読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ゲオルク・ジンメル『ジンメル・エッセイ集』 川村二郎編訳 (平凡社ライブラリー 1999)アドルノやベンヤミンに影響を与えたエッセイのスタイルと切れ味の良い文章

哲学者・社会学者としての論文や講義録にもジンメル節と言っていいようなことばの選択が匂い立つことはままあるのだが、一般読者層に向けて書かれたジンメルの哲学的エッセイは文化や芸術を鮮やかに扱っていて、より一層書き手の個性が際立って、文章自体が躍動しているような魅力がある。アドルノベンヤミンが影響を受けながら活動したというのもうなづける。収録作のなかでは「大都会と精神生活」がいちばん学者としての業績に近く、文学や芸術についての立ち位置については「シェテファン・ゲオルゲ-芸術哲学的考察」がよく特徴が出ている感じがする。

まずは単純に文章の上手さだけを味わうというのも有りかと思い、全12篇の冒頭1行半くらいづつ引用してみる。いずれも鮮やかな切り込み方だと私は思う。川村二郎の青春時代からの思いがこもった訳業もフィットしている。


 廃墟 1911
  ただ一つの芸術、すなわち建築芸術においてのみ、精神の意志と避けがたい自然の力との大いなるせめぎ合いが真の和解を迎え、・・・

 把手 1911
  絵画と彫刻の本来の使命は、物の空間的な形態を表現にもたらすことだと、近代の芸術理論は断定的に強調する。・・・

 アルプス 1911
  目に見えるものの美的な印象はその形に由来するという、広く常識と化した考え方は、美的な印象を規定するもう一つ別の要因、・・・

 橋と扉 1909
  外の世界にある物の像は、われわれにとっては両義的である。外の世界ではすべてが結びつけられており、しかもまた、・・・

 風景の哲学 1913
  数え切れぬほど度重ねて、われわれは戸外のひろびろとした自然の中を歩き、その時々に放心していたり気持ちを集中していたり・・・

 ベックリンの風景画 1895
  夏の真昼の魅惑。われわれをめぐるものみなが眠りに落ち、ひたと動かず、その不動の眠りがわれわれ自身をもやさしくあやし、・・・

 フィレンツェ 1906
  古代の統一的な生感情が自然と精神の両極に分解してからこのかた、直接的・具象的な存在が異質な対立物を精神と内面性の世界に・・・

 ヴェネツィア 1907
  芸術にその外側にある事物の掟を課するすべての自然主義とは無縁の場において、ひとつの真実への要求が、芸術に・・・

 額縁-ひとつの美学的試論 1902
  物の性格は、結局のところ、それが全体であるか部分であるかに依存している。ひとつの存在が自足し、・・・

 シェテファン・ゲオルゲ-芸術哲学的考察 1898
  さまざまな物やわれわれ自身についてのすべての認識が、秘密に満ちたその現実の、ほのかなうわべの光しか与えないとしても、・・・

 大都会と精神生活 1903
  近代生活の深刻な問題のかずかずは、優位に立つ社会、歴史の遺産、外面的な文化、生活技術に対応して、個人が自分の存在の・・・

 冒険 1910
  われわれの行うこと、経験することは、どれを取ってもみな二重の意味を担っている。それは固有の中心をめぐって旋回し、・・・

 

【付箋箇所】
10, 19, 40, 49, 53, 60, 71, 78, 83, 126, 140, 174, 176, 190, 192, 221, 222

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ゲオルク・ジンメル
1853 - 1918
川村二郎
1928 - 2008