読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

仏教

続々日本絵巻大成 伝記・縁起篇1『善信聖人親鸞伝絵』(小松茂美編 中央公論社社 1994)

『善信聖人親鸞伝絵』は親鸞の曽孫にあたる覚如が、親鸞没後33年の1295年に自ら詞書を染筆し完成させた伝記絵巻。絵師は不明だが、絵からはしっかりした技量が伝わってくる。寺社の室内での場面が多く、比較的動きの少ない絵巻だが、描かれている人物…

鈴木貞美『鴨長明 ――自由のこころ』(ちくま新書 2016)

最新の研究を参照しながら新たな鴨長明像を提示しようとした野心的な著作。新書であるにもかかわらず研究書あるいは批判的な考察の多い批評といった印象が強く、鴨長明をある程度読んでいない人にとってはとっつきにくい作品であると思う。少なくとも鴨長明…

松長有慶ほか『即身 密教パラダイム 高野山大学百周年記念シンポジウムより』(河出書房新社 1988)

空海が即身成仏思想を説いた『即身成仏義』を中心に、西欧の学知の世界で新機軸を打ち出しながら研究を進める三人の柔軟な知識人をむかえて、空海思想の現代的意味をとらえようとしたシンポジウムの記録と、シンポジウムに関連した論考の集成からなる一冊。 …

松長有慶『訳注 声字実相義』(春秋社 2020)

『訳注 即身成仏義』についで刊行された空海訳注シリーズの第4弾。大日如来が現実化したものとして現われ出ている現実世界をかたちづくるものすべては塵すべては文字いう空海の密教思想を説いた『声字実相義』の解釈本で、平易な表現にもかかわらず、古くか…

松長有慶『訳注 即身成仏義』(春秋社 2019)

仏教一般に対して空海の思想の特異な点は、すべてが大日如来の発現であるとしているところで、物質も精神も本質的には違いがないという教えが説かれている。この点に関して本書では特に本論の第六章「生み出すものと生み出されるものの一体性」に詳しい解説…

松長有慶『空海』(岩波新書 2022)

新書で手に入りやすい空海最新入門書。真言宗僧侶で全日本仏教会会長も務めた高僧による、空海の著作をベースにした思想伝授に重きを置いた解説書。近作には、『訳註 秘蔵宝鑰』(春秋社 2018)、『訳注 般若心経秘鍵』(春秋社 2018)、『訳注 即身成仏義』…

大谷哲夫『道元「永平広録・上堂」選』(講談社学術文庫 2005)

日本において上堂という修行僧向けの法話をはじめたのが道元で、『正法眼蔵』とならぶ道元の主著『永平広録』全10巻には全531回分が収められている(第1巻から第7巻まで)。本書はそのうちから代表的なもの20篇を選んで、漢語原文に読み下し文と現…

道元『永平広録 真賛・自賛・偈頌』(講談社学術文庫 2014, 全訳注 大谷哲夫)

愁人愁人に向かって道うこと莫れ、無道愁人人を愁殺す 迷っている人は黙っとけというのは、たとえ正しくても、言い方によっては言論封殺の徒と思われても仕方ないところがあるけれど、反対に、すべての言説をそれぞれいいねといって放置するのもまたおかしな…

竹村牧男「『大乗起信論』を読む」(春秋社 2017)

『大乗起信論』は大乗仏教の数少ない綱要書のひとつで、一心二門三大四信五行の体系的な構成により、唯識・如来蔵・中観思想を統合的に示している。一心二門三大四信五行は、一心=衆生心、二門=真如門と生滅門、三大=体大と相大と用大、四信=真如および…

高崎直道『「大乗起信論」を読む』岩波セミナーブックス35 (岩波書店 1991)

岩波文庫での現代語訳と解説の仕事が1994年。それに先立つこと九年、1985年に全六回の岩波市民セミナーで行なった講義内容を書籍化したもの。高崎直道は如来蔵思想の専門家で、本書では、『起信論』の本覚・不覚・始覚の三極構造と、不生不滅の真如と心消滅…

竹村牧男『禅のこころ その詩と哲学』(ちくま学芸文庫 2010)

