出文庫 古典新訳コレクション 2025)

本書は池澤夏樹個人編集の日本文学全集29『近現代詩歌』から「俳句」部分を分離独立させた一冊。原句に口語訳と解釈を合わせているのが特徴。選句も感心するが付箋をつけたところは選者の解釈の妙によるところが大きい。 避けがたき寒さに坐りつづけをり …

クレメント・グリーンバーグ『近代芸術と文化』(原著 1961, 訳:瀬木慎一 紀伊國屋書店 1965)

反装飾の美術批評。 【付箋箇所】15, 25, 34, 37, 45, 47, 58, 59, 79, 90, 99, 106, 109, 117, 131, 154, 160, 174, 180, 182, 188, 201, 224, 228, 234, 256, 259, 280, 283, 302, 315, 318 クレメント・グリーンバーグ1909 - 1994 ja.wikipedia.org

塚本邦雄『百句燦燦   現代俳諧頌』(講談社文芸文庫 2008, 講談社 1974)

戦後の短詩系文学の批評家として一番に上げられるのが実作者でもある塚本邦雄。本書は人を絶望させるほどの段違いの博識と批評眼と濃密な文章で現代俳句を取り上げた批評書兼アンソロジー。 取り上げられた俳人は69名。かなりアクの強い選で、他の人であっ…

髙柳克弘『究極の俳句』(中公選書 2021)

現在40代の俳句実作者の俳句評論。作ることと読むことのバランスがよく、どちらかといえば人をあまり選ばない間口の広い俳句評論集。 自分自身を相対化し、複数視点から世界を重層化してとらえることから生まれる可笑しみを、表現として良しとする俳句の姿勢…

関悦史『俳句という他界』(邑書林 2017)

新興俳句・前衛俳句の俳人評を軸に編集された評論集。 作ることよりも読むことに重心があって、そのなかではじめて知る作家やどこが良いのかあまりピンとこなかった作家や好きではあってもどこがどのように好きなのかうまく表現できない作家について、ポスト…

西脇順三郎『T・S・エリオット 新英米文学評伝叢書』(研究社出版 1956, 1965)

詩人で英文学者でもあった西脇順三郎によるT・S・エリオットの詩の研究。西脇自身は詩人としてよりも批評家としてのエリオットに才能を感じているようであるが、本書は主として詩人としてのエリオットを取り上げている。ラフォルグ、シモンズ、パウンドとの…

ガヤトリ・C・スピヴァク『デリダ論 『グラマトロジーについて』英訳版序文』(原著 1976, 訳:田尻芳樹 平凡社ライブラリー 2005)

1976年に英語版の翻訳が出たデリダの『グラマトロジーについて』(原著1967)の翻訳者序文で、スピヴァクのデビュー作。『グラマトロジーについて』だけでなく、当時出版されていた『弔鐘』や未刊行の論文にまで言及した本格的なデリダ論。スピヴァクの読み…

ピエール・マシュレ『ヘーゲルかスピノザか』(原著 1979, 訳: 鈴木一策+桑田禮彰 新評論 1986, 1998)

目的論のヘーゲルと目的論を拒否するスピノザを対比的に論ずる著作。 スピノザの哲学を捻じ曲げてまで読み批判するヘーゲルの目的論的な視座を、スピノザのエチカの目的論を拒否する論理構成を確認しつつ批判するという枠組みで比較検討されている議論で、著…

ナンシー・K・ギッシュ『時間の超克 -エリオット詩研究-』(原著 1981, 訳:高山吉張+高山翠 山口書店 1984)

最初期の詩作品から『四つの四重奏』に至るエリオットの詩作の変遷を年代順にたどり解説していく著作。代表的作品をほぼもれなく取り上げているので、実作品を読み直しながらエリオット詩を再吟味するのに合っている。前期の人格が皮肉に分裂してしまってい…

モーリス・ブランショ『完本 焔の文学』(原著 1949, 訳:重信常喜+橋口守人 紀伊國屋書店 新装復刻版 1997)

本書中でかなり気になるところはパスカルについてのヴァレリーの批判的な文章について、ブランショがパスカルのほうに好意的で加勢を寄せているところ。思考の遣り繰りを、計算しつつ書くことであらかじめ自分に納得させることに収まったようなヴァレリーよ…

ハンス・ブルーメンベルク『真理のメタファーとしての光/コペルニクス的転回と宇宙における人間の位置づけ』(原著 , 編訳:村井則夫 平凡社ライブラリー 2023)

ページ数192で本体価格1600円は通常の値付けの倍くらいではないかと感じるが、その理由は本書のどこにも書かれていない。まずそのあたりをクリアしないとあまり売れないと思うのだが、一見で買う人も少ないであろうから無視しているということか。表紙買いと…

モーリス・ブランショ『終わりなき対話』(原著 1969, 訳:湯浅博雄+上田和彦+郷原佳以 筑摩書房 2016-2017)

ブランショの主著の翻訳三分冊。基本は文芸批評であるが、時に対話作品が混在していることもあって、ブランショの思索を辿ることのできる大きなまとまりのひとつの文芸作品として存在しているような感覚が読後に残る。立ち止まっては茫然として、戸惑いを感…

吉本隆明『良寛』(春秋社 1992, 2004)

批評家吉本隆明の著作の中でもひときわ完成度の高い思考の軌跡をたどることのできる一作ではないかと思う。突出した読み手として在ることと、読むことによって更新された表現の世界(対象)が同時に立ち上がってくるような感覚を味わうことができる読書経験…

講談社学術文庫から出ている佐藤信夫のレトリック論4冊

現代日本で修辞学・レトリック学を学んでみようと調べると、まず佐藤信夫の著作に当たる。東京大学卒業後、雑誌社勤務、商社勤務を経て、大学のフランス語教師に至るまで、在野の研究者としての期間が長い批評家的気質あるいはエッセイスト的気質の強い著述…

ジャック=アラン・ミレール編 ジャック・ラカン『転移』(原著 1991, 訳: 小出浩之+鈴木國文+菅原誠一 岩波書店 2015)

1960-1961に行われたラカンの第8セミネール。 プラトンの『饗宴』から欲望の諸相と精神分析の現場から導き出された転移の現象に関しての構造を浮き上がらせて見せる上巻と、ポール・クローデルのクーフォンテーヌ三部作の注釈から愛と欲望についてさらに考…