読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

批評

D・H・ロレンス『無意識の幻想』(原著 1922, 照屋佳男訳 中公文庫 2017)

『チャタレイ夫人の恋人』などの小説で有名なD・H・ロレンスの文明批判の書で、生命を阻害する知性を糾弾し、反知性主義を押し出している論考。本人はいたって科学的と主張しながら持論を展開しているのだが、その宇宙論や生命観、性の理論や教育観は、詩…

著・訳:古田亮、著:岡倉覚三『新訳 東洋の理想 岡倉天心の美術思想』(平凡社 2022)

1903年=明治36年にロンドンで出版された『東洋の理想』として知られる天心岡倉覚三の処女作『The Ideals of the East-with special reference to the art of Japan』の最新訳に、訳者古田亮による本篇に匹敵する分量の『東洋の理想』研究が付された最…

ガストン・バシュラール『空と夢 運動の想像力に関する試論』(原著 1943, 法政大学出版局 1968,2016)

物質についての想像力論第3巻、「大気(風)」の想像力、空の詩人に関する研究。飛翔するもの、翼を持つものの詩的世界、また墜落するものの世界。シャルル・ノディエ、リルケ、ニーチェ、シェリー、キーツ、ダヌンツィオ、ヴィクトル・ユゴー、ブレイク、…

ガストン・バシュラール『水と夢 物質的想像力試論』(原著 1942, 法政大学出版局 2008, 2016)

物体に触れてはたらく想像力はエンペドクレス以来の根本四大元素にいたりつくまで進むことによって詩的喚起力を持つイマージュをつくりあげるという。本書『水と夢』は『火の精神分析』(1938)につづいて刊行された物質についての想像力論の第2巻。四大元素…

森田真生『数学する身体』(新潮社 2015、新潮文庫 2018)

数学を専門にしていない人にも開かれた数学と数学する人をめぐっての軽快かつ情緒のある世俗批評。チューリングと岡潔がメインだか、その前段で語られる数学の形式化と基礎づけに関する危機の歴史の語り方が興味深い。数を数える数学の発生にはじまり、心と…

渡辺広士編訳『ロートレアモン論集成』(思潮社 1977)

ロートレアモンは死後50年を経た1920年代にシュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンが注目したことによってようやく読まれるようになった19世紀の特異な呪われた詩人で、本書にはその再評価の初期段階で書かれた7名のロートレアモン論と論考を翻…

松長有慶『空海』(岩波新書 2022)

新書で手に入りやすい空海最新入門書。真言宗僧侶で全日本仏教会会長も務めた高僧による、空海の著作をベースにした思想伝授に重きを置いた解説書。近作には、『訳註 秘蔵宝鑰』(春秋社 2018)、『訳注 般若心経秘鍵』(春秋社 2018)、『訳注 即身成仏義』…

ガストン・バシュラール『ロートレアモンの世界』(原著 1939, 平井照敏訳 思潮社 1970)

つい最近、蓮實重彦がジャン=ピエール・リシャールのテーマ批評にからめてバシュラールからの影響ということを語っていたネット記事に影響されて手に取ってみた一冊。 理性に先行するイマージュという視点からロートレアモンの詩を論じている。 想定外に破…

エメ・セゼール二冊『帰郷ノート/植民地主義論』(訳:砂野幸稔 平凡社 1997, 平凡社ライブラリー 2004)、『クリストフ王の悲劇 コレクション現代フランス語圏演劇01』(訳:尾崎文太+片桐祐+根岸徹郎、監訳:佐伯隆幸 れんが書房新社 2013)

エメ・セゼールはフランスの海外県でカリブ海西インド諸島の島のひとつマルティニーク出身の詩人、政治家。ネグリチュード(黒人性)という概念を提起し、黒人の地位向上と近代西欧からの精神的解放ののろしを上げ、植民地主義を批判した人物。代表作『帰郷…

見田宗介『宮沢賢治 ― 存在の祭りの中へ』(岩波書店 20世紀思想家文庫12 1984, 岩波現代文庫 2001)

本当の修羅は修羅でない者にむかってことばを投げつけずにはいられないものなのだろう。 だから、多作が可能であり、際限のない推敲が可能となるのだろう。 50歳を過ぎてようやく納得できたのは、私自身は修羅ではないということ。 その差を確認するための…

