カラー図版48点、モノクローム挿図33点。1作品ごとに解説を見開きで配してあるために、参照していると考えられる先行作品との関連や、採用されているエルンストが開発した多様な表現技法の数々についての焦点化が非常にわかりやすい。
河出書房新社刊行の「シュルレアリスムと画家叢書 骰子の7の目」シリーズのエルンストの巻とくらべると、カラー図版の発色自体が多少暗く、選択された作品の色調も暗いものが多いため、不穏な雰囲気を全体として伝える傾向が強くなっている。現実世界の位置ずらし、注視することで変容してしまう世界像、浮かび上がる幻視の世界が、丁寧な解説とともに年代順に展開されている。
私の作品が生まれてくるとき、私の画家としての役割は低められて、”見物人”のような立場になっているのが常だ。だから私の作品は、通常の芸術につきものの理性とか良き趣味とか道徳性とかいったもののコントロールを超越して生まれてくるのである。
フロッタージュ、グラッタージュ、デカルコマニー、コラージュなど、人為を超えた偶然を取り込む技法にも支えられながら、エルンストの作品世界は、作り手としての統覚を幾分溶解させ、非現実の浮遊感を付け加えられた希薄な物質世界となっているようだ。現実世界を攻撃したり非難したりするよりも、現実と隣り合わせにある幻を呼び出して、別世界と通信してしまっていることの危うさが表現されているような気がする。ちょっとしたきっかけでたちまち崩壊してしまいそうな儚さがある。
マックス・エルンスト
1891 - 1976