読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

渡辺広士編訳『ロートレアモン論集成』(思潮社 1977)

ロートレアモンは死後50年を経た1920年代にシュルレアリスムの帝王アンドレ・ブルトンが注目したことによってようやく読まれるようになった19世紀の特異な呪われた詩人で、本書にはその再評価の初期段階で書かれた7名のロートレアモン論と論考を翻訳集成した渡辺広士によるロートレアモンの生涯の案内文が収められている。

全体的に凶暴性を持った狂的な発露にアイロニカルな自己批判が重ねられる表現に埋め込まれた明晰さとユーモアのアマルガムを指摘している傾向が強い。また、悪を詠う『マルドロールの歌』と善に方向転換する『ポエジー』の二作品の対比と根底での繋がりについても言及される場合が多い。

特に、はじめてのまとまった詩人論ともいえる「ロートレアモン伯爵と神」でロートレアモンの詩の全体像を鮮やかに掬い上げたレオン・ピエール=カンと、『マルドロールの歌』から『ポエジー』を経て詩の放棄へと向かうさまをランボーの詩作と詩の放棄になぞらえながらたどるロジェ・カイヨワの抑制の利いた論考が印象的。ヘンリー・ミラーやアントナン・アルトーロートレアモン自身の詩の言葉にも匹敵するような凶暴さをもった文章があるなかで、ロートレアモンとは資質の明らかに異なるレオン・ピエール=カンやロジェ・カイヨワの文章でじっくり詩人像に触れていくことの貴重さも感じることができた。

バシュラールの優れたロートレアモン論の後に読んだために、期待に届かないで終わる予想もしていたが、『マルドロールの歌』だけでなく『ポエジー』の重要性に気づかせてくれたことで、悪い予想は裏切られることとなった。

【付箋箇所】
26, 40, 68, 83, 88, 95, 105, 118, 147, 149, 161, 164, 165, 169, 175, 177, 184, 202, 207

目次:
ロートレアモン伯爵と神 レオン・ピエール=カン
・マルドロールの歌 アンドレ・ブルトン
・マルドロールの問い エドモン・ジャルー
・生まれたばかりの三頭の小さな象で満足しよう ヘンリー・ミラー
ロートレアモンの手紙 アントナン・アルトー
ロートレアモン 熱狂と明晰 ロジェ・カイヨワ
・不滅のロートレアモン ジュリアン・グラック
・イジドール・デュカスの生涯 渡辺 広士


ロートレアモン伯爵(イジドール・デュカス)
1846 - 1870
渡辺広士
1929 - 

 

参考:

uho360.hatenablog.com