読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『ドレの旧約聖書』『ドレの新約聖書』(訳構成:谷口江里也、挿画:ギュスターヴ・ドレ 宝島社 2010)

旧約聖書の挿画が155点、新約聖書の挿画が78点。いずれも精緻な木口木版画作品で、聖書の世界に見るものを引き込まずにはおかない傑作ぞろい。「古典文学の世界を、自らが描いた圧倒的な量の画像で視覚的に物語る」というドレが掲げた一大目標のうちでも聖書の挿画作成はおそらく特別なものであったろう。原画はA4サイズ程度の小さなものであるはずなのに、そこに描き込まれた世界は広大で、多くの人びとの生命があふれるように描かれている。描かれる対象の崇高さとあいまって、繰り返し見ること要請する力強さと繊細さが画面を満たしている。谷口江里也による聖書の要約構成文も妥当なもので、ドレの版画とともに旧新両約聖書の世界をその世界観の違いと連続性を理解しやすく提供してくれている。
旧約の方では宮殿や神殿の描写と戦闘における群像の描写の緻密さと対象それぞれの描き分けの技巧の見事さに感心し、新約の方ではイエスの崇高なたたずまいと逮捕され十字架に磔にされるまでの嘆きのうちにある虚ろな姿に心打たれる。
短時間のうちに聖書全体を見通せる作品を提供しているところにドレと谷口江里也の仕事の素晴らしさがある。とくにドレの絵は隅々にまで神経が行き届いていて、情報量が圧倒的で、よく印象に残ってくれる。小さな版画のうちに聖書に描かれた場面を、資料と想像力とから生き生きと描きあげていることには感心するほかない。衣服や装飾、装備、風土を一目で伝える技術と考証の素晴らしさに触れてみることに損はない。時間的にも金銭的にも圧倒的にコストパフォーマンスの高い聖書関連出版物なのではないかと思う。

tkj.jp

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谷口江里也
1948 - 
ギュスターヴ・ドレ
1832 - 1883
    

参考:

uho360.hatenablog.com