読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ハインリヒ・フォン・クライスト『クライスト名作集』(白水社 1972)

クライストの戯曲五篇。

一筋縄ではいかない主人公たち、敵役たち。ドゥルーズガタリの『千のプラトー』ではカタトニー(緊張病)という言葉でも表現されているように、極度の精神的緊張状態において突然意志や行動の転換もしくは昏倒が起こって劇の世界に亀裂が走る瞬間を(読むだけでも)体感できる作品群。カフカなどにも影響を与えたその作品は、生前にはあまり評価されず、上演される機会にも恵まれず、失望と苦悶のなか、クライスト自身が自作の劇の最後の登場人物となってしまったかのように34歳の若さでピストル自殺を遂げてしまう。おのれを追い込み煮詰めて生きたがゆえの(水蒸気爆発にも似た)破綻。もったいないと思いはするものの、そのようにしか生きられなかった人物であり、その人でしか創り出しえなかった作品であると思い、すこし襟を正すような気持ちも持ちながら読みすめた。メールシュトレームに呑まれていく人を呆然と見続けてしまう状態に近いものもあったかもしれない。

 

「こわれがめ――喜劇――」(1806 初演1808 公刊1811)中田美喜訳
アンフィトリオン――モリエールを模した喜劇――」(1806 初演1899 公刊1807)中田美喜訳
「ペンテシレイア」(1807 初演1876 公刊1808)岩淵達治訳
ハイルブロンの乙女ケートヒェン ――あるいは試練――大歴史的騎士劇」(1808 初演1810 公刊1810)羽鳥重雄訳
「公子ホムブルク」(1809 初演1821 公刊1821)羽鳥重雄訳

 

シュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)という言葉には収まりきらない、マイナー文学の荒々しさ。亀裂、裂け目、断崖、断層。浄化、カタルシスにはいたらない個への方向転換。不遜を貫く強度。

 

ハインリヒ・フォン・クライスト
1777 - 1811
中田美喜
1931 - 1990
岩淵達治
1927 - 2013
羽鳥重雄
1928 -

 

参考:

uho360.hatenablog.com

 

uho360.hatenablog.com