読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

飯吉光夫編訳 ローベルト・ヴァルザー『ヴァルザーの詩と小品』(みすず書房 2003)

ローベルト・ムージルフランツ・カフカヴァルター・ベンヤミンヘルマン・ヘッセ、またブランショスーザン・ソンタグなど錚々たる面々から高く評価されているローベルト・ヴァルザー(1878-1956)は、スイス生まれのドイツ語の詩人であり散文作家。本書は日本で独自に編まれた選集で、処女詩集全42篇と折々の散文小品50篇が選ばれている。全般的に繊細で内向的な青年の夢想といった趣きが強く、世間との折り合いをつけられない人物を描く哀感が強い作品と、甘く軽い想像上の恋愛譚が多い。文学的にはこれといった特徴がある作品ではないようなのだが、ときどき胸に残る哀切な表現で読者をハッとさせる。

音楽の調べは、短剣の刃によるあまりにもかすかな刺し傷である。その傷はひりひりと痛む。しかもその傷口に膿は生じない。血のかわりに憂愁と悲哀が滴りおちる。
(「音楽」より)

ヴァルザーの作品はスーザン・ソンタグによって「散文によるパウル・クレーである」と評されたことから、パウル・クレーの絵と組み合わされた詩画集『日々はひとつの響き ヴァルザー=クレー詩画集』が2018年に日本で企画出版されている。本書『ヴァルザーの詩と小品』では、作家の兄で画家であったカール・ヴァルザーの挿絵や油絵と組み合わされていて、より作品と作家自身の雰囲気に近い映像を提供してくれている。なかには肖像画も含まれていて、精神を病んでしまうことが宿命づけられてでもいるかのような線の細さと地上での余所者感が漂っている。

ヴァルザーには詩と小品のほかに小説があり、特にベルリン時代30歳前後の3つの小説『タンナー兄弟姉妹』『助手』『ヤーコプ・フォン・グンテン』の表現に独特な感触があるという。カフカが称賛したのはこの時代の作品ということなので、本書の詩や商品とはイメージの違うヴァルザーがいるのかもしれない。

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【付箋箇所】
3, 92, 99, 107, 109, 122, 123, 129, 130, 137, 210


ローベルト・ヴァルザー
1878 - 1956
飯吉光夫
1935 - 

参考:

uho360.hatenablog.com