読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ベルナール・ジュルシェ『ジョルジュ・ブラック 絵画の探究から探究の絵画へ』(原著 1988, 北山研二訳 未知谷 2009)

フランスの近代芸術史家による本格的なジョルジュ・ブラック論。日本語版ではページの上部四分の一が図版掲載スペースになっていて、論じている対象や該当の時代を象徴する作品をたくさん取り上げている。図版数全227点。モノクロームでしかも限られたスペースにあわせて縮小された図版であるものの、総じて鮮明で細部までわりとしっかりと把握できて、何より日本の画集ではあまり見かけない作品の図版が含まれているところがうれしい。本家のほうはカラー図版ということで、さぞかし贅沢で行き届いた刊行物となっていることだろう。うらやましい。
セザンヌの影響を受けて絵画空間の自律性の探究を推し進めていったブラックの画業の全行程が、厳密かつ繊細に格調高く分析記述されている。

「三次元」――〈ミメーシス〉の全き虚構――に操作される変化を起こさずに、外的現実が画布の平面にこのように移行するとき、表現[再現=代行]のステータスは修正され、隠喩のための描写は放棄される。そうであれば、オブジェは「縮小され」ず、また「平らにされ」もしないで、オブジェを報告するのに必要とされるだけの造形的記号に転化されるのである。
(第三章「練り上げられる絵画」より)

ベルナール・ジュルシェの筆は、画家の思想を明確に描き出すとともに、作品を構成する記号と記号間の関係性に注意を向けさせ、作品ごとに、しっかりとどまりその世界を全的に感じさせるように誘っている。読者たるわれわれは、その誘いにのってよりよい作品体験をする機会を得るようになるだろう。

 

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【付箋箇所】
25, 39, 42, 102, 111, 116, 134, 163, 165, 166, 171, 192, 206, 219, 223, 224, 231, 232, 239, 241, 247, 248, 250, 290, 292

目次:

序文
第一章 セザンヌの影響を受けて
第二章 ザイルで体を結びつけられた登山者パーティー、ブラック=ピカソ
第三章 練り上げられる絵画
第四章 静かな生
第五章 意に反して
第六章 内部装置
第七章 消費される芸術

註釈
訳者あとがき
年譜
収録図版索引

ジョルジュ・ブラック
1882 - 1963
ベルナール・ジュルシェ
1953 - 
北山研二
1949 -