読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『日本の名画2 高橋由一』(中央公論社 1976)34×26cm

日本最初の洋画家と言われる高橋由一画業をカラー図版48点と、絵画に強い比較文学者であり作家の芳賀徹のエッセイ「洋画道の志士――高橋由一の精神史」と、美術評論家青木茂による評伝・作品解説からたどる大型本の作品集。

残存作品が限られているということもあって、本画集に掲載されている作品で、ほかの作品集に見られないものは少なく、その点新鮮味はないが、大きめのサイズで鑑賞できるところは優れている。1977年作の「鴨図」が載っているのが珍しい感じがする。そのかわりというか1879年の「鯛」が収録されていないのは少し残念。

高橋由一をめぐる文章に関しては、芳賀徹にしても青木茂にしても、由一が息子の源吉に筆記刊行させた『高橋由一履歴』という小冊子から多くの文言を引きながら人物評や作品評を行っているのが印象に残る。愚直で頑固一徹の精神の神聖さが創造物にも宿ることが実践として証明されているのが高橋由一の油彩画作品であるが、自身の言葉によっても高橋由一創作の特異性が裏付けられているところが見て取れる。

絵事ハ精神ノ成ス業ナリ 理屈ヲ以テ精神ノ汚濁ヲ除去シ 始テ真正ノ画学ヲ勉ムベシ

伝統的な職人としての絵師としてのあり方ではなく、作品を創造する芸術家として立とうとした高橋由一。この日本最初の人物に対しての評価に関しては、常に割り増し感があることは否定できない。作品そのものの達成度に加えて、創始者あるいは開拓者としての威光が多くの場合作品を取り囲んでいる。そのような傾向のなかにあって、基本的に絶賛に近い芳賀徹に対し、青木茂の解説は由一の絵画の技量に対する評価に遠慮がなく、文章と引き比べて作品を改めてみてみると、現代的な視点からの貧弱さや生硬さが目立ち意識するようになる。それでも残る由一ならではの精神性や迫真性を再確認するとともに、創始者だからといって無闇に持ち上げすぎるのもよくないと反省させられるという、めずらしい文章であった。

 

高橋由一
1828 - 1894
芳賀徹
1931 - 2000
青木茂
1932 - 2021