読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

藤富保男訳編『エリック・サティ詩集 増補版』(思潮社 1997)

既成の音楽の概念におさまらないような曲を書き続けたエリック・サティが楽譜に書いていた文章を、日本の詩人藤富保男が拾い集めて翻訳し、行分け詩の形に整えた作品集。音楽同様、いい感じに力を抜けさせてくれる。実生活では貧困とアル中とでたいへんなようであったが、残された音楽も言葉も、深刻ぶらず人を食ってかかっているようなところがあって、愉快。

蛸が穴のなかにいる
蟹と遊んでいる
蟹を追いまわす
蟹をまちがって飲み込んでしまう
ぎょろ としたが 無視してしまう
(「蛸」より)

もうすぐ没後100年となるが、ずーっと現代的というか、時代を超越しているところはすごいとしか言いようがない。

【目次】
スポーツと嬉遊曲
一世紀毎と瞬時の時間
大きな木の男のスケッチと誘惑する目付き
ひからびた胎児
子供のピアノ曲
三つの愛の歌
自動記述
官僚的なソナチネ
あらゆる方向に向けられた数章
最後から二番目の思想
気むずかしくて気取った三つの上品なワルツ
古い金貨と古い鎧


エリック・サティ
1866 - 1925
藤富保男
1928 - 2017