読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ホラーティウス『書簡詩』(2017 講談社学術文庫)

『書簡詩』全二巻、文庫版として初の全訳(第1巻全20歌、第2巻全3歌)。ネット上での訳の評判は上々。電子版もあるようなので読めなくなるということはないだろうが、紙の本が好みの方は手に入れられるうちに購入しておいたほうがよいかと思われる。

伝統的に『詩論(Ars poetica)』と呼ばれる第2巻第3歌「ピーソー家の人々宛」は全詩の中でも別格の面白さがある。二〇〇〇年たっても詩の本質はなんら変わらないためなのだろう。

それでも、人の事績は滅び去るもの。
まして、言葉の誉れや流行がいつまでも生き続けることはない。
すでに廃れた言葉の多くが再生するだろうし、いつか廃れるはずだ、
いまもてはやされている言葉も。それは世の慣いのままであり、
言葉を使う裁量と法と規範はそこに委ねられている。
(第2巻第3歌「ピーソー家の人々宛」68-72行)

第2巻第2歌「フロールス宛」の手紙の中のホラティウスの自分語りも、読書する人間に訴えるものが大きい。

勉学に七年を費やし、重ねる齢を
本への愛着に捧げたのに、結局、立像よりも無口になったことも
よくあります。それを人々は腹を揺すって笑います。でも、ここでしょうか。
この世間の荒波、都の嵐のただなかでしょうか、
私が竪琴の響きに和した言葉を紡ぐのにふさわしいのは。
(第2巻第2歌「フロールス宛」82-86行)


ホラティウス、書を愛する二〇〇〇年前の同時代人。コンテンツとして接触できる状態にあれば、いくらでも変異体が増殖する可能性は秘めている。

 

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クイントゥス・ホラーティウス・フラックス
B.C.65 - B.C.8
高橋宏幸
1956 -