読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ヤマザキマリ『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』(集英社新書 2015)

マンガ家でエッセイストのヤマザキマリは17歳から単身イタリアに渡って油絵と美術史を学んだ筋金入りの美術専門家であり美術愛好家である。現在もイタリア在住で、主にイタリアでの日常的な芸術体験がもとになった精神の自由をうたいあげる知性の輝きがまぶしい。ルネサンス期の絵画を中心に西欧の画家をひろく取り上げ、同時期のルネサンスを体現する政治家や建築家や詩人にまで言及しているところに、ヤマザキマリの創作家としての力が感じ取れる。「変人」というキーワードで創作に関わる過剰な思い入れと活動力を持った人々を数えあげ、称揚していくさまは爽快の一語に尽きる。日本人離れした感覚が色濃く、そのためもあってか、歴史的な事象に対する捉えかたや作品評価について多少読み手と意見がちがうところが出てこようとも、ヤマザキマリの考え方の直截さには耳を傾けるべきところがあって、不快な感情がおこってこないから、たいへんなものだと感心する。最後に日本におけるルネサンス的人物として、作家の小松左京と、万能の僧侶空海を挙げているところもなかなか斬新で、印象に残る。
取り上げられている人物もヤマザキマリの嗜好がストレートに出ていて好ましい。

フィリッポ・リッピ、ボッティチェリラファエロミケランジェロレオナルド・ダ・ヴィンチ、アントネロ・ダ・メッシーナアンドレア・マンテーニャ、パオロ・ウッチェロ、ヴィットーレ・カルパッチョアルブレヒト・デューラー、ホルバイン、グリューネヴァルトピーテル・ブリューゲル、フェデリーコ2世、ダンテ、ペトラルカ、ボッカチオ、アンドレーア・パッラーディオ、ジョルジョ・ヴァザーリ、そして聖フランチェスコ

なかなか変化に富んだ面々で、歯切れのよい文章とあいまって、飽きさせず、「新しい芽生え」の感覚を与えてくれる。

shinsho.shueisha.co.jp


ヤマザキマリ
1967 - 

 

参考:

uho360.hatenablog.com