読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『ペーター・フーヘル詩集』(小寺昭次郎訳 積文堂 2011)

旧東ドイツの詩人ペーター・フーヘル(1903-1981)の生前刊行詩集全五冊のうちから代表的な第一詩集『詩集』(1948)と第二詩集『街道 街道』(1963)を全訳刊行したもの。

ペーター・フーヘルは1946~62年までの間国際的な文芸雑誌『意味と形式』の編集者でもあった人物で、ドイツの統一再建と反ファシズム、反独裁体制を根底に新たな文化創出を目指していた。ブレヒト普及に努め、ベンヤミンを紹介し、エルンスト・ブロッホやカントロヴィッチらとも古くから交流を持っていた。

作風としては、幼少年期を過ごしたベルリン郊外の農村と街の印象を謳いあげた田園詩風なものと、青年期以降に経験した戦争によって荒廃した農村と街を静かで深い悲しみと憤りを刻みつけるようにしたためた抵抗と告発の詩が混在している。

翻訳は、世界的な「転換期の時代」1950年代に、社会変革運動に己の人生をかけて活動していた文学者のひとりでベンヤミンの『ベルリンの幼年時代』の名訳でも知られる小寺昭次郎の遺稿による。

新しい社会を生み出そうと奮闘していたが必ずしも成果を上げたとは言い切れないペーター・フーヘルと小寺昭次郎の生涯は、巻末にある四篇の解説とエッセイからそのおおよその様子を知ることができる。何も知らずに通読した時よりも、激しい思いに貫かれていたであろう二人の文学者の生涯を思い合わせながら読んだ再読時のほうが、作品から感じ取るイメージはより鮮やかになったので、最初に巻末の解説文を読んで事前知識を少し入れておくほうが順序としては正解なのかもしれない。詩の文章も静謐で寡黙なところがあるので、必ずしも一読明瞭に理解できるものばかりではなく、像を結ぶのに多少時間がかかるのはあらかじめ予想しておいたほうが無難だ。

裸の足は
切り株の切り傷だらけ。

ぼくはあなたを褒め称える、
大地よ、
いまもまだ石の下で、
世界の沈黙のもとで
眠りもせず、終わりもしない あなたを。
(『詩集』「夏」より)

 

【付箋箇所】
17, 52, 55, 67, 125, 163, 211, 246, 270, 271, 274, 288, 290, 302, 307

ペーター・フーヘル
1903 - 1981
小寺昭次郎
1911 - 2003