批評
世界規模のネットワークに常時接続されている世界を生きる現在の人間の在りようを現代記号論の立場から分析しより良き未来に繋げることを意図してなされた総計13時間を超える講義対談録。 基本的に東大教養学部時代の師弟コンビの再編となる高級コミュニケ…
レンブラントはその画業全般にわたって新約旧約の聖書のエピソードを取り上げて自身の作品をつくりあげてきた。ただ、その作品の構成は聖書の記述に厳密に従ったものではなく、レンブラントが聖書と聖書をもとにした先行作品に取材して、独自に形づくりあげ…
日常を離れた驚異的で奇跡的な技を見せる見世物小屋の異質な価値基準の世界の主役たる軽業師と道化の志向性は近代の画家や詩人や小説家たちの意識と相似形をなしている。現にあるものを嘲笑するイロニーが作り出す意味の空無の時空間が、観衆の普段の振舞い…
アガンベンの単著に入っていない論文の集成の書の翻訳。全21篇。 総ページ数500超で、造本も背表紙の厚さを見るといかついが、アガンベン思想の全体的枠組みを体感するのにはもってこいの著作。いずれかの単著を読み終えたのち、広範な領域にわたるアガ…
ベンヤミンやショーレムを参照しながらパウロの書簡におけるメシア的なもの・メシア的な時間について考察した短期集中講義録。メシア的な時間とは「過去(完了したもの)が現勢化していまだ完了していないものとなり、現在(いまだ完了していないもの)が一…
動物から人間を隔てているものは言語活動ではなく言語活動をもたない状態(インファンティア:タイトルでは幼児期と訳されている)をも持っているところにあるとし、言語活動の主体を構成しつつ行う人間の言語活動の諸相を言語学・哲学・人類学・神学など様…
20世紀のフランスを代表する詩人のひとりイヴ・ボヌフォアの重厚なテクストとともにアルベルト・ジャコメッティの生涯と創作の軌跡をたどることができる充実した作品集。 本書は20年ほど前に池袋西武の三省堂美術洋書コーナーにて9000円くらいで購入…
第二次世界大戦期の独裁国家誕生以降、政治的には世界的に例外状態あるいは緊急事態がつづいていることを指摘して、行政の執行権力の拡大による法の力に関わる危うさの増大を考察した濃密な一冊。法学に疎いものにはなかなか敷居が高いが、現在においても継…
日本独自編集のアガンベンの芸術論集。絵画が中心で、映画と演劇とダンスが少々配合されている。全20篇。こういった著作では著者の論考そのものも楽しみであるのはもちろんだが、自分の知らない作家に出会えることの喜びもある。本書では日本ではあまりな…
ブランショ、デリダ、ドゥルーズなどによって論じられるメルヴィルの特異な短編小説「バートルビー」(1853)の新訳とアガンベンのバートルビー論を組み合わせて刊行された一冊。本篇と序文という形で刊行される形式は海外では多くあるようだが、メルヴィルの…
アガンベン28歳の時の処女作、芸術論。ベンヤミンに多大な影響を受け、驚くべき博識を支えに、潜勢力を重視する独自の思考を組み上げていくアガンベンのはじまりの著作。 芸術家と鑑賞者にともに存在する批評的意識、芸術と芸術に関わる自分自身を解体しつ…
ジュネの芸術論6篇。レンブラント2篇、ジャコメッティ、綱渡り芸人でジュネの恋人だったアブダラへのメッセージ、犯罪少年たちへ向けたラジオ原稿、演劇論。貧しさと闇を抱えているがゆえに異彩を放ちつづける者たちへの讃歌。既成の枠組みを支える世俗的…
サルトル最初期の論考3篇を収めた一冊。 「想像力 ―デカルトからフッサールまで―」(初出 1936, 訳:平井啓之) 知覚と想像力、現実と非現実、受動的綜合と能動的綜合。知覚を成立させる素材と志向と想像力によって像(イマージュ)を成立させる素材と志向と…
実現はしなかったがイタロ・カルヴィーノとクラウディオ・ルガフィオーリとともにイタリア文化のカテゴリー的な諸構造を探求するための雑誌刊行を企画していたことがベースとなって考えられ書きつづけられたエッセイの集成。 そっか、カルヴィーノとアガンベ…
どちらかといえば文章読本的な比較芸術論。空間展開する絵画彫刻作品と時間展開する文芸作品の表現の志向性の違いを説いている。 レッシング自身が劇作家であり詩人でもあるため、ギリシアローマの古典作品を取り上げて技巧を評価しているところがもっとも読…