監修:宇野邦一+鈴木創士、訳:管啓次郎+大原宣久『アルトー後期集成Ⅱ 手先と責苦』(河出書房新社 2016)

明晰と錯乱の混淆した類いまれな作品。アルトーが生前に構想していた最後の作品は、長期間におよぶ精神病院収用の最後の数年間に書かれた書簡と詩的断章からなるもので、妄想と呪詛が現実世界に対して牙をむいている。全集編者による推奨の短文に「アルトー…

三好達治『詩を読む人のために』(岩波文庫 1991, 至文堂 1952)

「初めて現代詩を読もうとする年少の読者のために」書かれた批評家的資質の確かな詩人による現代詩入門書というのが本書の位置づけではあるが、刊行年度が1952年ということもあって、内容的には文語調の近代詩から口語自由詩へ発展し定着していく過程を…

三好達治『萩原朔太郎』(筑摩書房 1963, 講談社文芸文庫 2006)

萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治の詩人論。『月に吠える』『青猫』で日本の口語自由詩の領域を切り拓いたのち、「郷土望景詩」11篇において詩作の頂点を迎えたと見るのが三好達治の評価で、晩年の『氷島』(1934)における絶唱ならぬ絶叫は、詩の構成からい…

畠中哲夫『三好達治』(花神社 1979)

越前三国の地で三好達治の門下生であった詩人畠中哲夫による評論。三好達治自身の作品や生前実際にかわされたことばはもちろんのこと、同時代周辺の文学者たちの表現を多くとりこんで、詩人三好達治の存在がいかなるものであったかを、重層的に表現している…

三好達治『諷詠十二月』(新潮社 1942, 改訂版新潮文庫 1952, 講談社学術文庫 2016)

戦時下の昭和17年9月に刊行された「国民的詩人」三好達治の詩論集。本書では、戦時色が色濃く出ている試論であり、詩人自らの手によって削除入れ替えされる前の七月・八月を補遺として収録して、時代と三好達治自身の移り変わりも見わたせるように配慮さ…

千葉雅也+二村ヒトシ+柴田英里『欲望会議 性とポリコレの哲学』(角川ソフィア文庫 2021)

ゲイであることをカミングアウトしている気鋭の哲学者千葉雅也と、能動的な男優以外の演者を中心に据える斬新な演出を繰り出すAV監督二村ヒトシと、戦闘的フェミニストでSNS上で炎上上等の言論活動を繰り広げてもいる彫刻を中心に活動する現代美術家柴…

粟津則雄『ダンテ地獄篇精読』(筑摩書房 1988)

山川丙三郎の文語訳(1914-1922)ダンテ『神曲』を導きの糸として取り入れていたのは大江健三郎の代表作のひとつ『懐かしい年への手紙』(1987)。本書はその翌年に出版された地獄篇のみの読み解き本で、寿岳文章訳(1974-76)の訳業に大きくインスパイアされてい…

マリオ・プラーツ『官能の庭Ⅱ ピクタ・ポエシス ペトラルカからエンブレムへ』(原書 1975, ありな書房 2022)

1993年にありな書房から訳出刊行されたマリオ・プラーツの芸術論集『官能の庭』の分冊版の第二巻。 イタリア・ローマに生まれ、専門とするイギリス文学研究については20世紀の最高峰と言われるとともに、自国の美術と文芸にも深い理解を持ち合わせてい…

ベンヤミンの『メディア・芸術論集』とパウル・シェ―アバルト『虫けらの群霊』(原著 1900, 訳・解説:鈴木芳子/絵:スズキコージ 未知谷 2011)

ベンヤミンの『メディア・芸術論集』を読み返していたところ、シェ―アバルトを褒めている「経験と貧困」というエッセイに目が止まったので、手に取って読んでみた小説。出版社未知谷の編集者による煽り文句は、惰眠をむさぼる「善良な市民へ疾駆するプレ・ダ…

冷泉為人『円山応挙論』(思文閣出版 2017)

俊成、定家からつづく和歌の家、冷泉家二十五代当主冷泉為人による円山応挙論。箱入り400頁を超える堂々たる造りに、期待感と緊張感をもって手に取ったところ、100頁弱の付録冊子がついていることに虚を突かれた。どう見ても素人の手になるとしか思え…

