読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

柳宗玄『ルオー キリスト聖画集』( 学研:株式会社学習研究社 1987, サイズ 43 X 31cm )

出会いというものは運命だから、後々の自分への影響を考えて自由に選択できるものとは考えていないほうがいいが、仮に画家ジョルジュ・ルオーの作品を意識的に系統的に見てみようとするならば、かなり期待を裏切られずに鑑賞できる優秀な作品集。

日本独自のアンソロジーで、キリスト教美術に直結する作品に加えて、ルオー自身の生き方の根源にあるキリスト教的倫理観を通して見られた世界の姿を画家の創意のなかで発展させ変容させた想像の世界における幻像的作品を、基本的に年代順に掲載し分類した、価値ある導入書であり、優れた解説書でもある。

巻頭口絵を含めてカラー図版総数115点。時に本作を超えるサイズに拡張されて提示される図版は、選択された技法と時代ごとに変化していく表現様式をよく伝えてくれている。具象作品ではあるが、再現性よりも画材によるビジョンの創造に重きを置いているような画家の姿勢が、年齢を重ねるごとにより明確により大胆により洗練されていく様子が、ページを繰るなかで自然に了解されていく。版画作品は単色ではあるが、全篇が解像度の高いカラーの図版で紹介されていることで、作品の質感がよく伝わってくる。色彩の変化や人物像の捉えかたの変化が、グロテスクなもの悲劇的なものから天上的な栄光に包まれたものに移り変わっていく様子も、納得感をもって受領できる。

展覧会で現物を観ることには及ばないかもしれないが、各年代の代表的な作品を漏れなくじっくりと鑑賞できる画集を自室で好きな時間好きな姿勢で観ることは、かなりの満足感と気づきを得られる体験である。

ジョルジュ・ルオー
1871 - 1958
柳宗玄
1917 - 2019