現代文学において詩というと抒情詩を思い浮かべるのが常ではあるが、しばらく前までは物語詩や叙事詩、劇詩のほうが一般的であったといってよいだろう。ホメロス、ウェルギリウス、ダンテ、シェークスピア、ミルトン。日本でいえば平家物語や世阿弥・金春禅…
150年ほど前に刊行されたウォルター・ペイターの唯美主義の書『ルネサンス』は美術や文芸の世界にスキャンダルを巻き起こし、ペイターの学者としての道や文筆家としての活動に困難さをもたらすことになった著作であるとともに、世紀末芸術を加速させると…
バルトが1966年から1967年にかけて三度日本を訪れたことをきっかけに書かれた記号の国としての日本讃歌の書。 日本的とされるエクリチュール(書字、書法、表現法)の実体にとらわれない空虚さの自由度に感応したバルトの幻想紀行的小説風テクスト。…
1999年から2011年にかけて書かれた松浦寿輝による日本の現代詩への誘いの文章。 2009年度第17回萩原朔太郎賞受賞作でもある自身の詩集『吃水都市』を含めて、本書で取り上げられている詩集や詩人は、詩歌文芸にすこしでも関心のある読者にとっ…
バルト選集の第一巻として、1961-71年のあいだに公表されたもののなかから本人が選んだ論考を訳してまとめた著作。バルト生前の翻訳書で。日本をテクストとして読み解いた『表徴の帝国』(1970)にも深く関係する、異端の学者としての存在表明、闘いの…
謎が謎のままで放置されるにもかかわらず、謎の味わいを最大限に引き出し、多くの資料を読み込んだ理性的なアプローチと惑溺ともいえる作品愛から様々な解釈の方向性を残しつつ、見るべき対象をしかと捉えて離さないステファノ・ズッフィの本文。見ていると…
『柄谷行人『力と交換様式』を読む』(文春新書)に収録された講演草稿「交換様式と「マルクスその可能性の中心」」において柄谷行人がマルクスのフェティシズム論に関して多くの示唆を受けたことを示した著作。同じ講演草稿のなかで柄谷行人は、経済的下部…
絶望の先にある希望とうまくいかなくても耐えることの必要を説いたのが『力と交換様式』という著作だという柄谷行人の基本的考えが繰り返しあらわれるのが印象的な本。 柄谷行人自身をはじめとして、多くの共同執筆者に共通しているのは、本を繰り返し読み丹…
リチャーズがケンブリッジ大学の学生に対し、作者名とタイトルを伏せた13編の詩を配布し、それぞれにレポートを書くことを求めた実験に基づいていて編纂された、詩の鑑賞から見た批評の諸問題に関する研究分析の書。詩への既得反応、先入観、韻律への鈍感…
主著『崇高の修辞学』(月曜社 2017)から4年、2010年から2019年までのあいだに発表してきた単独の論文やエッセイを「崇高」「関係」「生命」という3つのテーマのもとに集めてリライト・再編集して出来上がった美学論集。芸術作品そのものを語るより…
これはおそらくあとからじわじわ効いてくるタイプの著作である。 初読で雷に打たれるようなタイプの作品ではない。 カントの三大批判を個人全訳した著者による、カントの晩年様式としての著作『判断力批判』の手堅い読解の書。 本書の感触といては、教育者と…
プラトン、カント、ヘーゲル、ニーチェ、ハイデガー、メルロ=ポンティの芸術哲学の本流ともいえる流れを基本に、アラン、ショーペンハウアー、ボードレール、ヴァレリー、バシュラールなどの彩り豊かな芸術論者を配する、西欧芸術論を概観するのに優れた軽…
壮年のロラン・バルトがフランス国立民衆劇場の機関紙的位置を占めていた『民衆劇場』誌でブレヒト派の劇評家として活躍していた時代の作品。理論的背景やバルトならではのエレガンスさはしっかり融合されてはいるが、ジャーナリスティックな論争姿勢が顕著…
はじめての組題百首『堀河百首』をまとめ、勅撰集『金葉集』を編纂、歌論『俊頼髄脳』を残し、俊恵、鴨長明を弟子筋に、その他おおくの歌人に影響を与え、後代に名を残す源俊頼ではあるが、実際のところその歌は現代ではあまり読まれていないのが実状であろ…
寄る辺なく取り付く島もない虚無の場としての無底、それに憤る意志が運動として何故か発生し(神と呼ばれる何ものかの性格を帯び)、存在の根拠となる底なるものを形成し、さらには善と悪のふたつの極相をもつ世界が創造され、その創造が被造物の存在と運動…