読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『安藤元雄詩集集成』(野村喜和夫解説 水声社 2019)

安藤元雄ボードレールの『悪の華』を全訳したのは意外に遅く、1981年47歳の時で、自身の詩人の活動はそれよりだいぶ早く、1953年東大教養学部に入学し、学内の詩人サークルで入沢康夫や岩成達也などと知り合ったのち、シュペルヴィエルを卒論で選択、卒業年の9月に23歳ではじめての詩集『秋の鎮魂』を刊行している。それから61年、2018年までに刊行された全9冊の詩集を本書は収めている。

『秋の鎮魂』(1957) 23歳
『船と その歌』(1972) 38歳
『水の中の歳月』(1980) 46歳
『この街のほろびるとき』(1986) 52歳
夜の音』(1988) 54歳
カドミウム・グリーン』(1992) 58歳
『めぐりの歌』(1999) 65歳
『わがノルマンディー』(2003) 69歳
『樹下』(2015) 81歳

時に長い未刊行の時期があるにしても、生涯を通して詩集の刊行をつづける姿勢は一貫している。また、全期間を通して詩風にそれほど大きな変化はなく、厳しい批評意識に裏打ちされた深い諦念とそれでも頽れない抑制的なスタイルを貫いている。一冊だけ切り取って読むと鬱屈した否定的な印象が残りやすいが、青年期から老年までにいたる詩作を通して体感してみると、時代にも年齢にもあまり左右されない、静かではあるがゆらぐことのない抵抗と期待の姿勢が伝わってくる。

綿密で熱のこもった野村喜和夫の解説を読むと、もっと深く、安藤元雄の詩が存在することの意義について読み取っていかなくてはならないような気もするが、それにはもう少し読み返し、歩みをともにする時間を増やしていかなければ無理であろう。とりあえず野村喜和夫が取り上げた詩篇と、私自身が付箋チェックした詩篇の違いを見直して、次の機会を待ちたいと思う。

www.suiseisha.net

【付箋箇所(題)】
からす、銀杏、脚、真昼の壺、百年の帳尻、飛ばない凧、つぶて、越境、土饅頭、樹下(四の章)

安藤元雄
1934 -
野村喜和夫
1951 -