読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

才野重雄訳注『ミルトン詩集』(篠崎書林 1976)

失楽園』以外になかなか翻訳がないミルトンのなかで、前期詩篇と後期の『復楽園』『闘士サムソン』が読める貴重な詩選集。しかも平明な口語調の翻訳で、読みやすく、詩に詠われた各場面が鮮明に印象づけられる。大修館書店から1982年に刊行された新井明訳『楽園の回復・闘技士サムソン』の解説において、先行訳紹介として署名だけ挙げられて、翻訳の質については直接的には触れられていないものであったが、一般読者向けということでは親しみやすい翻訳なのではないかと思う。17世紀に刊行された詩の言葉を現代日本の口語で訳しているとともに、韻文の形式にはあまりこだわらないがかなり原詩に忠実な訳なのではないかと、原詩やほかの翻訳と比べてみると感じる。

『闘技士サムソン Samson Agonistes 』65から69行目まで

原詩:

So many, and so huge, that each apart
Would ask a life to wail, but chief of all,
O loss of sight, of thee I most complain!
Blind among enemies, O worse then chains,
Dungeon, or beggery, or decrepit age!

 

才野重雄訳:

しかも、その不幸は数も多く、また大きいので、
一つの不幸を悲しむのに一生かかるほどだ。
だが、最大の不幸はわが身が盲目(めしい)であることだ。
敵の中にいて目が見えぬのは鎖よりも
土牢(つちろう)よりも、乞食よりも、よぼよぼの老人よりも、
はるかに悪い。

 

小泉義男訳:

大変多く、又非常に大きいので、その出来事は一つ一つ
嘆き悲しむのに一生を要するだろう。だが、就中、
ああ、視力の喪失、わしには一番お前が不満だ!
敵の中で盲目であることが、ああ鎖より尚悪い、
土牢、乞食の境涯、老衰した年令よりも!

 

新井明訳:

不幸の数は多く、また大きく、どのひとつを
嘆くにも一生を要しよう。ただ、なかでも
おお、視力の喪失よ。その嘆きは、底なし!
敵どもに囲まれて盲いるとは。おお、鎖よりも、
土牢(つちろう)、乞食、老いの境涯よりも、なお、惨め。

 

いずれにせよ複数訳あることは読者にとってはありがたいことで、訳文の違いによって気にかかって注目するところが違ってきたりするので、同一作品を複眼的に見るのがより容易になってくれる。


【付箋箇所(行数)】
歓楽の人
103-114, 

沈思の人
89-96, 167-174, 

コウマス
725-755, 1018-1023

復楽園
第一巻:268-285, 358-405, 459-464, 第二巻: 143-147, 第三巻: 48-73, 109-144, 第四巻: 10-24, 181-194, 323-330, 

闘士サムソン
20-23, 187-208, 269-276, 829-835, 1677-1696


目次:
キリスト降誕の朝によせて
賛歌
歓楽の人
沈思の人
コウマス
復楽園
闘士サムソン


ジョン・ミルトン
1608 - 1674
才野重雄
1908 -
新井明
1932 - 
小泉義男
1921 -