著者の好みが鮮明に打ち出されている名僧案内。江戸期の四名の禅僧が著者ならではの視点から描かれているために、各僧のあまり触れられない新鮮な情報も含まれていて、ほかの書物と比べながら多角的に各人物を捉えるきっかけを与えてくれるような、記憶にも残りやすい著作。衒いのない良寛と盤珪が好きで、どちらかといえばアクの強い鈴木正三と白隠に居心地の悪さを感じているところが面白い。
白隠については、寺格が低い寺の僧侶であったために必要以上に攻撃的な振舞いをとることが多かったという指摘と、内観の法としての「軟酥の法」を含む「夜船閑話」の現代語訳が入っているところが、
鈴木正三については、「二王禅」と称される荒々しい禅の実践を説いた本人のみならず、その言行を伝える弟子の慧中の文章のくせの強い難解さについての指摘が、
盤珪については、公案を含めて漢語を用いない法話を、さらに現代語訳で繰り返し解きほぐし、生まれながらにそなわっている心の働きの間違いのなさを重視する「不生禅」という盤珪の禅思想の特異性が、
そして良寛については、迷いと悟り、楽しみと淋しさとのあいだで揺れ続けている、僧というよりはむしろ詩人としての心の清らかさと繊細さに対する共鳴が、
本書の内容を味わい深いものにしている。
良書。
紀野一義
1922 - 2013
大愚良寛
1758 - 1831
盤珪永琢
1622 - 1693
鈴木正三
1579 - 1655
白隠慧鶴
1686 - 1769