読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

田中正之監修『ムンクの世界 魂を叫ぶひと』(平凡社コロナ・ブックス 2018) 明るい光線のなかでのムンク

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ムンク連投。

 

コロナ・ブックスは図版が大きく色彩も鮮明。意外にふくよかで生命感を湛える女性を描いた作品、たとえば「人魚」や木版画の「森へ」などの魅力は増している。ただ、ムンクの代表的な画にはもうちょっと暗いほうが禍々しさが薄れずにいいかもしれない。あまり知られていない後半生の崇高性へと歩みを進める画業を辿るときには、いい明るさ。ほかに、図版が明るくて気がついたことは、ムンクが青系の色を使うときの精神性の深さ。どちらかというと青光りしていることが多く、霊的なものが流れ出しているような印象ものってくる。たとえば「叫び」のなかの青の線や「たばこをもった自画像」の中心部分の流れるような青いオーラ、「森へ」の水平に走る青の線。


「写真でたどる生涯」では展示風景や制作風景を確認することができて、時代と地方性の違いのなかで作品に対しての距離感と親近感とが同時に味わえる。展示質や自宅アトリエのいずれでも作品が所狭しと並べられているのが印象的。

 

解説文は技術面・技法面の指摘が比較的多いのが特徴。

田中正之による「叫び」の解説から】

曲がりくねる空や海、そして大地と対照をなしているのが、極端に強調された遠近法によって描かれた道である。それは画面を斜めに走り、勢いよく後退し、画面に鋭い緊迫感を与えている。この極端な遠近法が、背景に描かれた二人の人物が一気に遠ざかり、離れていったかのような効果を作り出している。そのために前景で叫ぶ人物の孤独感が、いっそう強調されることになる。
(「遠ざかる道」p15)

 なるほど。ちゃんと勉強した人の解説はとても参考になる。

 

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エドヴァルド・ムンク
1863 - 1944
田中正之
1963 -
亀山裕亮
1992 -