2011年にノーベル賞も受賞したスウェーデンの詩人の唯一の日本語訳詩集。俳句、ことに正岡子規に影響を受けている様子で、自身も俳句詩という形式で多くの作品を作り上げているだけに、もっと多くの翻訳があってもいいと感じる詩人。
『悲しみのゴンドラ』は1990年、60歳の時に脳卒中で倒れ、言語障害と右半身不随を患ったのち6年後に出版された、深い悲しみと生命の輝きの両面を見せてくれる詩集。失語の闇のなかから拾い出され磨き上げられた詩作品は、暗い色調の作品であっても、言葉が持つ救いの側面を感じさせてくれる。「死の板にいのちのチョークで書く詩人」という言葉で正岡子規を詠ったトランストロンメルは、自身も「いのちのチョークで書く詩人」であった。書くことが生きるということであった人なのだろう。
そそけた松が絡みあい
いたましさは その湿地にも
永劫のわびしさ
(「俳句詩」より)
とある大きな病院を訪れたわたしを夢に見た。
介護者不在。すべてが患者だった。その同じ夢に 首尾整った意見を語る
生まれたての女のあかんぼが居た。
(「悲しみのゴンドラ Ⅱ」より)
増補版の栞の各者の評は凝縮されていていずれも素晴らしい。読むことの才能というものもあると知らせてくれる8名。クリステル・デューク、エイコ・デューク、高橋睦郎、齋藤愼爾、野村喜和夫、黒田杏子、井坂洋子、中堂高志。
トーマス・トランストロンメル
1931 - 2015