読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

柳瀬尚紀『ユリシーズ航海記 『ユリシーズ』を読むための本』(河出書房新社 2017)

一九九六年、岩波新書で発犬伝『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』が刊行されて二〇年、柳瀬尚紀訳『ユリシーズ』は完結することなく残されてしまった。発刊当時に読んで、今回二度目の通読となり、また、他のエッセイ、最後の完成訳稿である第十七章「イタケー」 を読んでみると、もう原文を読むか柳瀬訳で読むかしか選択肢はなくなってしまっている。語学力のない私は、残された柳瀬尚紀訳一択しかないけれど・・・。完訳最終版は丸谷才一・永川玲二・高松雄一共訳 『ユリシーズ』で一九六四年のもの。二〇二二年の『ユリシーズ』百周年に向けて、どなたか柳瀬訳に挑むような訳業を見せてくれるとありがたい。

 

彼は危険を冒さなかった、彼は期待しなかった、彼は失望しなかった、彼は満足していた。

何が彼を満足させたか?
実質的損失を蒙らなかったこと。実質的利益を他者にもたらしたこと。異邦人たちへの光。
(第十七章「イタケー」 p310)

 

一般的には「教義問答を模した形式」「科学的」な文章といわれている第十七章「イタケー」は、最後が一九〇四年六月十六日の出納表で終わっていることから、私は決算報告書の書き方にも似ているといえば似ているかなというイメージをもった。

 

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目次:
Ⅰ <出航の巻> ジョイス・翻訳・ことば
 ジョイス=パリの一九二二年
 『ユリシーズ』と『荒地』―奇跡の年一九二二年
 ユリシーズ=翻訳
Ⅱ <嬉遊の巻> ユリシーズはこんなに面白い!
Ⅲ <発見の巻> ジェイムズ・ジョイスの謎を解く(全)
Ⅳ <帰還の巻> ユリシーズ13‐18 試訳と構想
 断章―十三章・十四章・十六章・十八章
 第十七章「イタケー」
 第十五章「キルケー」(遺稿)

 

柳瀬尚紀『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』(岩波新書 1996)
https://www.iwanami.co.jp/book/b268248.html

 

ジェイムズ・オーガスティン・アロイジアス・ジョイス
1882 - 1941
柳瀬尚紀
1943 - 2016