読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『グランド世界美術 13 デューラー/ファン・アイク/ボッシュ』(講談社 1976 編集解説:前川誠郎 特別寄稿:野間宏 図版解説:勝國興)41×31cm

書名に表記されている画家は3名だが、内容的にはより広範な対象を扱っている画集。構成としては「ファン・アイクからブリューゲルまでの15,16世紀の初期フランドル絵画」と「デューラーの時代―16世紀のドイツ絵画」という二部構成で、ヨーロッパ北部の「<中世の秋>の絵画」をそれぞれ時代を追って概観できるようになっている。

41×31cmの大型本で、収められているのは大判の見ごたえのあるカラー図版83点(素描含む)と解説文をよりよく読み取るために用意されたすこし小さめのモノクロの参考挿図101点、総ページ数152ページで、半日は十分に楽しめる。

カラー図版を画家ごとにリスト化してみると以下のようになる

 

ファン・アイクからブリューゲルまでの15,16世紀の初期フランドル絵画」部:

ヤン・ファン・アイク 15点
フレマルの画家(ロベール・カンピン) 4点
ファン・デル・ウェイデン 5点
ボウツ 1点
メムリンク 2点
ファン・デル・フース 1点
トート・シント・ヤンス 2点
ダヴィット 2点
ボッシュ 7点
ピーテル・ブリューゲル(父) 8点

 

デューラーの時代―16世紀のドイツ絵画」部

デューラー 18点
グリューネヴァルト 9点
クラナッハ 4点
アルトドルファー 1点
ホルバイン 4点

 

解説はデューラーが専門で北方ルネサンス絵画全般に詳しい前川誠郎と同じく北方ルネサンス美術を専門とする勝國興が担い興味深い情報を提供してくれている。特にボッシュに関係する情報は新鮮だった。ひとつにはボッシュピーテル・ブリューゲル(父)の差異で先行するボッシュに対してブリューゲルが批評家意識を持った近代的な画家であるという指摘で、奇妙ではあるが祭壇画として作成されている大作が制作の中心にあったボッシュに対しブリューゲルはそれとは異なる世俗的なものへの志向が優勢であるという点が示唆されているところ、もうひとつとしては「快楽の園」の解釈として画面最下端右橋の黒衣の若い男の操る幻術をもって出現させているとするもの。ふたつめの解釈については美術界において標準的な解釈なのかどうかはこの先調べてみないとわからないものの、面白い解釈だと思った。

ほかに、小林秀雄が監修を務めていることもあってか、小説家の野間宏が自作『暗い絵』におけるブリューゲル解釈とそれを批判したやはり小説家の中野孝次の『ブリューゲルへの旅』への再批判を記した文章を寄稿しているところが時代を感じさせて面白かった。小説家が美術批評家ばりに自信をもって自説を開陳しているところに、小説家がいまよりもはるかに偉いと思われていた時代当時の空気感があふれ出ていた。

前川誠郎
1920 - 2010
勝國興
1934 - 
野間宏
1915 - 1991