仏教学者竹村牧男の思想の根幹は臨済禅で、系譜としては釈宗演‐鈴木大拙‐秋月龍珉‐竹村牧男となる。著作における特色としては禅が大乗仏教であることを強く押し出しているところが挙げられる。本書の第七章「大悲に遊戯して<大乗>」のなかの小題のひとつに…

竹村牧男『華厳とは何か』(春秋社 2004, 新装版 2017)

Eテレ「こころの時代」2002年度のテキストをもとにした華厳入門書。比較的手に入りやすい華厳思想の入門書のなかでは、もっとも詳しい思想解説と経典読解ではないかと感じた。特に第二部は華厳思想入門から実際の経典への導きとしての道を示していて貴…

竹村牧男『親鸞と一遍 日本浄土教とは何か』(講談社学術文庫 2017, 法蔵館 1999)

他力浄土門の対照的な祖師の二人である親鸞と一遍を主に教学的側面から対比しつつ、日本浄土教の救いの理路を描き出した一冊。「信心の親鸞」に対し「名号の一遍」と言われる二人の念仏の思想を、特に三信(さんじん)の問題と還相(げんそう)の問題に焦点…

栗原康『死してなお踊れ 一遍上人伝』(河出書房新社 2017, 河出文庫 2019 )

一遍かっこいい!と思ったアナキズム研究者栗原康が書いた憑依型評伝。栗原康の文体は研究者が対象を扱うというよりも自分の経験と体感を溢れさせるようにしたもので、研究者というよりも作家と思って接した方が良い。すべてを棄てて念仏を広めるために日本…

慈円『拾玉集』(明治書院 和歌文学大系 58,59 久保田淳監修 石川一・山本一著 上巻2008, 下巻2011)

慈円の家集。全五巻、全五八〇〇首余。当時の歌人のなかでは極めて多作、且つ、極めて高い質での即詠が可能であった稀な才能をもった人物。 慈円は、九条家出身で天台宗の最高位天台座主を四度務めた平安末期から鎌倉初期にかけての僧、ということに一般的に…

ひろさちや『道元 仏道を生きる』(春秋社 2014)

道元の生涯をたどりながら思想と布教の展開を跡づけるという、いつもながらのひろさちやの語り口で成立している一冊。 ひろさちやが道元を見る時のポイントとなっているのは、貴族が没落し権勢が武家に取って代わられる鎌倉初期の激動の渦中にあった超名門貴…

ひろさちや『NHK「100分de名著」ブックス 道元 正法眼蔵 わからないことがわかるということが悟り』(NHK出版 2018)

著者曰く、『正法眼蔵』は禅の指南書としてよりも哲学書として読むのが好い。本書で扱うのは「現成公案」「弁道話」「生死」「仏性」「有時」「山水経」「洗浄」「諸悪莫作」「菩提薩埵四摂法」「八大人覚」の各巻と、『典座教訓』『普勧座禅儀』。大事なと…

ひろさちや『親鸞を生きる』(佼成出版社 2021)

ひろさちやの魅力は、自分が何度も仏典を読み込んで掴んだこれぞというものを、通念を超えたところで開示してくれるところにある。三桁にもなる全著作のうちのほんの数冊を読んだけではあるが、いままで読んだものにはすべて生き生きとしていて芯の通った独…

ひろさちや『法然を生きる』(佼成出版社 2022)

南無阿弥陀仏。 称名念仏、口称念仏、専修念仏の教えを拓いた法然の存在意義を単刀直入に語った著作。 既存宗派から激しい非難を浴びることになる念仏他力の思想は、国家体制を司る貴族や高級武士達のものではなく、一般庶民層の救済を念頭に置いた革命的な…

ひろさちや『空海を生きる』(佼成出版社 2021)

『空海入門』(祥伝社 1984, 中公文庫 1998)から37年、ひろさちや晩年の空海語り。空海の著作自体に言及することが多くなっているところ以外で語られる基本的な内容はほとんど変わりはない。空海像がより柔軟になり、超人色がすこし世俗的な光の下に見直され…

ひろさちや『空海入門』(祥伝社 1984, 中公文庫 1998)

