読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ハンス・ベルメール(1902-1975)の作品集 三冊

頽廃美。20世紀の戦争への怒りを込めた攻撃的な作品群は多くのシュルレアリストたちに受け入れられ、日本では1965年以降の澁澤龍彦の紹介によって広く知られるところとなったハンス・ベルメールは、20世紀ドイツの人形作家かつ写真家であり、画家としての活動もある芸術家。現代であればデジタル処理で人手を煩わせることなく、全部個人で作成からプリントアウトまでできてしまうであろうが、公序良俗に反するような作品の制作を手伝ってくれる業者・技術者を雇って作り上げている過程で増幅されたような情念が作品に感じられて、現代の状況の中で見てみると、より訴えかけてくるところもある。

1.
『ザ・ドール ハンス・ベルメール人形写真集』巖谷國士解説
エディシオン・トレヴィル 2004年

人形の写真に特化した作品集。作成時代順ではなく、色彩や形態や人形たちの質感の連続性を考えて作品が編集されているため、ページをめくった際に得られる心の揺れ方は、ほかの作品集に比べて大きいものがある。

2.
ハンス・ベルメール写真集』 アラン・サヤグ編著、佐藤悦子訳 、澁澤龍彦序文
リブロポート 1984

初期の人形作品から後年の緊縛写真まで、143点を収める集大成的な写真集。見開きで二点以上の作品が収められているがために、情報量が多すぎるためか衝撃度が少し落ちてしまっているような気もする。しかしながら写真家ベルメールの全体像を知ることのできる貴重な作品集であることは間違いない。

3.
ハンス・ベルメール』 サラーヌ・アレクサンドリアン、澁澤龍彦
河出書房新社シュルレアリスムと画家叢書〉骰子の7の目 第2巻。1974年、新装版2006年

油彩、デッサン、コンテ、グワッシュ、版画、立体オブジェ、人形とベルメールのほぼ全領域にわたる作品を紹介した著作ではあるが、特に画家、挿絵画家としての側面に比重が置かれている。クライストの『マリオネット劇』やバタイユの『マダム・エドワルダ』は実作への強烈な誘いともなっている。油彩画は肖像画も描いたマックス・エルンストの世界に近いものもあるが、エルンストより写実的で精緻に描きこもうとする傾向がみられる。多彩な芸術家であったことがよくわかる作品集。

 

ハンス・ベルメール
1902 - 1975
澁澤龍彦
1928 - 1987

 

www.kawade.co.jp