岡鹿之助の作品は、ある時いっぺんに粒子化して霧散してしまいそうな儚げな佇まいを持っている。
煙突から煙が出ていたり、花瓶に花が生けられていたり、道には轍や人が歩いた跡があったりして、日常的なところも描かれているのに、この人の作品からは、人のにおいがしない、生活や生産活動のにおいがしない。人の世界とは次元を異にしているかのような幻想的な風景や静物で画面が埋められている。喧騒とは離れた世界。
濃い色の絵の具をかすらせるるようにして淡い色を表現する岡鹿之助独特の点描画法は、乾いていて、しかも重さを取り去ってしまったような物の数々を描き上げ、総体として、現代的メルヘン空間を作り、時間を止めてしまっているかのようである。
画集だからそう感じるのか、現物を見ても同じような感想を持つのかは分からないが、画集で触れるだけであっても、岡鹿之助の個性、特異さは感じ取ることが可能だ。
カラー図版52点、大型本で鑑賞する岡鹿之助(1898-1978)の絵画の世界。評伝と作品解説は三木多聞、作家評「岡鹿之助の藝術――秩序と静寂」を福永武彦が書いている。福永武彦は岡鹿之助の作風を文人画と比較していたりして、かなり面白く、エッセイとしてもよく書けている。文人画との類似ということに関しては、精神性を表現している絵画というところでは共通点はあるだろうけれど、気韻生動といった雰囲気は岡作品にはないように私には思えるのだが、はたしてどうだろうか。