学問的入門書というよりも、司馬遼太郎の『空海の風景』と同じく、資料を調べながら著者の想像の肉付けを加えていった小説風人物伝といった味わいの一冊。空海は平安時代に唐から密教を日本に持ち帰ったのではなく、密教系経典を持ち帰ったうえで密教そのも…

ひろさちや『一遍を生きる』(佼成出版社 2022)

踊念仏を興し、被差別民や芸能とも深いかかわりを持った鎌倉期の流浪の捨聖、一遍。その一遍の生涯と思想を『播州法語集』や『一遍聖絵』(『一遍上人絵伝』)に依りながら語り起こした、ひろさちや最晩年の著作。日本仏教の祖師たちのひとりである一遍の教…

柳田聖山『禅の語録1 達摩の語録―二入四行論―』(筑摩書房 1969)

禅宗初祖の菩提達摩と初期禅宗の僧たちの思想を達摩の語録という体でまとめられたもの。本文、読み下し文、現代語訳、注釈の四部構成。注釈が充実していて、本文に関係なくこちらだけをつまんで読んでいてもとても参考になる。また、読み下し文もどことなく…

末木文美士『『碧巌録』を読む』(岩波書店 1998, 岩波現代文庫 2018)

岩波文庫の『碧巌録』全三巻は1990年代の最新研究を取り入れた画期的な新釈でおくる文庫本として広く受け入れられたらしいが、実際に手にとってみると、読み下し文と注から読み解くべきもので、現代語訳がなくなかなかハードルが高い。図書館で取り寄せやす…

ディディエ・ダヴァン『『無門関』の出世双六 帰化した禅の聖典』(平凡社 ブックレット〈書物をひらく〉23 2020)

日本における「無門関」受容の歴史を、残された頼りない資料群を丁寧にたどり、現代にいたるまで描き出そうとしたフランス出身の在日仏教研究者ディディエ・ダヴァンのコンパクトな著作。『碧巌録』『臨済録』と異なり、中国本土ではほとんど顧みられない『…

ひろさちや『超訳 無門関』(中央公論新社 2018)

題に超訳と付いているが、よくある意訳抜粋本とは趣向が異なる。 本書は、中国南宋時代の無門慧開(1183年-1260年)によって編まれた公案集『無門関』を、現代語訳、読み下し文、解説で紹介したあとに、公案本則についての著者の自由訳である超訳を付け加え…

鈴木大拙『禅八講 鈴木大拙最終講義』(編:常盤義伸、訳:酒井懋 角川選書 2013 )

遺構の中から鈴木大拙晩年の講演用英文タイプ原稿を翻訳編集した一冊。文化の異なるアメリカ聴衆向けに書かれた論考は、仏教文化や仏教的教養から離れたところにいる現代日本人にとっても分かりやすく刺激的な内容にあふれている。そこに的確な訳注と編者に…

鈴木大拙+古田紹欽 編著『盤珪禅師説法』(大東出版社 1943, 1990)

不生禅の盤珪の重要性を見出し道元観照禅と臨済看話禅との違いを説いた鈴木大拙の手になる盤珪禅への導入書。先行して出版されている岩波文庫の鈴木大拙編校『盤珪禅師語録』(1941, 1993)をベースに、よりコンパクトにまとまった原典紹介がなされている。1…

秋月龍珉『禅門の異流 盤珪・正三・良寛・一休』(筑摩書房 1967, 筑摩叢書 1992) 抵抗者の真っ当かつ奇っ怪な姿

曹洞宗の黙照禅、臨済宗の看話禅、臨済系の寺から出た盤珪の不生禅、武士から曹洞宗の僧侶となった鈴木正三の二王禅、日本の禅の主だったところの流派の孤峰をたどることができる一冊。禅の「大死一番、絶後蘇生」の悟りとその後の生き様の四者四様を、多く…

有馬賴底『『臨済録』を読む』(聞き手:エディシオン・アルシーヴ 西川照子 講談社現代新書 2015)

臨済宗相国寺派管長に聞く禅語録『臨済録』の世界への参入の仕方。岩波文庫の『臨済録』を素人が読むと、問答に分別知が紛れ込む余地がでたら瞬時に否定されるという枠組みぐらいしか感じ取ることができないので、実際のところ何をめぐって対話がなされてい…