読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

堀田三郎訳『ウォレス・スティーヴンズ詩集』(英宝社 2022)

ウォレス・スティーヴンズはアメリカのモダニズムの詩人。世界的には著名で研究も多くなされていながら、日本ではなかなか紹介されることの少ない詩人の一人。現状もっとも手に入りやすいのは岩波文庫の『アメリカ名詩選』で、代表作のひとつ「アイスクリームの皇帝」を含めて4篇が対訳で収録されている。
本書はウォレス・スティーヴンズに魅せられた名古屋経済大学名誉教授堀田三郎が成した最後の仕事で、スティーヴンズの自選詩集300篇のうち108篇を収めている。全訳の希望も持たれていたなか、108篇で終わってしまったのは残念だが、多くの作品を日本語で読めるようにしていただいたことに、読者として感謝しなければいけない。世俗の荒廃感を描きながら、T・S・エリオットよりも現実を肯定的に、ユーモラスに描いているところにウォレス・スティーヴンズならではの特徴があることを、訳文のみから伝えてくれるところは大変貴重。「おだを上げる」や「蒟蒻問答」など、なかなか英詩の翻訳ではお目にかからない言葉を選択しているところにも特徴がある。言葉の貧しさと豊かさを同時に体現させているウォレス・スティーヴンズの詩への、最新の導入書。

後世に残ることが重要なのではなかった。
大切なのは その詩が
言葉の貧しさのなかで

言葉がその一部である惑星の貧しさのなかで
おぼろげであるにせよ なんらかの特徴や特色を
なんらかの豊かさを伝えることだった。

(「テーブルのうえの惑星」The Planet on the Table, 1953 より)

 

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ウォレス・スティーヴンズ
1879 - 1955
堀田三郎
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