読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

セルジュ・フォーシュロー『マレーヴィチ』(美術出版社〈現代美術の巨匠〉シリーズ 1995)

20世紀初頭の複数の芸術運動を駆け抜けた感のある作品群を、カラー106点と白黒挿入図版で紹介。自身が切り開いた「シュプレマティスム(絶対主義)」の抽象作品を頂点とした絵画制作を通しての精神の運動を追えるところが興味深い。具象からキュビズムを経て抽象画にいたり、シュルレアリスム的画風を経て、具象を選択する絵画人生は、社会主義体制・社会主義リアリズムの確立過程との距離感の変遷と考えあわせることでより強い印象を持つことができる。抽象画から具象への回帰にしても公式社会主義リアリズムには
見られない強い個性の表出があって面白い。

しかし、何といっても見ておくべきは「シュプレマティスム」期の究極の作品、「黒い正方形」(1913)、「黒い円形」(1913)、「白の上の白」(1918)の極限極少の構成要素からなる作品。日本人であれば禅画の円相や仙厓の「丸・三角・四角」を思い出すかもしれない。墨の質感と違う油彩の質感と大きさを感じながら・・・

沈思黙考の時間。

カジミール・セヴェリーノヴィチ・マレーヴィチ
1879 - 1935
セルジュ・フォーシュロー
佐和瑛子(訳者)