大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』(星海社新書 2019)

題名も装丁も青年層向けを意識したもので、中高年が手を出すには気恥ずかしさがある作品ではあるが、シオラン研究者が大学の紀要や哲学討論会での発表の内容をもとにして創りあげられたもので、内容的には手際よくしかも批判的視点を交えながら的確にシオラ…

ジャン・フランソワ・ビルテール『荘子に学ぶ コレージュ・ド・フランス講義』(講義 2000, 出版 2002, みすず書房 亀節子訳 2011)

スイス生まれの中国学者がパリの地の聴衆に向けて講義した荘子の記録。日本人が日本人に向けて語る荘子とはだいぶ違った印象の深読みが実践されていて面白い。荘子を語るにあたって引き合い参照される人物たちがまず独特で、荘子像を新たなかたちで印象づけ…

ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー『神 第一版・第二版 スピノザをめぐる対話』(原著 1787, 1803, 法政大学出版局 吉田達訳 2018)

ヤコービ(1743-1819)を相手にした「汎神論論争」において、当時言論界で無神論者として忌避されていたスピノザの思想をはじめて擁護し、肯定的に読み解く方向性を与えた対話篇。人格神でも目的や意志を持った創造神でもない無限の実体としての神即自然のスピ…

國分功一郎『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』(講談社現代新書 2020)

國分功一郎の良いところでもありもの足りないところは紛うかたなき優等生であるところ。嫉妬も込めて、ちょっとだけ刺激不足といいたくなる研究者であり、破綻しない正統派の市民政治の実践家であると、今現在、個人的には捉えている。学究の面でも行政の面…

冨田恭彦『バークリの『原理』を読む ―「物質否定論」の論理と批判』(勁草書房 2019)

バークリは、物質を否定し人間の知覚する精神と神の存在のみを実体であるとした18世紀アイルランドの哲学者で聖職者。主著『人知原理論』は1710年の刊行。 バークリの物質否定を強く打ち出した観念論は、ニュートンの自然科学的考えが力を持っていた当…

塚本邦雄『定型幻視論』(人文書院 1972)

塚本邦雄の歌論・短詩系文学論における代表作。1950~1960年代、前衛短歌運動が最も盛んだった時期の当事者による批評的営為。短詩型文学を否定した桑原武夫の『第二芸術』 (1946) へ苦い思いを抱き、口語自由詩の作者であり短詩系文学の理論家でも…

菱川善夫『塚本邦雄の宇宙』Ⅰ・Ⅱ(短歌研究社 2018)

戦後の前衛短歌運動を二十一世紀にいたるまで駆け抜けた塚本邦雄を、短歌批評家としての立場から擁護し共に戦った菱川善夫による批評作品。 塚本邦雄が亡くなった2005年6月9日から二ヵ月余り、同年8月25日に刊行された追悼特集『現代詩手帖特集版 …

塚本邦雄『新古今集新論 二十一世紀に生きる詩歌』(岩波書店 1995)

岩波書店が主催するセミナーの2時間×4回という枠組みで新古今集を正面から扱うことに無理を感じた塚本邦雄が、新古今集成立の周辺を語ることで、新古今集の特徴的な輪郭を炙り出した一冊。 前半部分で新古今風の母体となった六百番歌合と千五百番歌合にお…

竹西寛子の「永福門院」(筑摩書房 日本詩人選14『式子内親王・永福門院』1972, 講談社文芸文庫 2018)

はじめから大学勤務の国文学者という肩書しかない人物よりも、原稿料で生きてきた上で大学講師ともなったという肩書の作家の書いた歌人評のほうが、書き手の視点や思い入れが色濃く出ていて、独自研究と愛憎の年輪の深さを背景に、読ませる文章を提供してく…

コレクション日本歌人選012 阿尾あすか『伏見院』(笠間書院 2011)

『新古今和歌集』以後の停滞していた歌の世界に新風を起こした京極派の代表的歌人で、『玉葉和歌集』の下命者でもある伏見院。後鳥羽院とはまた違ったタイプの天才的歌人であったようだ。 撰者の一人で代表的歌人であった定家と反りが合わなかった後鳥羽院に…