読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

谷口江里也『ロス・カプリチョス 視覚表現史に革命を起した天才ゴヤの第一版画集』(未知谷 2016)

ゴヤの第一版画集『ロス・カプリチョス』は1798年、ゴヤ52歳の時の自費出版作品。この年はスペインの首席宮廷画家にも任命された年でもあったが、フランス革命以降の市民社会の動向、王室や教会の権威の弱体化を感じて、国家最上層のパトロンを相手に一点物の油絵を描くことから、版画という大量印刷によって複製が可能となるメディアによって一般民衆層を相手に絵を描く方向に精力を移行させていったゴヤの新しい挑戦が込められた作品集。庶民層から上流階級までを対象にした風刺が効いた作品の数々は、統治者側から危険視されるレベルのもので、刊行早々販売中止の決断をせざるを得ないものであったが、かえって作品の力と版画というメディアの影響力の強さを証明しているともいえる。この時期の油絵の作品としては1802年制作の「着衣のマハ」「裸のマハ」が有名。版画『ロス・カプリチョス』は想像力をおおいにはばたかせた奇想を刻み付けている作品集で、谷口江里也の解説は描かれた対象を読み解くとともに、白黒二色で巧みに構成された光と影の画面の特徴とその効果を教えてくれる。自身も作家として創作に携わる者だけが敏感に感じ取れる表現技巧の巧みさを、わかりやすく指摘して見せてくれるところが作品の良さをより知らしめてくれる。『ロス・カプリチョス』に収められた作品の数々は、ほかの版画集の作品と比べて目にする機会が多いのだが、谷口江里也の案内で見るとまた新しい側面を感じ取ることができた。

 

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フランシスコ・デ・ゴヤ
1746 - 1828
谷口江里也
1948 -