読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ジョルジュ・ブラックの画集6冊

1.美術出版社 世界の巨匠シリーズ『ブラック』 レイモン・コニャ解説 山梨俊夫訳 1980 33×26cm

原色図版48葉、モノクローム図版72点。日本で出ている画集のなかでは、もっとも数多くのブラックの作品に触れられる一冊。
原色図版の作品ごとに付けられたレイモン・コニャの解説がよいので、その絵の良さや見るべきところが絵画を専門としない者にもよく分かる。視線を誘導するのに長けた文章が、ブラックの絵画に輝きと翳りの深まりを加えている。

付箋:10, 13, 16, 17, 20, 29, 41, 47, 53, 74, 86, 96, 104, 134, 142, 158, 162, 164

 

2.アートライフ『ブラック展』 千足伸行監修 1988 27cm 

1988年に開催された日本経済新聞社主催のブラック展の公式カタログ。油彩46点、水彩および素描12点、版画29点、彫刻5点、陶芸3点、全95点によるジョルジュ・ブラックの回顧展。フォーヴやキュビズム時代の作品よりも、その後にブラック独自の歩みをたどった静物画や風景画、デザイン性の強い鳥シリーズの作品が多いのが特徴。私は風景画四枚(「小麦畑」「野原」「鋤」「浜辺の小舟」)を集めた中央付近の見開きページにいちばん目を奪われた。
作品のカラー図版はテーマごとに集められていて作品自体でブラックの特徴を浮かび上がらせようという配慮が感じられる。解説はカラー図版の後に、カタログとして小さなモノクローム図版とともに年代順に並べられていて、ブラックの歩みを改めてたどれるようになっている。解説文はコンパクトで比較的あっさりしている。

 

3.集英社 現代世界美術全集15『ブラック/レジェ』 座右宝刊行会編 瀬木慎一解説 1983 41×31cm

ブラック35点、レジェ37点。解説の追加図版の数などから判断すると、どちらかといえばレジェ推しの印象が強い。ともにキュビズムから独自スタイルに変化していった作家ではあるが、ブラックのスタイル変遷のほうが頻繁であり、太い線に鮮やかな色彩で単純なフォルムのなかに現代世界を描くキュビズム以後のレジェ独自の作風は一貫している。より特徴が掴みやすくアクの強いレジェの作品を立て続けに見るのと、スタイルの違うブラックの作品を視点を切り替えながら少しづつ見ていくのでは、レジェの印象が強くなるのは致し方ないところだろう。ただ、現代世界美術全集は41×31cmとつくりが大きく、ひとつひとつの作品を質感を感じながらじっくり見るのには適している。ブラックの円卓シリーズや静物画は特に鑑賞しやすいような印象をもった。手帖『昼と夜』にないブラックの言葉が、ジョン・リチャードソンとの対話からピックアップされて掲載されているところもほかの画集にはない特徴。

 

4.中央公論社 世界の名画18『ブラックとキュビズム』 野間宏, 八重樫春樹, 高階秀爾著 1973 33×25cm

ブラック27点、レジェ22点、グリス9点からなるキュビズムの作家たちを紹介した画集。ピカソは独立した巻で紹介されているということもあり、キュビズム全般を知るというよりも、代表的画家のキュビズムキュビズムの運動前後の活動を概観できる画集という印象が強い。キュビズムという括りがあるので、この運動を展開していた時代の作品に比重が置かれ、その上でほかの活動が比較的満遍なく紹介されているところに特徴がある。なんとなくピカソも見たくなってくるところが不思議でもあり当たり前のようでもある。不在のものは気にかかる。

 

5.講談社 世界版画美術全集 第7巻『マティス/ブラック -フランスのエスプリ-』 岡田隆彦/本江邦夫編著 1981 27cm

マティス49点、ブラック48点。版画美術全集ということで油彩は収録されず、ポショワール、ドライ・ポイント、リトグラフエッチングといった版画での作家の活動を集めているところが特徴の画集。ブラックはリトグラフが25%、木版画10%、残りがとエッチングの作品といった配分になっている。鳥をモチーフとした作品と、ヘシオドスの『神統記』のために作成された15作が収録されているところが目を惹く。どことなくコクトーを想起させもするブラックの『神統記』、じっくり見ていると予想以上に繊細で、様々な形象が豊かに盛り込まれていることに気づき、ちょっとした驚きがある。油彩中心の標準的な画集ではあまり見ることのできないブラックの側面に触れることができるのが良い。

 

6.新潮美術文庫43 『ブラック』 串田孫一解説 1975 20×13cm

カラー図版32点に、作家と作品を紹介するために補助的に挿入されたモノクロの図版数点で、作家の全体像を気軽にそして正確に知ることができるすぐれた入門書的画集。また、少ない点数ながら「壺のある静物」「果物皿のある静物」の一対の縦長のめずらしい作品を取り上げているところなど独自色も持っている。単行本と同じくらいのサイズのコンパクトな画集で、寝転がって鑑賞できるところがなにより有難く、カラー図版の発色も鮮やかで、小さいながら細かいところまでよく見える。解説の串田孫一は作品自体を見ることに注力していて、自らの眼でつかみ、感じ取ったことを、まっすぐに表現していて気持ちがよい。信頼できる先行者という感じがして、本書以外の文章も読んでみたくなった。

 

※今回取り寄せることができたブラックの画集は6点とも1970~80年代に刊行されたもので、当時は出版業界も元気があったのだなという風に思った。団塊ジュニア世代の成長期であり、需要もかなりあったのだろう。21世紀の20年は団塊ジュニアのジュニア世代の成長期くらいにあたるのだろうけれど、少子化傾向もあるし、デジタル化でネット上でかなりの絵画作品に触れることができるとあって、紙の美術全集は新たには刊行されないのだろうなとあらためて思った。

 


ジョルジュ・ブラック
1882 - 1963