大正14年9月、10年ほどの間に訳しためていたフランスの最新の詩人たちの詩を集めた大部なアンソロジー。66人339篇にわたる訳業は、まとめるにあたっては、フランスの最新の詩の動向を伝えることはもちろん、日本語における詩の表現の見本となることをも念頭に置いていた。100年前の仕事であるにもかかわらず、その熱量と典雅さ、そして何よりも詩への愛に裏打ちされた高い批評眼によって、現代においても読むに値する書物であり続けている。
西欧の詩へのあこがれと日本語による詩の表現の革新に多くの表現者が期待をもっていた時代であるからこそ実現した訳詩集であり、刊行後も長く愛され続ける歴史的な一冊として存在し続けている。
刊行後にもよりよい訳詩を求めて幾度となく堀口大學が手を入れ続けているところにも、訳詩でありながら日本語の詩に持続的に影響を与えている理由があるようである。
いちばん新しく刊行された岩波文庫版は、最もインパクトをもって受け止められた初版本に基づいている。新潮文庫や講談社文芸文庫などで読んだことがあっても、またもう一度読んでみる価値はある。初版本に添えられた16人の詩人の肖像画や写真が載せられているところにも興味をそそられる。
今回目に留まったのは以下の詩篇
マツクス・ジヤコブ 石を前に歌へる
ジヤン・コクトオ シヤボン玉、グレコ
フランシス・ピカビア 黒奴
ギイ・シヤルル・クロス 遺言の代りに、流れ
ジヤン・モレアス われ身を比ぶ
ボオドレエル 秋の歌
フイリツプ・ヴアンデルピル 死人の弥撒、プロロオグ
ルミ・ド・グウルモン 微笑、レダ、あらしの薔薇
ポオル・フオル 雨
フランシス・ジヤム 星を得る為の祈り、苦痛を愛する為の祈り、雨の一滴が
シヤルル・アドルフ・カンタキユゼエン 碑銘
ルヰ・マンダン 抒情発生
フエルヂナン・エロル 雪
ノワイユ夫人 若さ
フエルナン・グレツヒ 解脱