読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

池澤夏樹の詩

詩を書くことから文筆の世界に入って、後に小説家に転身、詩から離れるものの、『池澤夏樹詩集成』で過去の詩集を集めて再刊行したあたりから、継続して詩作をつづけてきた池澤夏樹。その詩作のほぼ全体を、三冊の詩集で読み通してみた。

1996年に書肆山田から刊行された『池澤夏樹詩集成』には、1978年の『塩の道』と1982年の『もっとも長い河に関する考察』が全篇収録されるとともに未刊の長篇詩「満天の感情」と拾遺詩篇4編、そして付録の栞に須賀敦子との詩をめぐっての対談が収録されている。
2001年に中央公論社から刊行された『この世界のぜんぶ』は「婦人公論」に1998年から2000年にかけて連載された詩篇から34編を選んで再構成されたもの。
2021年に書肆山田から刊行された『「メランコリア」とその他の詩」は1998年に刊行された詩画集「メランコリア」の詩の部分と、その後に折々に書かれた未刊行詩篇10篇が収められている。

45年分の詩を読んで感じるのは、老いや時代の進行をほとんど感じさせないこと。詩の型や、詩語の手触りは、その時々によってさまざまに変化してはいるが、架空の詩的世界をそれぞれ構築しているためか、時代の流れによる隔たりを感じさせない。物語的展開を取るものも多く、ストーリーテラーの資質を強く感じさせる。短い詩よりも長篇詩に印象深いものが多いのも、人物を登場させさまざまに動かすことで表現するのが得意なためであるのだろう。また、先行している作品に想を得て、新たな詩作品としてよみがえらせることも得意なようで、自身の新作とともに古典作品への橋渡しとなっている作品も多い。須賀敦子との対談では海外作品・翻訳作品への案内になっていたのに対して、自身の作品ではさらに日本の古典や神話、あるいは漢詩の世界にまで領域が拡がっているところにさらに幅の広さを感じさせる。

今年で78歳になる池澤夏樹。まだまだ新鮮な創作を送り出してくれそうな活力が文字から伝わってきた。

池澤夏樹
1945 - 
須賀敦子
1929 - 1998